カッタンコットン、カッタンコットン−。神奈川県の古都・鎌倉市を江ノ島電鉄が走る。その線路脇に、播州織ブランド「タマキニイメ」(兵庫県西脇市)の新店舗が4月、オープンした。都心から電車を使って約1時間で、鎌倉大仏や美しい海岸線目当ての外国人にも人気のエリアだ。なぜ、この場所を選んだのですか−。(堀内達成)

 鎌倉−藤沢駅を結ぶ全長約10キロの江ノ電長谷(はせ)駅から、徒歩30秒で店に着いた。周囲は細い路地が入り組み、民家の中に感度の高いカフェや土産店が溶け込んでいる。目印となるのは、入り口の引き戸の横でなびくショール。ブランドを象徴する商品だ。扉を開けると、阿江美世子店長が笑顔で迎えてくれた。2月末に西脇から鎌倉に引っ越してきたという。

■新たな挑戦

 タマキニイメが関東に直営店を構えるのは2回目。1回目は2021年7月に東京都町田市で、建築家による個性的な住宅を使ってオープンしたが、2年後に閉店した。「手狭で、たくさんの商品を紹介できなかった」と阿江さん。

 直営店は西脇に絞ろうと考えていたが、昨年6月、デザイナーで社長の玉木新雌(にいめ)さんが、紹介された鎌倉の物件を視察し、一目で気に入った。玉木さんは「唯一無二の空間でワクワクした。西脇とは違う、新たな挑戦ができる場所だと直感した」と振り返る。

 外国人が多く訪れる場所柄も気に入った。これまでも期間限定のポップアップショップなどで国外にも販路を求めたが「関税や送料でコストがかかり、厳しかった」という。阿江さんは「観光のついでにふらっと立ち寄れるこの場所なら、多くの外国人に播州織の魅力を伝えられる。わざわざ足を運ばないといけない町田店や西脇店にはないメリット」と語る。

 既に偶然立ち寄った英国のセレクトショップオーナーがショールを気に入り、店舗での取り扱いが決まるなど新たなビジネスも呼び込んだ。

■ギャラリー

 店で扱う商品も選び抜いた。「まずはあいさつ代わりに」とブランドの顔であるショールを中心に、ワンピースやトップスを展示。自社で手がけた分も含め、国内で栽培した綿だけを使用したショールやパーカなど、西脇の本店に置いていない商品も並べる。「いつ来ても新鮮さを味わってもらえるように、常に変化していく」のが理想だ。

 物件は2階建ての元住宅で、不動産業者が4年前に購入。自身でこつこつと手を加えて商業施設に生まれ変わらせた。1階にはタマキニイメのほかにチーズケーキショップが入る。

 約63平方メートルの店内の床は、江ノ電の車体をイメージした緑のタイルが張られ、鉄で製作したブドウのつるが天井付近を伝う。試着室のラグは本店で育てるヒツジやアルパカなどの毛で編み、スリッパも店舗向けにあつらえた。商品をつるすハンガーもオリジナルだ。

 阿江さんは「共鳴してくれる作家たちと手がけたギャラリーのような空間」と胸を張る。今秋には2階にも店舗を広げる計画という。

■今年で20年

 ブランド設立から今年でちょうど20年。玉木さんは「鎌倉を舞台に、日本のものづくりの概念を超える挑戦がしたい」と願う。「tamaki niime okurimon(タマキニイメ オクリモン)」TEL0467・40・5600(午前11時〜午後6時)。