大人になると、付き合いたい相手を自分で選べてラクになったという人もいます。

 一方で、家族が増えることによって、自分が選んだ人間関係以外の付き合いが必要になった人も。

 今回は、子どもの習い事の保護者間であったトラブルを金子紗代さん(仮名・33歳)が語ります。

子どもの習い事は野球

 ※写真はイメージです(以下同) 紗代さんは、中学生の息子を持つパート主婦。夫の希望で息子が野球を始めたのは、小学3年生の時でした。

「高校まで野球をやっていた夫は、『息子には野球をやって欲しい』とずっと言っていたんです。私は子どもに野球を習わせるのは、正直、嫌だったんですけどね。お当番とか、親が大変なイメージがあったので」

 紗代さんの息子は中学生になると、野球のクラブチームに所属することになります。そのクラブチームは、保護者の負担が大きいと有名なチームだったそう。

毎週末は野球の手伝いに

パワハラ保護者「私はクラブチームってよくわからなかったのですが、野球で有名な高校に入って、プロを目指すような子が入るチームなんですよね。保護者も息子をプロにしようと必死な人が多くて、かなりの時間と労力を息子に費やしているんです」

 当番は月3回程度でも、係の仕事や遠征の付き合いなどで、結局毎週参加しなければいけません。チームから「保護者は全員参加です」と連絡が来ると、前日でも予定をキャンセルしてチームの手伝いに行くそう。

「保護者が顔を合わせる機会が多いので、みんなで仲良くできるといいんですけどね。うちの息子の学年には、とんでもない保護者がいるんですよ」



ベテラン風を吹かせる父親

20240520pawahara 紗代さんが“とんでもない保護者”と言う人は、3年前に上の子も同じチームに在籍させていた父親だそう。

「お兄ちゃんが中学生の時に在籍していたので、最初は『何かあれば聞いてくださいね』という感じで頼りになるなって思っていました。それが、半年後には子どもたちに怒鳴り散らかすパワハラ男になったんです」

 少しでも動きが遅い子どもがいると、「おせえんだよ! お前のせいでみんな待ってんじゃねーか」「俺たち、お前らのために休み潰してんだよ! やる気ないならやめろよ」などと大声で罵倒するといいます。

「チームの監督やコーチは、穏やかで優しい感じの人が揃っています。子どもたちがミスをしても何度も伝えたり、課題を持ち帰って自ら考えさせたりといった指導が中心で。それも魅力でチームを選んだ人も多いんですけどね」

ついに保護者にもパワハラが

パワハラ保護者 最初は子どもに対する罵声が目立っていたそうですが、そのうち手伝いにきた他の保護者にまで強く指摘するようになったんだとか。

「試合では、父が審判やスコアを書く担当をするんですね。その時にあの父親と一緒になると、細かく指示をしてくるので本当に大変で……」

 少しでも審判の声が小さいと「聞こえない!」と怒鳴ることや、少しでも間違えると「お前、ばかじゃないの?」と試合中に言われることもあるそう。

「グランドの状況では、見えないことや間違えることもあるんです。でも、それを伝えると『お前、言い訳すんなよ。子どもは一生懸命やってんだから』と常に先輩ヅラで、相手のチームもいるのに大勢の前で叱られるんです。もちろん、自分の子もいる前でね」

 監督やコーチでさえ声を荒げないチームで、この父親はかなり浮いた存在のようです。

「あの父親だけが昭和の古い感覚なんですよね。パワハラですよね。みんな我慢しながら、なんとか耐えていますが、あの父親がいない時にはつらさを分かち合っています」

「まあ、敵がいるから他の保護者は団結できているのかもしれないですけどね」と、なんとも言えない、複雑な表情で話す紗代さんでした。

<取材・文/maki イラスト/魚田コットン>