《ハイヌウェレの彫像》久保寛子(4/13〜4/29)/象の鼻テラス Photo:Hajime Kato 撮影:加藤 甫

 第8回横浜トリエンナーレは、横浜の街全体をアートと捉えているのが大きな特徴。美術館のみならず、街のあちこちにアート作品が展示され、横浜の街を彩ります。

 横浜トリエンナーレに合わせて開催されるアートプログラム「アートもりもり!」では、横浜駅から山手地区におよぶいくつかのアートスポットで作品を展示しています。

 トリエンナーレの本会場でもある横浜美術館を堪能したら、横浜の街歩き。新高島駅・黄金町・山下公園エリアのアート作品を鑑賞に行きましょう。


市内のアート拠点を総括した「アートもりもり!」


港を囲む独自の歴史や文化の活動を応援する土壌が根付いている横浜。

 近代的なビルが立ち並ぶ一方で、古いものを愛する「ハイカラ」な雰囲気もある横浜はアートが盛ん。行政的にも港を囲む独自の歴史や文化の活動を応援する土壌が根付いています。こうした背景が都市型の大規模な国際展「トリエンナーレ」の開催につながり現在に至ります。

 横浜トリエンナーレ会期中は、「アートもりもり!」と題して、横浜駅から山手地区におよぶ広いエリアで期間限定のアートを展示します。市内のアート拠点が点在する「アートもりもり!」の見どころをピックアップしました。


第8回横浜横浜トリエンナーレは、横浜駅、日出町駅周辺、横浜マリンタワーを結ぶエリアに広がります。三角形は作品が設置されている主なエリア。紫色で記されている会場は「野草」展会場。エンジ色で記されている会場はアートもりもり!会場。提供:横浜トリエンナーレ組織委員会

新高島駅構内にもアートがずらり! 横浜にちなんだユニークなアートに目が釘付け


新高島駅構内にあるBankART Station。

三田村光土里《näkö fabric(ナコ・ファブリック)》

 2004年の活動開始から20年にわたり、都市と対峙しながらオルタナティブなアート・スペースの運営を続けてきたBankART1929。紹介するみなとみらい線「新高島駅」構内の「BankART Station(バンカートステーション)」のほか、みなとみらい21地区、関内地区、ヨコハマポートサイド周辺地区の3つのエリアの日常空間に作品を展開しています。

 BankART1929の中核的な施設となる「BankART Station」は、展示室と倉庫からなる約1,500平米のスペース。新高島駅地下1階に広がる大空間であり、外部空間への結節点でもあります。

 トリエンナーレにあわせて開催される7回目となるバンカートライフのテーマは「再び都市に棲む」。横浜にちなんだ作品が多く、身近に感じるものばかり。横浜のどこだろう? と考えを巡らせながら作品を鑑賞していくと、よりアートを楽しめます。

◆身近にあるもので作った伊勢佐木町の街並み


片岡純也+岩竹理恵《新陳代謝のある都市の風景》

 日常の出来事をシンプルな現象で再現するキネティック作品と、印刷物などからの想像や類推でイメージを展開させていく平面作品を組み合わせた空間構成が特徴的なアーティストユニット作品です。

 この作品は伊勢佐木町あたりの風景を身の回りのもので再現しています。よく見ると段ボールやレシートなど身近なものが使われているのがわかりますか? 廃棄されるもので作られた新陳代謝を繰り返す伊勢佐木町の街並みという素材と図案がユニークで見入ってしまいます。

 今の伊勢佐木町の風景を今の素材で形づくって残すことで、何年か後の未来に見たときに、この作品をどう受け止めるのか。この町の景色がどう変わっていくのか、次が見たくなってきます。

◆グーグルアースで見つけた“落書き”を立体作品に


葭村太一《北緯35度27分43秒 東経139度37分38秒》

QRコードを読み込むと実物の落書きが見られる。

 街の中にある落書き(グラフィティ)を、木彫りにした作品。ゲリラ的に描かれた落書きは目を止める人は少ないかもしれません。もしかしたら消されてしまう可能性のある落書きを都市の記憶として彫刻に落とし込み、作品として残しています。作品の近くにあるQRコードを読み込むとグーグルアースや地図が映し出され、実際に作家が落書きをキャプチャした場所を見ることができます。

 長い年月が経つとなくなる可能性のある落書きに注目し、横浜の今の姿を映し出しています。

◆「中華街」と「山下公園」をブレンドした臭いを表現


さとうくみ子《味のブレンドさん》

さとうくみ子《味のブレンドさん》

 臭いを想像させる作品を作るさとう くみ子は「臭い」で都市を表現。天井に繋がっている2本の編み込まれた筒は、それぞれ「中華街」と「山下公園」に繋がっています。中華街と山下公園が合わさってできた臭いはイガイガした黒い物体としてつくられます。これは、おいしそうとは言い難いけれど…と考えを巡らせていると箱の中から「ごはんできたよー」の音が聞こえてきます。ちなみに、無味無臭の作品です!

