Text by ISO
Text by ヨシノハナ
Text by 生田綾

北条司による人気漫画を実写化したNetflixのオリジナル映画『シティーハンター』の配信が始まり、Netflix週間グローバルTOP10で初登場1位を獲得するなど反響を呼んでいる。主人公・冴羽獠を務めたのは、本作の熱烈なファンでもあり、長年にわたって冴羽獠を演じることを望んでいたという鈴木亮平だ。


配信後初となるインタビューで、並々ならぬ思いを込めた本作に参加した感想を聞いた。


—まずは実写版『シティーハンター』の世界1位獲得おめでとうございます。大ヒットスタートを果たしたいまの気持ちはいかがですか?


鈴木亮平(以下、鈴木):ほっとした、というのが正直なところですね。大好きな原作ということだけあり、お預かりするプレッシャーがいままでのどんな作品よりも大きかったので、反響がしっかりあって安心しました。


だからまだ嬉しいとかって感情が追いついていないんですよね。本当にたくさんの人に関わっていただいて、僕のわがままを通しながらもやらせていただいた作品なので、まずはきちんとみんなに観てもらえて良かったという気持ちです。


—鈴木さんは昔から原作のファンで、俳優を始めたころから冴羽獠を演じたいと思っていたと伺いました。もともと「シティーハンター」とはどのように出会い、惹かれていったんでしょうか?


鈴木:世代的にはリアルタイムではないんですが、初めて「シティーハンター」に触れたのは小学校高学年のときの再放送アニメでした。そこから漫画を集めて、ドラマCDや小説版を買ったりして。惹かれた一番の理由はそのギャップでしょうね。今回の映画でもこだわったポイントなんですが、格好良さとお笑いの波がリズム良く入れ替わっていく二面性が「シティーハンター」の大きな魅力なんだと思います。ギャップがあるから、格好良さもお笑いも引き立っているんですよね。


—長年憧れだった冴羽獠役のオファーをもらった時の心境はいかがでしたか?


鈴木:オファーがあるまでは「いつか演じられたら良いな」と思っていたんですが、それが現実になった途端にその重みを感じました。それまで僕のなかでイメージしていた実写化のビジョンもあったんですが、実際に携わるとなると世界中の人に作品を届けるためにはどうすれば良いのかといった具体的なことを考えていかなくてはいけませんよね。


そのために大切にしたのは、自分が冴羽獠を演じるということだけではなく「シティーハンター」の世界観をどう作品に落とし込んでいくかということです。俳優として演じるだけでは世界観の構築はできないので、演技以外にも積極的に関わって、いつもより責任を持って届けなきゃいけないなと強く思いました。


—好評を博している今回の『シティーハンター』ですが、作品を牽引していたのは鈴木さんが演じる冴羽獠の解像度の高さだと思います。実写化にあたり、獠のキャラクターをどのように作りあげたんでしょうか。


鈴木:映画のストーリーは原作の序盤部分であることは決まっていたので、そうなるとどういう冴羽獠になるかなと考えたんですが、じつはつくり込み自体はほとんどしていなくて。というのも僕は「シティーハンター」のファンになったときから30年間くらい冴羽獠とともに暮らしてきましたし、自分が冴羽獠を演じるなら、どんな服を着て、どういう髪型で、どういう台詞回しをするかな、というのはどこかでずっと意識してきたので、今回あらためて役をつくり込んだという印象はあまりないんですよね。


喋り方や声に関しても、僕の頭にはもう神谷明さんが刷り込まれているんですよ。「か〜お〜り〜!」って言うときはダミ声になるし、「もっこりちゃん!」って言う時はトーンが上がりますし。モノマネにはしたくなかったんですが、同じような声の出し方をすると自然に似るんですよね。視聴者の集中を妨げないよう「真似」はしないようにしようと思っていたんですけど、寄せようとしていなくても演じたら神谷明さんに近い声が自分なりに出ちゃうので、それはもう止めなくていいかなと。


