開幕前の解説者の予想を覆す健闘

 ファイターズは交流戦直前だ。昨夜の楽天5回戦(5/24)は則本昂大、田中正義両クローザーが2失点する大波乱(則本は今季初失点!)だったが、何とか延長戦で勝利することができた。来週からしばらくパ・リーグの戦いはお休みになるので、ざっくり総括しておいていいタイミングだと思う。今季ここまでのパ・リーグを簡単にまとめると「ソフトバンクの異次元の強さ」と「V3王者オリックスの意外な低迷」ではないか。開幕前の解説者予想ではこの2チームがパの軸になると言われていた。そのなかで(首位までだいぶ遠いが)ファイターズが2位につけているのは大健闘だ。現状、西武が最下位の泥沼に沈んでいるが、去年まであの位置にはファイターズがいたのだ。
 
 データにもはっきり示されているが、2年めの今シーズン、エスコンフィールドはやっとファイターズの「本拠地」になったんだなと思う。去年は自分たちが球場のサイズ感や天然芝グラウンド(とその切れ目)の感覚に戸惑って、ホームチームの強みを発揮できないでいた。今シーズンはホームで無類の強さである。バントの転がり方、外野フェンスやファウルゾーンの距離感、場内演出や球場の風景へのフィット感が見て取れる。すごい簡単に言うと慣れたのだ。慣れて使いこなせるようになった。
 
 そしてもうひとつ、同一ポジションに複数のレギュラー級を置いて、競わせる方針が功を奏している。これも簡単に言えば層が厚くなった。まぁ、単に「層が厚くなった」だけではドングリの背比べになるかもしれないので、ここでは競争がキーである。ファイターズはこれまでスター候補として手厚く保護されてきた清宮幸太郎、野村佑希を(ケガ、不振など事情はありながらも)レギュラーから外した。レギュラーは用意されているものではなく、奪い取るものだと示したのだ。いや、もっと言えば「レギュラー」という考え方自体、違うとも思える。出場機会が欲しいんだったら、一試合でも一打席でも多く奪い取れ、という感じだ。若い選手を中心に目の色が変わっている。それははつらつとした、風通しのいい雰囲気を作り上げている。

一軍当落線上の選手が大飛躍

 絶対的なレギュラーではなかった選手が、出場機会を得て、今、何者かになろうとしている。今シーズンのファイターズに横溢する空気はそれだ。僕は06年シーズンの森本稀哲、田中賢介を思い出している。ひちょりも賢介も06年開幕の時点ではレギュラーではなかった。2人とも「1軍半」の選手で、何度も挑戦しては1軍の壁にはね返されていた。が、時と所を得て飛躍したのだ。あの年、人生を変えた。ため込んだエネルギーを一気に放って、チームをけん引する役割を果たした。どうだろう、今シーズンの田宮裕涼、郡司裕也、水野達稀を見ててそれを感じないだろうか。
 
 田宮裕涼が規定打席に達し、打率ベストテン上位にいきなり顔を出したのも交流戦直前のエポックだ。僕は田宮に驚いている。今春、開幕スタメンをゲットしたときに当コラムで大きく取り上げたけれど、あれは「2軍で頑張ってた田宮がついに開幕マスクを任されることになった」という感激だ。いわば苦労してきた選手が報われるストーリーだ。捕手はチームで最も競争の激しいポジションの1つだから、チャンスをモノにしたのが嬉しかったのだ。まさかこんなに打つなんて想像しない。僕は鎌ケ谷で田宮のバッティングを見てきたのだ。捕手にしてはいいバッティングセンスを持ってると思っていた。だけど、今の田宮はクリンアップの一角を任されたりする「主力打者」じゃないか。きれいな流し打ちで左中間を割るシーンを見ていると、近藤健介の再来に思える。
 
 僕は正直に自らの不明を恥じる。いやもう、喜んで恥じる。田宮が打率ベストテン上位&盗塁阻止率リーグトップをマークし、オールスター中間発表で捕手部門1位スタートを切るなんて思ってもみなかった。これこそ僕の野球道楽の最上位の愉しみだ。「選手が自分の身の丈をひょいと飛び越える瞬間に立ち会う」。これまで万波、野村が突っ走っていた「18年ドラフト組」の先頭集団に割って入る大活躍だ。野球界ではよく「化ける」と表現をする大飛躍ぶり。しかも、捕手としてまだまだ伸びしろがある。ぜひ、オールスターに出てほしい。本当に「人生が変わる」ってやつだ。
 

今、見ていて最高に楽しい

 オールスターという意味では、郡司裕也もすごい。去年の開幕時点で、本人もまさか自分が来年、パの三塁手部門で1位を走ってるなんて考えたこともなかったろう。中日でずっと2軍暮らしを続け、チャンスに飢えていた。清宮の出遅れを見て、サードへのコンバートを志願したのも出場機会を求めてのものだ。出れるなら外野だってどこだって守るし、何番だって打つ。その意識がいちばん前面に出ているのが郡司という選手だ。またバッティングがめっぽう勝負強い。状況判断にすぐれ、繋ぐバッティング、決めにいくバッティングをしっかり使い分ける。郡司の個性はチームを強くしていると思うのだ。あんな能力の高い選手が懸命に出場機会を求めている。どちらかというとおっとりしていたファイターズのチームカラーが変わっていく。
 
 気がつけばファイターズの選手はみんな、今、何かを証明しようとしているのだ。水野達稀は守備がどんどんうまくなり、バッティングでは主力の風格を示しつつある。水谷瞬は才能開花の瞬間を迎えている。万波中正、田中正義はパの顔に成長しようとしている。もちろん野村佑希、清宮幸太郎はポテンシャルを満天下に示す必要がある。そうしたすべてがチームに勢いをもたらしている。
 
 そりゃソフトバンクは強大だ。しばらく交流戦で当たらなくて済むのがありがたいほどだ。だけど、ファイターズは今、見ていて最高に楽しい。「ぐんぐん郡司」じゃないけど、みんながぐんぐん成長している。直近では堀瑞輝、田中正義のリリーフ失敗を打線がカバーしたりしている。言っておくが投手も野手もミスをする。去年まではミスをしたらそれっきりだった。良いチームは仲間のミスをカバーする。そうやってチームが1つにまとまっていくのだ。さぁ、交流戦ではどんな経験をするだろう。小説でいえば「ページをめくる手が止まらない」感覚だ。