 音が鳴る、動くなど五感に響き直感的に楽しめるアートが豊富なので、子どもから大人まで、アート初心者でも気軽に楽しめそう。駅構内なのでサクッと立ち寄りやすいのも高ポイントです。

 また、入場時には会期中何度でも入場できるパスポートとともにガイドブックとマップがもらえるので、それらを片手に、屋外や周辺地図に設置された作品巡りに出かけることもできます。

BankART Station

所在地 みなとみらい線新高島駅構内地下1F
https://bankart1929.com/life7/

“映えスポット”の宝庫! ディープなアートの世界に陶酔できる黄金町エリア


さとうりさ《わたしは滋養》

黄金町エリアの小道にはたくさんのアートが転がっている。

 足を延ばして黄金町エリアへ。黄金町バザールは、アートとコミュニティの関係、アジアの交流をテーマに2008年より開催しているアートフェスティバルです。15回目を迎える「黄金町バザール2024 —世界のすべてがアートでできているわけではない」は、黄金町に関わりのあるアーティストをはじめ、アジアやこれまで交流のなかった地域のアーティストを招きました。黄金町バザールのマップを片手に黄金町バザールのアートスポットを巡っていきましょう。

◆宮城県石巻市の日高山にある階段を再現@高橋ビル屋上


井上修志《日和山の階段を新しい視点まで延長してみる》2021

井上修志《日和山の階段を新しい視点まで延長してみる》2021

 宮城県出身の井上修志は、日常生活で不要になった物や廃棄物などを素材とした彫刻作品やインスタレーション作品を手掛けるアーティストです。

 こちらは、宮城県石巻市での震災の体験を経て制作された作品。被災したときに実際に避難した宮城県の日和山にある階段をイメージしたもので、被災の復興作業による廃材でつくられています。階段の先にあるものとは?

 階段の裏側に設置されているモニターには石巻市にある実際の階段が映し出されています。アパートの屋上に展示されていて、京急線の線路や大岡川を見下ろせるビュースポットでもありました。

◆総勢5名のアーティスト作品を満喫@八番館


柴田祐輔《しら》

 八番館という建物では5名のアーティストの作品が展示されています。生鮮スーパーのような外観ですが、これ自体がアート作品。実際にスーパーだと間違えて入店する一般客もいるのだそう! 外観は期間によって変更されるので、再び立ち寄ると違うお店になっている楽しさも。お店そっくりなアート作品なんてユニークですよね。


青木真莉子《呼吸する皮膚と聖なるパイプ》

和田昌宏《Songs for My Son》

 中にはいくつもの作品が展示されています。中でも印象的だったのが和田昌宏による「Songs for My Son」。

 会場内で聞こえる「パーンパーン」というはじけるような音の原因となる作品です。なんだろうと、展示会場をくまなく鑑賞して、はじめて作品の仕掛けがわかるという謎解きのようなワクワクする作品でした。是非、実際に訪れてみてください。

◆無料で立ち寄れる! “買えるアート”ぬいぐるみを販売@竹内化成ビル6階


安部泰輔《黄金森》2021

 竹内化成ビルの6階では、安部泰輔が会期中毎日公開制作を行っています。展示の一部になっている「コガネモン」というぬいぐるみは、1つ1,000円で購入可能。一つずつ違う表情のコガネモンからお気に入りを選んでみては。

 コガネモンはバッグや服につけられるので、道行く人に黄金町に行ったことをアピールできます。

※竹内化成ビル5階・6階は黄金町バザール2024パスポートなしでも入場可能。

◆ゆっくりできるアートの本屋や休憩スポットも


黄金町バザールエリアは本屋やカフェもすぐそばに。

黄金町アートブックバザール。

 黄金町エリアはみなとみらいエリアよりも落ち着いた雰囲気で、フォトスポットも多く、ゆっくり横浜アートに浸れます。個性的な作品が目立ち、記憶に鮮明に残るものばかりなのもさすが黄金町という感じ。知る人ぞ知るディープな黄金町エリアへ足を延ばしてみてはいかがでしょうか。休憩スポットやカフェも多くおすすめです。

黄金町バザール2024

京急線日ノ出町駅・⻩金町駅間の高架下スタジオ/周辺のスタジオほか
https://koganecho.net/koganecho-bazaar-2024/

港の景色を散策しながら巨大な土の彫像を鑑賞@象の鼻テラス


アートスペースとカフェを併設した無料休憩所「象の鼻テラス」。

 山下公園エリアにある象の鼻テラスは誰でも自由に過ごせる象の鼻パーク内の無料休憩所。アートスペースとカフェが併設されていて、ジャンルレスなアート体験とさまざまなサービスを楽しめます。