—ヘアスタイルも見事ですよね。本作のポスターを見たときは漫画やアニメと少し異なるなと思ったのですが、実際動いている姿を観たら冴羽獠の髪型としてぴったりハマっていて驚きました。


鈴木:今回の役をもらう前に冴羽獠の髪型をメイクさんにつくってもらったことがあるんですけど、僕の骨格や耳の形で原作そのままの髪型にするとあんまり冴羽獠に似ないんですよ。実物の「冴羽獠っぽさ」ってどういうのだろうと考えた末にたどり着いたのがあの髪型で、結果として、なんとなく現代の冴羽獠感が出たんです。不思議ですよね。

—原作ファンと新規の視聴者、その両者に作品を楽しんでもらうために意識したことはありますか?


鈴木:それは僕の演じ方というより脚本の力が大きいですね。今回ははじまりの物語ということで、「シティーハンター」を知らない人が観てもわかる内容にする、というのはすごく意識した点です。はじまりの物語だからといって原作のまま序盤を実写化していたら、ハードボイルドすぎてファンのイメージする「シティーハンター」はおそらく伝わらない。


「シティーハンター」とは何ぞやと考えたときに、中盤以降の笑いの多さというのはすごく大切なんですよね。その笑いという部分をしっかり物語に組み込んで、「シティーハンター」という作品の核を初めての人にも伝えられる脚本にすることが大切でした。そして「シティーハンター」において大きな存在である、槇村が大切に描かれているのは重要なポイントですよね。


—脚本といえば、香がハンマーを手にする自然な流れが最高でした。


鈴木:あれは上手ですよね。日本っぽさもあり、海外でも人気があるコスプレというカルチャーをフィーチャーしたのも現代的ですし、すごく考えられているなと思いました。


—渾身のもっこりショーが大絶賛されていますね。振り付けは鈴木さんが考えられたとのことですが、そのプロセスを教えてもらえますか?


鈴木:脚本には「もっこりショー! もっこりショー!」とだけ書かれていたんです。それはどういう踊りなのか想像を膨らませていたときに、監督がもっこりショーはどっこいしょー=ソーラン節のパロディなのではと読み解いてくれて。それで僕がもともと知っていた南中ソーランのリズムをベースに、愛されて、かつ馬鹿らしい踊りをイメージしたんです。現代に獠がいたら絶対アキラ100%さんや、とにかく明るい安村さん、ウエスPさんとか大好きじゃないですか。だからそういう芸人さんのネタを参考に、自分で振り付けを練っていきました。


—もっこりショーなど「シティーハンター」の持ち味でもあるお下品さはきちんと担保しつつ、不快感は与えない絶妙なバランスが保たれた作品になっていましたね。今回実写化するにあたって現代的にブラッシュアップされたポイントを教えてください。


鈴木:脚本会議にもよく参加させてもらったんですが、どこまで表現するかという点は皆で念入りに話し合いを行ないましたね。たとえば「もっこり」という言葉はアリかナシかという部分から始まり、相手の同意なしには触らないとかルールを決めたり。新宿の多様性を描くという点でも、描き方によっては社会の偏見を助長する可能性もあるので気をつけました。令和の日本の観客が愛してくれる『シティーハンター』も大切ですし、同時に海外の人が観たときにはそれがどう捉えられる可能性があるかというところも、会議ではしっかり議論していきました。


そして獠の復讐に香がついてくるだけのような、男性が女性を守り物語が進んでいく昔ながらの話にはしないということも意識されています。本作では香が主体的に動くことで、獠がくるみと出会えたり、解決の道が開けたりと物語が進んでいくんですよ。戦闘においても香は最初はあまり参加しないかと思いきや、物語が進むにつれ相棒として変わっていった香のおかげで勝てたという流れになっていくのもアップデートされている部分だと思いますね。


