救世主となった背番号31



ウイニングボールを手に笑顔を見せる明大・松本。苦労が報われた[写真=矢野寿明]

【5月12日】東京六大学リーグ戦(神宮)
明大6-2立大(1勝1敗)

 背番号31が明大の救世主となった。

 明大は立大1回戦を落とし、昨春以来のV奪還へ事実上、あとがなかった。東大との開幕カードを連勝スタートも、早大戦を1勝2敗で勝ち点を落とした。過去の傾向からも、リーグ優勝のラインは「勝ち点4」と言われている中で、明大にとっては残り3カードは瀬戸際の戦い。しかし、立大1回戦で持ち味を発揮することなく、相手校の先勝を許した。

 同1回戦では不動の「三番・遊撃」の主将・宗山塁(4年・広陵高)が上半身のコンディション不良により欠場。攻守の大黒柱の不在は、あまりにも大きかったように映った。しかし、戦いは続く。意地を見せるしかない。

 崖っ縁の立大2回戦で「人間力野球」を体現したのが先発・松本直(2年・鎌倉学園高)だった。今春にリーグ戦デビュー。開幕カードの東大1回戦では救援で3回2失点と神宮の厳しさを味わったが、しっかりと立て直してきた。早大2回戦では二番手で2回無失点、早大3回戦では初先発を任され、3回無失点とゲームメークした(チームは延長11回の末に0対5で敗戦)。

 明大・田中武宏監督からの信頼を得て、2試合目の先発となった立大2回戦で5回3安打無失点。6回以降は3投手がつなぎ、明大は6対2で逃げ切り、松本はリーグ戦初勝利を飾った。

たたき上げの象徴


 鎌倉学園高時代は最速148キロでNPBスカウト注目の存在だった。だが、3年春は県大会初戦(2回戦)で敗退し、同夏も神奈川大会3回戦敗退と力を出し切れなかった。高校3年間、「文武両道」を追い求めてきた自負があった。同校の先輩が明大野球部に在籍していたこともあり、一般入試で挑戦。夏以降の猛勉強の末、情報コミュニケーション学部情報コミュニケーション学科に現役合格した。


5回3安打無失点。気迫の投球で、立大との対戦成績を1勝1敗のタイとした[写真=矢野寿明]

 1年間は地道に、基礎基本を反復。この春のオープン戦で抜てきされ、自己最速を152キロに伸ばした。田中監督が投手陣に求めるのはスピードではなく、制球力。松本はこの要望に応え、さらには心の強さもあった。「松本は這い上がってきた」。田中監督も一般入試で明大に入学。猛練習で外野のレギュラーを奪取した経緯があり、自身のキャリアと重ね合わせていたのだ。練習の虫こそ、神宮で頼りになる。激しいチーム内競争を勝ち抜き、神宮で指揮官の期待に応えて見せた。

 明大の投手陣は10番、20番台の背番号を着ける中で、松本は「31」。まさしく、たたき上げの象徴である。強気な性格も、プレーヤーとしての支え。開幕前にこう語っていた。

「スポーツ推薦組に負けたくないという思いはもちろんありますが(一般入試組という)レッテルはなしにして、明治の一人として見てもらえるような選手になりたいです」

 反骨心。学生の本分をまっとうする松本は、まさしく野球部員の鑑である。

 この日は、母への感謝とがん検診啓発活動の支援を目的としたイベント『BIG6 HAPPY MOTHER'S DAY』が開催された。選手たちはオリジナルリストバンドを着用してプレーし、スコアボードの表示もピンク色の特別仕様となった。松本は神宮のスタンドで応援していた母へ、最高の恩返しができた。

文=岡本朋祐