「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか? その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられていたんですね……

アイアンのセット崩壊の兆候が見えてきた!

GD プロのセッティングも随分様変わりしました。ロングアイアンが姿を消し、ウェッジの本数が増えています。かつては、人によっては1番アイアンから入れていていましたが、現在は3番アイアンも少数派で、松山英樹も4番アイアンから。ウェッジもPWを抜きGW(ギャップウェッジ)が入っています。

長谷部 1番アイアンを入れると、カッコいいというのはありましたよね。ウェッジに関しては、別ブランドでまとめる傾向があります。『クリーブランド』から始まって、『ボーケイ』が台頭してきて、アメリカでウェッジの覇権争いが起こって、独立したウェッジブランドが注目されるようになっています。日本では地クラブ系、工房系でウェッジを展開しているところはありますが、大手メーカーにはウェッジ単独ブランドはなく、「フォーティーン」の『MT-28』がその走りだったと思います。

GD 日本でも『ボーケイ』の人気に火が付いたのと同じ頃、「フォーティーン」のウェッジが男子ツアーで人気になり、ボーケイ派、フォーティーン派に分かれていました。

長谷部 ウェッジが注目された背景にはアイアンが10本セットだったのを、SW、AWを抜いた8本セットになり、その後、3番、4番を抜いた6本セットになりました。これは、「中部地区の量販店」が、そういう売り方をしたいということを、各メーカーに打診した結果、普及したと言われています。

これがひとつの形になったのに、今は6本セットも崩れはじめていて、5番アイアンもいらない、PWもいらないという動きが見え始めていて、プロのセッティングの変化とともに、アマチュアのセッティングも様変わりしていくのか? と見ています。

GD アマチュアのセッティングはプロの影響を受けることを考えると、プロのセッティングが変わると、アマチュアのセッティングも大きく変わる可能性はありますね。プロのセッティングがアマチュア化しているという見方もできそうですよね? 難しいクラブはあえて入れないように見えますし。

ロングアイアンがハイブリッド(ユーティリティ)に代わり、ウェッジは52度、56度、60度の3本が定着し、そこに48度、もしくは46度のGWが加わり、PWが姿を消しつつあります。日本では50度、54度、58度で違いはありますが、今後PGAツアーでPW代わりのGWが定着すると、日本のツアーでも流行することが考えられます。

長谷部 アイアンセットの流れのPWは、トウが高くてヒールが低い形状になっているので球がつかまりやすい。ひっかけのミスが出やすい人は、ウェッジ形状でトップラインの丸い、重心の高い形状を選んでいるんじゃないかと思います。石川遼プロが一時44度とか46度を入れてウェッジ5本にしていたのもそういうことだったのでは? と思います。今年は普通のセットに戻したようですけど、そのような悩みがある人は、左にひっかけにくいウェッジ形状を選ぶのかなと思います。

GD ウェッジ形状のほうがスピンが入りやすいと言われます。ツアーのセッティングがシビアになってくれば、スピンで止めたくなる。PWでは止めきれないところをウェッジ形状のもので止めたいという考え方もあるような気がします。

長谷部 それはあると思います。

GD そうすると、プロのセッティングもPW を抜いた5番から9番の5本セットの時代が来るかもしれない?

長谷部 男子でも女子プロのように5番アイアンを抜くプロも出てくるかもしれないですね。各メーカー、2番、3番、4番のアイアン型ユーティリティを出してきているので、それが5番まで広がれば、楽に球が上がるし、スピンもかけられるので、使うプロは現れるでしょうね。

GD トラックマンの普及によって、スピン量など打球データが可視化されるようになったじゃないですか。 それによって一番効率のいいクラブセッティングを求めようとする傾向って見えません?

長谷部 その通りで、トラックマンを使うようになってから、メーカーが各番手の飛距離差は10ヤード刻みですよ、と言っていたのにも関わらず、ロフト差を見たら2度しかないじゃん、みたいなことになっていてメーカーが提示する理想の階段に矛盾が生じていることに気付いてしまった。この辻褄をどうするんだというのがあったんです。

自分のスウィングの中で 9番で何ヤード、7番で何ヤードというのがわかるようになってから、足らない距離とか、求める弾道でクラブを選ぶようになりました。プロの世界はそれがますます進んでいて、球低すぎるじゃん、強すぎるということがわかってきたので、球が上がるクラブを選ぶようになっています。

GD それってもうセットとしての考え方じゃないじゃない。極論を言えば、単品の組み合わせで、距離と弾道をチョイスするようになっている?