—舞台挨拶のときに、共演者の皆さんが鈴木さんのことを鈴木監督と仰っていましたよね。


鈴木:例えば、「シティーハンター」における槇村と冴子の関係性がいかに重要かは皆さんと共有したいと思っていました。原作で2人は微妙な恋仲なんですが、脚本ではそれをはっきりとは描いていません。でも槇村が冴子と話すときや、冴子が槇村の死の真相を獠に伝えるときに、それとなく雰囲気だけで感じさせてほしいなと思いまして。


ただ、あまりにファン目線でつくると観る側もファンしか楽しめない作品になってしまうので、そこは佐藤(祐市)監督がうまくバランスを取ってくれました。僕がファン目線になりすぎているときに、それをやっても初見の視聴者はサッパリわからないよと意見してくれたり。たとえば音楽にしても僕としては原曲のまま使ってほしいと思っていたんですが、音質や時代感の問題もあるし、そこまですると新規のお客さんは付いてこれない可能性もあるじゃないですか。そういうところも監督が冷静に判断してくれていました。


鈴木:終盤のガンアクションシーンに関しても、あらかじめアクション監督と僕でつくったビデオコンテ(どういう動きをするか事前に撮られた、絵コンテの映像版)では、背後に“FOOTSTEPS”というアニメの挿入歌を原曲のまま充てていたんです。でも監督は作品全体を俯瞰して、その部分だけトーンが浮かないように、実際のシーンでは大幅なアレンジを加えた“FOOTSTEPS”を採用していました。パッと聴いただけではわからないんですけど、ファンなら戦闘の途中で気付く「わかってる」感を監督は狙ってくれました。センスが良いですよね。


—そういうイースターエッグが仕込まれているのは嬉しいですよね。音楽といえばラストに流れる“Get Wild”もTM NETWORKさんの手で新たに生まれ変わっていましたね。トーンが少し違っていて新鮮でした。


鈴木:僕は原作原理主義者だから(笑)、最初に聴いたときは原曲との違いが少し気になったんですよ。前奏の部分は原曲と一緒なんですけど、途中から入ってくるギターの旋律が原曲より立っていて。でも2回目に聴いたときに「そうか、これははじまりの物語としてつくってくれているんだ」と理解したんです。アニメだとED曲ということもあって少し寂しい印象もあるんですが、今回のバージョンは終わりというかは「こっから始まるぜ!」という勢いや躍動感がある。タイトルも“Get Wild Continual”と、「継続」を意味する“Continual”が付いているんです。だから2回目に聴いたときはハマっているなと思いましたし、そこにも皆で持ち寄った「シティーハンター」愛がしっかり込められていますよね。

—今回特別にエンドロールを最後まで堪能できる仕様にしてくれたのは嬉しかったです。


鈴木:プロデューサーが決めたことなのですが、皆の熱い思いが表れている部分だと思います。

—『エゴイスト』(2022)に続きLGBTQ+インクルージブディレクターのミヤタ廉さんとご一緒されていますね。今回はミヤタさんとどのようなかたちで関わられたんでしょうか?


鈴木:今回ミヤタさんにはLGBTQ+の人々を描く際に特定のバイアスがかかっていないかのチェックと、キャスティングの協力をしてもらいました。新宿にはLGBTQ+の方が働いているお店が実際にたくさんあるのに、それを登場させないというのは違和感があって。これまでの日本の作品では偏見を助長するようなコメディリリーフ的な描かれ方をされることも多かったですが、そうではなく、新宿の街やそこで生活する人たちをニュートラルに表現できたらと思っていました。


鈴木:具体的にはまず、冒頭のダイアナ・エクストラバガンザさんが出演する夜のお店のシーンですね。あのお店については、当初ゲイバーにしようかとかいろんな案があったんです。最終的にはママと女の子のいるお店にしようと決まったんですけど、そのママ役の候補に、ミヤタさんがダイアナさんを推薦してくれました。


