◇メジャー第2戦◇全米プロゴルフ選手権◇バルハラGC(ケンタッキー州)◇7609yd(パー71)

全米プロ会場のバルハラGCには、実にたくさんのプロコーチがいた。コーチのいない選手が皆無と思えるほどで、多くがスイングコーチだけでなくパッティングコーチ、メンタルコーチらも帯同している。顔ぶれもトップレベルで、普段PGAツアーの会場にいない“LIV組”のコーチもいるから余計そう思えたかもしれない。

世界上位ランカーは、どんなコーチをつけているか、おさらいしてみよう。

#スコッティ・シェフラー…地元テキサスのランディ・スミス氏

#ザンダー・シャウフェレ…タイガー・ウッズの元コーチ、クリス・コモ氏。彼はカート・キタヤマ、ジェイソン・デイ、キム・シウーも指導している

#ジョーダン・スピース…ジュニア時代からの付き合いのキャメロン・マコーミック氏

#マックス・ホマ…マーク・ブラックバーン氏で、最近までコリン・モリカワを教え、ゴルフダイジェスト誌が選ぶベストティーチャーズinアメリカ最新版で1位になっている

#今季好調のアン・ビョンフン(韓国)…ウッズの元コーチであるショーン・フォーリー氏

松山英樹のコーチは同級生の黒宮幹仁氏で、ことしで2年目を迎えた。LIV組でいえば、ブルックス・ケプカ、ダスティン・ジョンソンを教えるのがあのブッチ・ハーモンの息子クラウド・ハーモン氏。会場にはケプカのショートゲームコーチであるピート・コーエン氏もいて、他に“ショートゲームシェフ”の異名を持つパーカー・マクラクリン氏もトム・キム(韓国)やサム・バーンズを教えていた。

ケプカのように選手1人に複数のコーチがつくことも珍しくない。シェフラーはショットコーチ以外に、今年からパッティングコーチのフィル・ケニオン氏を加え、さらにメンタルコーチも帯同し、ジャンル別の専門家を揃えている。日本では珍しくても、こうした専門コーチは米国では普通になり、戦略コーチというコース攻略の専門家もいるほどだ。

中でもパッティングコーチは専門性が高い。シャウフェレにはデレク・ウエダ氏(エリック杉本も彼の教え子)、ホアキン・ニーマン(チリ)にはスペイン人のラモン・ベスカンサ氏。そして一番の売れっ子は、イングランド人のフィル・ケニオン氏だろう。

手にいつも傾斜計を持ち、時に携帯でストローク動画を撮って、ボソボソと選手と話す。教える顔ぶれはシェフラーを筆頭に、ジャスティン・ローズ、トミー・フリートウッド、マシュー・フィッツパトリックといったイングランド勢、ホマなど多くが世界ランキングのトップ30。練習日には、彼らがケニオン氏に時間を合わせるほど引っ張りだこだ。シェフラーはケニオン氏がついてから、パッティングのスタッツは右肩上がりで、元々高かったケニオン氏の評価もうなぎのぼりになった。

どうしてここまで多くのコーチがいるのか?クリス・コモ氏に聞いてみた。

「やっぱりここはお金を稼げる場所だからね。コーチたちも集まってくるよ」

とても現実的な答えだった。確かに賞金額がデカいPGAツアーでは、実入りもデカい。コーチの報酬は「賞金のパーセンテージ」(例えば10%など)+「インセンティブ」(優勝などのボーナス)が多い。LIVに移籍した選手と一緒にコーチがLIVの試合に帯同するのは、高額賞金が影響しているのだろう。

専門コーチの多さに関しては「自分もショット以外のことも教えられるけど、ここは“扱うのが大変な人”が多いからね。ショットだけ見るのでも大変なんだ。分けたほうが効率的だろ」と説明。「そのうち僕も7番アイアン専門コーチになろうかな」とジョークで締めてくれた。

1人の選手に複数のコーチがついている場合、彼らは頻繁に話し合う。例えばショットコーチとパットコーチが密に連携して、互いのやっていることに齟齬が起きないようにする。コーチ同士、実に仲が良さそうに情報共有していることも新鮮だった。

長く調子を維持することが難しいゴルフ競技にあって、世界ランキング1位のシェフラーがショット、パッティング、メンタルの分野別にコーチを付けている事実は、見逃せない。アメリカではコーチの立場は高く、扱いが選手と対等とさえ感じるときもある。日本のツアーではようやく「コーチをつける文化」が根付いてきたが、専門コーチの存在はまだ少ない。コーチ側のスキルアップは当然必要だが、コーチという存在にもっと目を向けてもいいのではないか。それはきっと、日本ゴルフ界のレベルの底上げになるはずだから。(ケンタッキー州ルイビル/服部謙二郎)