長谷部 「アイアン」と言っている、そのジャンルすら怪しくなってきていて、ハイブリッドという言い方をはじめ、番手とクラブの呼び名が混沌としています。

青木瀬令奈のセッティングをお手本にしたい

GD 昔はウッドとアイアンの2種類しかなく、どんどん変わってきている。

長谷部 女子プロがアイアンを減らして、ウェッジとユーティリティを増やしている傾向があります。青木瀬令奈プロみたいに7番アイアンも入れないようなプロが出てくると、アマチュアが見習うべき考え方は、そこなんじゃないかと思います。自分の適正なクラブの選び方って、ヘッドスピードと技量だとすると、無茶してアイアンを打つ必要ないよねっていうことをプロがもっと実証してくれれば、そういう考えが定着してくると思います。

GD でもゴルショップ行くとそういう選び方ってまだできないじゃないですか。

長谷部 そうなんです! だからアイアンセットをやめて、単品販売にメーカーがしてくれればアマチュアはもっと選択肢が広がる。でもメーカーにしてみればビジネス上やりづらいし、お店もやりにくいから、できるとしたら地クラブメーカー? 単品販売で1本ずつ買えるようにしたら、アマチュアもプロのようなセッティングが可能になります。

GD 実際プロってそういうセレクトをしていますよね。金谷拓実が飛ぶ5番アイアンと普通の5番アイアンを入れていたりするのを見ると、番手の並びではなく、ロフトの並びでもないような気がします。

長谷部 ヘッドの機能の違うものを選んでいたりします。飛ぶ5番はライナー用で、もう1本の5番はハイロンチのもの。

GD そうなってくると、クラブ選びの基準は相当変わってきますね。

長谷部 何を基準にして選べばいいか、すごく難しい時代になってきていると思います。

GD クラブはやさしくなっているけど、クラブを選ぶのは非常に難しい。

長谷部 もっと極端に言うと、今までアイアンセットってロフトの階段、総重量の階段が、ほんとにアマチュアにとってこれでいいのかわかっていません。たまたま半インチ刻みにするのが正攻法とされていて、同じシャフト重量のものを選んであげれば、なんとなく総重量の階段も綺麗にできたんですけど、実はPWは軽すぎて、5番アイアンは重すぎたかもしれない。

もっとミドルアイアンは軽く振りやすくして手打ちにならないように、ウェッジ系はもうちょっと重くしてもよかったのかもしれないっていうのは、実はあるんです。日本人のマインドとして理想のセットを使いこなそう、練習して上手くならないと、という気持ちが根強くあると思います。

GD 最近、トラックマンレンジとか、トップトレーサーレンジが増えて、アマチュアも身近に自分の本当の飛距離を知ることができるようになりました。その結果、下の番手がギュギュっと詰まっていて、上の番手も同じようにギュギュっと詰まっていて、飛距離の階段がちゃんとできていないことがわかり出しました。でも、これって14本まで入れなきゃ損だという考えが働いて、本当に使い勝手のいいセッティングになっているかどうかまで行きついていないように思います。

長谷部 入れなきゃ損で入れちゃっているケースはありますね。コース攻略とスコアアップを考えるんだから、苦手なクラブってなに? その部分を厚くするのはいいと思うんですよ。一番苦手なのがドライバーだったら、ドライバーを2本入れて、パターが苦手ならパターを2本入れてもいいと思う。こういった考え方って、どこのメーカーもどこのメディアも言わないじゃないですか。14本を綺麗に揃えようとする傾向が強く、使わないクラブも「もしかしたら使うかも……」と念のため入れておく。

実際、2打目で使うのは7番アイアンとユーティリティだけというアマチュアはたくさんいますよね。スコアに直結するティーショットとグリーンまわりでバタバタしていることを考えると、もっと14本の使い方をドラスティックに変えたほうがいいんじゃないかというアマチュア多いと思います。