あとは中盤のクラブのシーンです。踊っているダンサーやお客さんは、実際いつもあのようなクラブイベントに来ている人たちなんですよ。日本でクラブのシーンを撮影するときに、リアリティを持たせるのってなかなか難しいので、あのシーンでは普段からクラブで遊んでそうなお客さんをミヤタさんがいろいろとやり取りして集めてくれました。ダンサーさんに関しても、ミヤタさんに相談すると、ヴォーグダンスのようなイメージはどうかと提案していただきました。僕も『エゴイスト』で一瞬ヴォーギングのモノマネをしているんですけど、Netflixで配信している『ル・ポールのドラァグ・レース』(2009〜)のような感じを出せたら面白いよねと。そうしたらすぐにイメージに近いダンサーの方々に連絡を取ってくれて。刺激的であまり見たことがないけど新宿では実際にありそう、というようなバランスのイベントにできたのはミヤタさんの調整のおかげですね。


—インティマシーコーディネーター(IC)の浅田智穂さんも参加されていますね。セクシャルな部分もある作品だけに、ICがいると安心できます。


鈴木:浅田さんとご一緒するのはドラマの『エルピス—希望、あるいは災い—』(2022)に続き2回目だったんですが、今回も大きく関わってくれました。僕は最初ICが入ると思っていなかったんですが、やはりセクシャルなシーンもあるのでそこはすべてICが入りますとNetflixさんが提案してくれて。たしかに肌を露出するシーンもあるし、安心して演じるためにも大切ですよね。


具体的に言えば、冒頭のサウナのシーンや、先ほどお話したもっこりショーのシーンに入ってもらいました。じつはもっこりショーをしているのは結構セクシャルなお店なんですよね。よく見ると女性が男性の膝に乗ったりしているようなお店なので、現場で皆が望まない表現にならないよう前もって調整してくれたんです。もちろん僕のダンスにも付いてくれて、前貼りの種類や貼り方を提案してくれたり、どういうアングルで撮られてどういうふうに映るかというのを前もって確認してくれたり。撮影現場でもモニターを見ながら調整をしてくれていましたね。


やはりICがいると現場がとてもスムーズに進みますし、ケアされている僕や女性キャストはもちろん、お客さん役の皆も遠慮なく笑ったり盛り上がることができて、良いシーンが撮れるんです。本当に助かりました。


—今回初めて世界中に視聴者がいるNetflix作品に参加されて、気づきや意識の変化はありましたか?


鈴木:Netflix配信であれば世界同時に届けられるし、世界中から一斉に観たよっていうリアクションがあるのはすごく良いですよね。いままでの映画だと日本で公開されてから数か月とか1年後にようやく海外に届くというのが一般的でしたけど、配信だとシームレスに観てもらえるというのは素晴らしい環境だなと思いました。


あとは作品づくりにおいて、どれぐらい海外を意識するかは作品ごとに問われるなというのは今回あらためて気づかされました。特にコメディなんかは日本と海外の観客では笑いのツボも違ってきますし、海外と一口に言っても地域や言語でさらに異なりますよね。全方位に合わせるというのはなかなか難しいですけど、日本のお客さんに向けつつ海外の人にもできるだけ楽しんでもらうことを目指すのが、『シティーハンター』のつくり方としては理想かなと思いました。


—最後に、続編に対する意気込みを聞かせてもらえますでしょうか。


鈴木:自分の中でこういうストーリーがやれたらなというのはあるんですが、続編があるかは僕が決められることではないので……。もし続編が決定して皆さんにお知らせできるときが来たら、自信を持ってお伝えします。そのためにもまずは一人でも多くの方に『シティーハンター』を観てもらいたいですね。今回相当力を入れて製作されていますので、じつは続編決定にも結構な成績のハードルがあるんですよ。なので皆さん、ぜひ複数回観ていただいたり、いいねボタンを押したりしていただけると嬉しいです(笑)!