象の鼻テラスの一部のスツールは、横浜の子どもたちとフィンランドのアーティストが共同制作したもの。

 横浜の子どもたちとフィンランドのアーティストが共同制作したスツールは、いつ立ち寄っても観られるなど、テラスへ足を運ぶだけで身近なアートに触れられます。


久保寛子《ハイヌウェレの彫像》制作中の様子。

久保寛子《ハイヌウェレの彫像》制作中の様子。

 トリエンナーレ会期中の象の鼻テラスでは 「アートもりもり!」の一環として、2 つの展覧会「ハイヌウェレの彫像 久保寛子/4月29日まで」と「PORT JOURNEYS ポート・ジャーニー・プロジェクト ”7 SEEDS ‒COMMUNICATION UNDER TREES‒ 展”/6月9日まで」を実施。


PORT JOURNEYS ポート・ジャーニー・プロジェクト ”7 SEEDS ‒COMMUNICATION UNDER TREES‒ 展”(5/10〜6/9)

 立ち寄った日はハイヌウェレの彫像の展示する前日で、表面を土で塗り固める前の状態でした。ここに土を塗り、雨や日光、風の影響を受けながらさまざまな表情を生み出していきます。


Photo: Hajime Kato 撮影: 加藤甫

 絵本から飛び出してきたかのような大きな巨人が分断されている姿は圧巻。象の鼻テラスの屋上から眺めると港の風景と作品全体がきれいに見えたのだそう。


ゾウノハナソフトクリーム/480円。

  鑑賞・休憩のお供に、ゾウノハナソフトクリームをどうぞ。ワッフルチップで象の耳を、チョコチップで目を表現した象の形がキュート!心地よい海風と海の景色は横浜へ足を運んだ気分を満たしてくれます。

象の鼻テラス

所在地 231-0002 横浜市中区海岸通1丁目
https://zounohana.com/

横浜マリンタワーの夜景と特別プログラムを鑑賞


横浜トリエンナーレと横浜マリンタワーを両方楽しめる共通チケットも。

  最後は、象の鼻テラスからもすぐ、横浜マリンタワーのアートを紹介。こちらでは、横浜トリエンナーレ開催を記念して、展望フロアでの夜景とサウンド/映像インスタレーション作品の展示や、テーマ「野草」にちなんだ現代アートの展示を行っています。

 横浜トリエンナーレと横浜マリンタワーを両方楽しめる共通チケットや、横浜トリエンナーレと横浜マリンタワーの共通チケットに、中華街のアートの雰囲気溢れるお店で食事が満喫できるセットプランも。横浜らしい食体験やスポットがセットになっているので、横浜のお出かけもアートも楽しみたい人にぴったりです。

◆テーマ「野草」にちなんだ無料エリアのアート


斉木駿介《リプレイする》個展。

 横浜マリンタワーの2階ギャラリーで横浜トリエンナーレのテーマ「野草」に基づいた若手斉木駿介の個展を鑑賞できます。2階ギャラリーは無料で立ち寄れるのも嬉しいところ。

◆夜景とサウンド・映像インスタレーションを鑑賞@横浜マリンタワー 展望フロア


横浜マリンタワー展望フロアにてトリエンナーレ会期中限定のサウンド・映像インスタレーション。

 18時以降の30階の展望フロアでは、額田大志 + 高良真剣による横浜の夜景×サウンド/映像インスタレーション「シャトル」を鑑賞してみて。地上94メートルに引き上げられた身体に、ゆらぎのある音と映像が合わさり、遥か遠くの場所へと送り届ける感覚が体感できます。


特別販売のアートなお土産もチェック。

 2階ギャラリーでは、トリエンナーレ開催前に、ワークショップで一般の方々がアイディアを出して作った優秀作品が販売されています。

横浜マリンタワー

所在地 231-0023 神奈川県横浜市中区山下町14-1
https://www.yokohamatriennale.jp/2024/many-many-arts/3088

「アートもりもり!」の作品の数々、いかがでしたか?

 「これ何だろう?」「音がする」「動いた!」と興味を持ち、何かを感じられたなら、それできっと大丈夫!アートに見識のある人だけに向けた展示ではなく、アートを知らない人でも楽しめる工夫がたくさん詰まっているプログラム。トリエンナーレと一緒に楽しんでくださいね。

「野草:いま、ここで生きてる」鑑賞券と「BankART Life7」「黄金町バザール2024」のパスポートがセットになったチケットも販売されていますのでお見逃しなく!

アートもりもり!

https://www.yokohamatriennale.jp/2024/many-many-arts

文=桐生奈奈子
写真=佐藤 亘、Katsuhiro Ichikawa