GD 1日プレーをして、「今日1回も使わなかった」というクラブがあります。そういったクラブは、使わないのか? 使いにくいのか? 何か理由がある可能性がありますね。

長谷部 アイアンの7番からPWまでのロフト差が3度刻みになっていると距離差が出にくいから、ここは4度刻みのものを選ぶとか、4度刻みでも差が出ないんだったら、今度は0.5インチではなく、0.75インチフローにして長さの差を付けるとかしたほうが、メリハリが付くように思います。

GD 距離の階段がちゃんとできる?

長谷部 デシャンボーのワンレングスとは逆説にはなりますが、番手間のメリハリを付けたほうが、アマチュアにはわかりやすいかな。

GD そうなると、現実的には「14本入れなくてもいいじゃん」という発想から考えたほうがメリハリが付くように思えてきました。番手間がくっついているんだったら、間を抜いてみる。3度ピッチのアイアンだとした、1本番手を抜けばロフト差は6度になります。

長谷部 最小限必要な10本を最初に決めて、苦手な部分を強化するように付け足していく。ドライバーの下にFWを2本入れて、アイアンをセットで入れて綺麗に揃えようとした結果、14本をうまく使い切れていないアマチュアが本当に多いんじゃないかと思います。

GD ストロングロフトのアイアンって、番手がつまっているじゃないですか。上の番手はもうこれ以上はロフトが立てられない。下の番手は飛ばさなきゃいけないからロフトが立っている。 さらに下のウェッジゾーンがスカスカ。数字上の番手にこだわって綺麗に揃えようとすると、かつては2本のクラブでカバーしていたところを3本でカバーしていることになって、10ヤード刻みではなく、5ヤード刻みのセッティングなっている?

長谷部 そうなっています。アマチュアは5ヤード刻みでなんか打てていません。ミスショットの誤差のほうがもっと大きい。

プロよりアマチュアのほうが難しいクラブを使っている?

GD クラブの進化のメリットよりもデメリットのほうが大きくて、結果、クラブが進化したことで、ゴルフがやさしくなっていますよ、とは言うものの、スコアに直結しない原因はそこにありそうですね。

長谷部 メーカーは部分、部分でしか言わない。ドライバーが飛びますよ、アイアンも飛びますよ、と言っても14本の構成を考えたときに、これらすべてがマッチしていますよとは、正直どこのメーカーもできていないし、やっていないわけです。なので、お客さんっていうか消費者が賢く選ばなきゃいけない。

自分のゴルフの悩みってなんだろう、スコアに直結する部分はなんだろう。そういった選び方で軸を考えないと、惑わされるというか、買わされてしまった結果、それを使わなきゃいけない脅迫感に迫られ、使いこなさなきゃいけないことになり、難しいゴルフをしている可能性はありますよね。

GD そうですよね。でも一般のゴルファーってそこまで育ってないと思うんですよ。言われるがままに持たされて、使わされて、「あれ? あれ? あれ?」っていうことになっている。これってメーカーが飛距離競争をした結果、飛距離の階段が壊れてしまったということですか?

長谷部 アイアンのパワーロフトは、一部の飛ばないことに対するデメリットを解消するには良かったのに、これを広げてしまった。 かっこいいシンプルなマッスルバック形状のものまでパワーロフトで作ってしまったことによって、どこの誰を目指しているの? ってことになって、そこにハマる一部の人以外は取り残されて、何を選んでいいかわからなくなってしまった。

GD 最近思うのは、アイアンをマッスルバックにしたほうが簡単なんじゃないかと。ロフト差はあるし、飛ばないけど、飛距離の階段と番手の役割が明確になる。それには飛距離との葛藤に勝たなくてはいけないんですけど。マッスルバックといっても7番までは打てる。4番、5番、6番はユーティリティにすればいいじゃん。あとは打てるスペックのシャフトを選べば、ゴルフがシンプルになるんじゃないかと思うんです。

長谷部 セットという考え方にしばられていて、その中で買い替えをやらざるを得なくなっている。でもプロは全然違うところからはじまっていて、セットなんて関係ない。自分が必要とする飛距離と弾道を求めるクラブ選びをしているから、プロのわがままじゃないですけど、その考え方のほうがいいでしょうね。

GD プロのほうがシンプルで、アマチュアのほうが複雑?

