「領収書」に注目集まる

 いよいよ伊達原検事正の正体が明らかに――。俳優の長谷川博己(47)が明墨弁護士役で主演するTBS系日曜劇場「アンチヒーロー」(午後9時)の第6話が19日に放送され、野村萬斎(58)演じる東京地検検事正・伊達原の「領収証」に注目が集まった。底知れぬ腹黒さを秘めている伊達原だが、同ドラマは「悪と見せかけて実は善だった」というどんでん返しが特徴。果たして伊達原はどっち? ※以下、ネタバレを含みます。

 平均世帯視聴率が10.3%(数字は関東地区、ビデオリサーチ調べ)と、前回より数字がアップした第6話。伊達原の登場シーンは3回あった。

(1)逮捕された父親の倉田(元千葉県警刑事部長)と面会した娘で弁護士の紫ノ宮(堀田真由)に「知ってるかな? どんな名医も肉親の手術は難しいという。お父さんのことを思うなら弁護は冷静な他者に任せた方がよい」と釘を刺した。

(2)検察官の緑川(木村佳乃)が元「週刊大洋」副編集長の沢原麻希(珠城りょう)の控訴審について「弁護側の証拠は採用されなかったようです。裁判官の瀬古判事(神野三鈴)が公正な判断をなさったのだと」と報告すると、大量の領収証を整理していた伊達原は「彼女は裁判官の鑑みたいな人だからねぇ。判事と仲良くすることはいいことだよ。で、憧れてたりするの?」と問い直し、「ただね、緑川くん、一つ忠告しておくけど、僕より偉くならないでねぇ〜」とおどけた。

(3)バーのカウンターで瀬古は伊達原と談笑。明墨が接触してきたことを報告し「あの時点で弁護士会にクレーム入れてあげてもよかったんだけど」と嬉しそうに話すと、伊達原は「それはそうするべきでしたねぇ」「あの男の周りで油断した者から次々と落ちていくのを見てきましたから」「明墨はしぶといですよ」「尻尾をつかまれないようお気を付けて」と忠告した。

 国内外のドラマ事情に詳しい放送ライターがこう指摘する。

「第6話の伊達原の台詞を検証すると、いずれもこのドラマの本筋をつかんでいます。紫ノ宮への忠告は冷静に考えれば正論ですし、瀬古判事に憧れている緑川検事との会話も最高裁判事の座を狙う瀬古への痛烈な皮肉に聞こえます。何よりウイスキーを飲む瀬古に直接『尻尾をつかまれないように』と忠告する台詞は瀬古が悪人である一面をズバリ突いています。一方、律儀に領収書を数える伊達原の姿は、おカネにクリーンな性格のメタファー(比喩の一種)のようで、ネットには伊達原の“いい人”説まで上がるようになりました」

ミスリードの可能性

 もちろん異論もあろう。明墨以下、同僚弁護士の赤峰(北村匠海)、同・紫ノ宮、パラリーガルの白木(大島優子)、同・青山(林泰文)、殺人事件で無罪となった緋山(岩田剛典)、そして緑川検事。明墨に深く関わる重要人物には苗字の中に色を表す漢字が含まれているが、伊達原にはこれがない。

「ところがそうでもないのです。仙台藩初代藩主の伊達政宗にゆかりのある『伊達の三色(みついろ)』という言葉があります。緋羅紗(ひらしゃ)の赤、伊達の勝色(だてのかちいろ)の青、仙台孟宗竹(せんだいもうそうだけ)の緑という3色セットのご当地インクも発売されました。仙台を本拠地とするプロ野球・楽天イーグルスのユニフォームにも伊達の勝色が『ヴィクトリーネイビー』として採用されています。この色の意味は調和、協力、勇気、栄光、深い知恵です」(前出の放送ライター)

“伊達原”には3つの色が隠されていたというわけか。色を表す漢字を持つ登場人物はいずれも“アンチヒーロー”として今後の活躍が強く予想される。検察官の緑川も裁判テクニックを駆使して自身の野望を果たそうとする悪玉というよりは今後、正義を追求する立場を明らかにしていきそうだ。

 伊達原は第3話で緑川に「人殺しを無罪にするなんて絶対にあっちゃいけないよね」と念を押し、第5話冒頭では料亭に明墨を呼び出し、金銭で証拠を捏造した姫野検事の名を挙げて「きみのおかげで組織の膿(うみ)を排除できた」と感謝を伝えている。野村の嫌味たっぷりの顔芸もあって伊達原=悪人という印象が強いが、制作サイドによる意図的なミスリードの可能性がある。色にまつわる謎が解けたことで伊達原が物語の核心人物、つまりアンチヒーローである可能性がますます高まった。

「伊達原の台詞は明墨への脅しのように聞こえて、実は本音なのかもしれません。演出の宮崎陽平氏は、伊達原がポテトフライを食べていたシーンについて『彼が料亭好きの高級志向の人ではなく、バナナやファストフードを食べるくらい俗っぽさもある人という面がちょっとでも出れば』と明かしています。この投稿は“伊達原=いい人”説の証拠ともいえますね。12年前に起きた糸井一家殺人事件の陣頭指揮をとったのは伊達原ですが、緒方直人演じる志水裕策死刑囚の冤罪事件の解決を裏で考えているのかもしれません」(同)

 今話には同じく日曜劇場「VIVANT」で別班のメンバーを演じた珠城りょうや、バルカ共和国外務大臣のワニズを演じた河内大和が、「週刊大洋」副編集長役で登場するなど濃い面々がドラマを盛り上げた。視聴率も前回より上向き、TBSを喜ばせている。ラストで明墨は、ターゲットは瀬古だと断言。善良そうな裁判官のドス暗い闇が今後、次々と暴かれていく。これに伊達原はどう絡むのか。明墨、瀬古、伊達原の“三つ巴”の闘いが大きな見どころとなりそうだ。

デイリー新潮編集部