写真はイメージ (c)gettyimages

「詰め込み」「偏差値」というイメージが強い中学受験。「受験のための勉強は子どもの将来に役に立つの?」「難易度より、子どもを伸ばしてくれる学校を選びたい」といった悩みを抱えている親御さんも増えています。思い切って「偏差値」というものさしから一度離れて、中学受験を考えてみては――。こう提案するのは、探究学習の第一人者である矢萩邦彦さんと、「きょうこ先生」としておなじみのプロ家庭教師・安浪京子さんです。今回は、どの程度の勉強量が必要か、というお悩みです。

■受験校と子どもの現在地の「差」が大事

矢萩:偏差値にとらわれていない、と言いつつカッコ付きで (そこまで偏差値の高い学校でなくてもいいと捉えています)と書かれていますが、それってそこまで高くなくてもいいけど、そこそこあったほうがいい、みたいなことなんでしょうか(笑)。まずどのような学校を目指したいのかというところを本人も含めて考えたほうがいいです。そのうえで、入試のレベル感や相性を確認しながら志望校を絞っていく、という順番ですね。

安浪:お子さんの現状とご家庭のなかで言っている、「そこまで偏差値の高い学校でなくていい」というゾーンが乖離している場合もありますし。

矢萩:そうなんです。単に入試のレベルが高いか低いかっていう話ではなくて、受験校と、今のお子さんの現在地の差、ギャップを埋めていく作業をしなければいけないんです。その差が大きいか少ないかによってやらなければいけないことは当然変わってきますよね。

■1日1、2時間の勉強で難関校に受かる子もいる

安浪:中学受験に限らずなんですが、受験って何時間やれば合格します、というものじゃないです。1日1、2時間で難関校に受かる子もいれば、1日4、5時間やっても中堅校にも届かない子だっているわけです。

矢萩:とにかく今、お子さんがどこまでできているのかを把握することが大事です。例えば計算はしっかりできているのか、基本的なことは理解できているのか、それとも全然できてない状況なのか。あるいは4科の中でどれとどれができてどれとどれができてないとか。その状況によって、やらなきゃいけないことは完全に変わってきます。相談者さんの場合、それはわかりやすい環境にいると思うんです。というのも、個別指導塾に通っているんですよね。であればそのあたりはサポートしてくれていると思うんですが。

安浪京子さん

安浪:たぶんご相談者さんのなかでは、これだけ勉強したら、ここあたりまでは行けるんじゃないか、と思われているのかもしれないですが、それは違います。繰り返しになりますが、志望校と現状のギャップによって必要な勉強内容も量も変わるんです。模試は受けているのでしょうか。偏差値にとらわれないとはいえ、やっぱり志望校に対して、だいたいこのぐらいの学力は必要かな、というのはあるので、模試を受けてどれぐらいのギャップがあるのか見てから、ですね。すでに足りているんだったら、現状のままでいいし、全然足りないんだったら、やり方や勉強量を変えないといけないし。

矢萩:小学校の勉強は全然問題なく全部わかっています、という状況で、中学受験の勉強に関しては難しいのはわからないけれども、基礎的なところはやればできます、みたいな状況で、偏差値50ぐらいを目指しています、というのであれば、僕はそんなにガリガリやらなくても普通に塾で勉強して帰ってくれば合格できるんじゃないかなと思いますけどね。逆に言えば教科書レベルのことや基本的な読み書き計算みたいなところでつまずいてるのであれば、そこを何とかしないとそこから先には進めないですね。

■毎回担当の先生が変わる塾は避けたほうがいい

安浪:たとえそこまで偏差値の高い学校でなくていい、ということでも、基礎は絶対に必要です。あとは偏差値表を出してきて偏差値50を見たときでも、結構学校によって求めることがバラバラだったりします。特に東京は学校が多いので。たとえば、たくさん書くことを求める学校なのか、テキストの基本的なことをちゃんとできる子を求めているのか、とか。そういうことも個別指導塾の先生が教えてくれるといいんですが。

矢萩:たとえ個別指導塾でもそういうことがわかってないところもあるし。それは塾や担当講師によります。

安浪:一言で個別指導塾といっても、毎回担当の先生がコロコロ変わったり、中学受験のことをよくわかってない先生が教えていたりして、「とりあえず今日はこのプリント終わらせればOK」というところもありますよね。少なくとも毎回先生が変わるところは避けたほうがいいと思います。個別指導だと学生さんも多いと思うので、たまには先生が変わることがあっても、ベースはこの科目はこの先生だよね、というものが最低限必要かなって思います。そうでないと、この時期にこれやっていこう、みたいな授業のグランドデザインが描けません。

矢萩邦彦さん

矢萩:僕は予備校や進学塾の講師研修を担当していたことがありますが、個別指導塾のなかにはあまり研修に力を入れていないところもありますね。やっぱり集団塾って、たくさんの生徒を1人の先生が見るわけだから、クレームが来やすい。だからそうならないようにちゃんと先生の研修をしてクオリティを担保しましょう、となるんですが、個別の場合は担当した生徒との相性が合えばOKだし、合わなかったらチェンジしてしまえばいいわけです。それに、それほど先生のコミュニケーション能力が高くなくても、1対1か1対2ぐらいだと生徒は自分の話を聞いてくれる、ていう感覚を持ちやすいので、集団に比べて満足度が高くなる傾向があるんですね。

安浪:ただ話を聞いてくれて答えてくれるっていう部分で、いい先生ってなってる可能性は高いってことですね。

■今のお子さんの状況を見てあげて

矢萩:つまり個別塾は集団塾に比べ、塾の中で先生の力量の差があると思ったほうがいいです。だから、今目の前にいる先生はどうなのかな、というところを親子でちゃんと判断する必要があります。学生でもいいと思うんです。ただちゃんとプロフェッショナリズムを持って子どもを見てくれているかどうか。子どもでは判断できてない可能性もあるので、可能であれば授業見学をしたり、担当の先生に面談を申し込んだりするといいです。

安浪:ご相談の内容を改めてお答えするならば、この学校に向けてどのぐらいの勉強量が必要なんだろう、と考えるより、今お子さんが勉強をやっている状況をよく見てあげて、もし少し余裕がありそうならばもう少し負荷をかけて勉強をやってみるのか、もうこれ以上勉強はやりたくない、勉強以外のことをやりたい、という感じなのであれば、その範囲で手の届く志望校を選び出してみる、という方向がいいのかな、と思います。それが偏差値にとらわれない学校選びの一つの軸でもあります。

(構成/教育エディター・江口祐子)