長谷部 それは選択肢がないからって言ってしまえばそれまでですけど、アマチュアはアイアンをセットで買わざるを得ない。アマチュアの選択肢が多様のように見えるけど、実はそうではない。ここが崩れない限り、アマチュアの選択肢は広がらない。ここはとても重要なポイントなんです! 「中部地区の量販店」が8本セットを6本セットで売りたいとメーカーに働きかけたのと同じように、アイアンの単品販売をさせてくれと言ったら、変わるかもしれない。

GD ドライバー、FW、ユーティリティ、ウェッジは単品で買えるようになったことを考えると、残すはアイアンだけですよね。

長谷部 お試しで7番アイアンを買ったら、下の番手を買おうってなるかもしれないし、アイアンの買い替えサイクルって昔と変わらず5年ぐらいなので、もし買い控えしているとしたら少しでも買いやすくして、ドライバーと同じぐらいの3年に1回ぐらいに。アイアンも進化しているわけだから、単品をちょっとお試しで買ってみたら、よかったらその他の番手も買おう。そんな風にチャンスを広げてあげたほうがいいのかなと思います。

GD メーカーがやろうと思えばできる?

長谷部 やろうと思えばできますよ。カスタムラインは状況が違いますけど、量産品の場合、7番は7番でまとめて作っておいて、箱詰めの段階で組み合わせているメーカーが多いはずです。そういうセット売りを諦めたときに、番手売りってどうですか? やってやれないことはない。やるか、やらないか。そうしたときに他の番手も売れるという保証はない。大抵の人が1本買っただけで終わるリスクを考えると、今までのようにセットで売ったほうが売り上げ立つじゃんっていうのがメーカーの発想なんですけど、顧客満足度を高めることを考えたら、1本でもいいから買ってもらって、気に入ってもらったら買い足してもらうほうが健全だし、買い替え需要喚起とアマチュアのお悩み解消に役立つと思います。

お客さんに喜ばれるんだとしたら、どこが最初にここに手を出すか。でも、手を出さざるを得ないメーカーもたくさんあると思うんです。年々セット売りの数量が減っていて、開発もままならないメーカーは、マーケティング的には顧客ニーズに寄り添って対応し、ウェッジと同じように単品売りで勝負してもいいと思います。

GD 売れる番手とって、売れない番手が出てきそう。

長谷部 それは考えられます。7番、9番、PWでいいや、8番はいらないっていう人は必ずいます。だから、最初は、7番単品で、8番、9番、PWの3本セットみたいに徐々にやっていく。

GD 5番、6番も単品。

長谷部 ある程度メーカーに誘導されたほうが楽なので、そうやって選んでいる人は本当に多い。皆さん、同じような悩みに突入しているわけで。 何を足そう、何を削ろうと考えたときに、実はこの大きなメインのところのアイアンに手を加えずに両端を入れ替えしているだけ。セッティングの中心はやっぱり7番、8番、9番なので、まずはここをしっかりと固める必要があります。上級者なら6番からPWですかね。

GD それが決まってから、上と下のバランスをどう取るか? 飛び系だったら下を厚くしなきゃいけないし、コントロール系だったら上を厚くできる。でも、それは番手と飛距離のジレンマとかプライドの問題が解消しないと、なかなかそこまでそういう意図を持ってセッティングをしても、人がそういうふうに見てくれないと思うと、やりにくいとことはありますね。

長谷部 だから、アイアンも番手表示をやめて、ウェッジやユーティリティと同じようにロフト表示になると思うんですよね。「25度の鉄」、「30度の鉄」っていう風になって、ロフトの刻みは4度がいいよねってなれば、今みたいな5番、6番、7番が2度刻みのような変なことが起こらない。健全なアイアン、鉄になるんですよ。たぶんそれが最終形じゃないですか、ロフト表示であり、番手表示じゃない。

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