コミカルなタイトルとファンキーなサウンド、そして、美筋女子・みさみさが印象的なMVで、ディープインパクトを世にぶっ放したマハラージャンのメジャーデビュー作『セーラ☆ムン太郎』(2021年)。その後も、日本中が「ジェイソン村田って誰だよ!」とツッコんだ『持たざる者』、衝撃的なフレーズを洒脱なベースラインで昇華した『君の歯ブラシ』、謎のテーマでジャミロクワイに肉薄した『蝉ダンスフロア』など、スタイリッシュで変態的な秀作を量産した。

スパイシーで独創的なワードセンスと音楽への深い造詣に裏打ちされたサウンド・プロダクションは、ここ数年の新人アーティストのなかでは群を抜いたオリジナリティだったが、サラリーマン風のスーツ姿になぜかターバンを巻くという異端なルックスもあって、どこかつかみ所のない存在でもあった。そんな彼の素顔に迫るべく、キャンペーンで大阪を訪れたマハラージャンに話を訊いた。

写真/木村正史

◆「今作はダンスミュージックに戻ってきつつ・・・」

──2月に発売されたアルバム『ミーンミーンミーン☆ゾーンゾーンゾーン』。まさに会心の出来だったんじゃないですか?

ありがとうございます。自分でもいいものができたなと思ってます。

──デビューアルバム『僕のスピな☆ムン太郎』(2021年)は、とにかく自分が出来ることをやってみて、みんなが面白がってくれるんだという確信を得た作品だったと思うんですね。で、翌年のアルバム『正気じゃいられない』(2022年)ではサウンド的な振れ幅を広げ、それを深く推し進めたのが今回のアルバムだったのかな、と。

そうですね。そういう解釈で近いと思います。これまではやりたいこと、やれることが結構ごちゃまぜになってて。ホントはダンスミュージックだけをやりたいんですけど、それだけになると自分も聴く人も飽きるなと。あと僕、椎名林檎さんが好きなんですけど、いろんなジャンルをやられているじゃないですか。かと言って、ごちゃごちゃな印象もないので、別にほかのジャンルをやっても大丈夫なんだなと勝手に思って、いろいろやってます。

という風にやっていたのが、2枚目までで。今作は、若干のマニアックさはあるかもしれないんですけど、ダンスミュージックの方向に戻ってきつつあって。あと、水曜日のカンパネラのメンバーで音楽プロデューサーのケンモチヒデフミさんとコラボさせてもらったのが個人的には大きかったですね。毎回、幅は出したいんですけど、そういうコラボによってもっと幅が出せるんだなと思いました。

──ケンモチさんとのコラボは、ほかの凄腕ミュージシャンとの共演とはまた違って、音楽の面白さに対するシンパシーみたいなものもあったのかなと。

そうですね。僕の場合は毎回、皆川真人さんやOKAMOTO’Sのハマ・オカモトさん、OvallのmabanuaさんとShingo Suzukiさん、石若駿さんといった凄腕ミュージシャンに参加していただいて、そういう意味ではコラボっぽい部分はあるんですけど、ケンモチさんは作家性がめちゃくちゃ強いんですよね。それが一緒にやるときに、いい化学反応だったなと思いますね。

──ケンモチさんとなら、コンセプトの段階からいろいろやり取りができたんじゃないですか?

やっぱりトラックメーカーという時点で、全然方向性が違いました。あとは、ケンモチさんも音楽的に面白いことをすごくやろうとしてくれて。それが良かったなと思います。何度も連絡を取り合いながらやってました。

◆「残念ながら、自然とそうしたくなってしまう」

──今日いちばんお聞きしたかったのは、マハラージャンの素顔というか。サウンド的には分厚い音楽遍歴を伺わせながら、それを真正面から捉えさせないユニークさが魅力なんですが、この根源はどこにあるんですか?

なんでしょうね、ふざけたいんでしょうね、最終的に。残念ながら、自然とそうしたくなってしまう。自分ではそこまでひょうきんなタイプではないと思うんですけど、なんか作ったりするときとかは、ひと手間加えたくなっちゃうんですよね。それはたぶん性格ですね。僕の場合、ふざけていて格好いいのがいいと思っていて。これはオモシロ音楽とは違っていて・・・というか、絶対違うってことにしたいと強く思っていて。むしろ、オモシロ音楽と思われたら困るくらい。

その、ふざけているというのは、ある意味オシャレだと思うんです。まだそこに至り切れてないことは自分でも認めるんですけど、次は「もっと格好良くてふざけてる」をちゃんとできるようになりたい。アルバムを作ってるときは無我夢中なんで俯瞰して見られてなかったんですけど、リリースしたあとに「自分がやりたいことってなんだ?」と改めて考えたとき、そこにブレはなかった。でも、あまり意識できてなかったんで、次からはそこをもっと強めていきたいなと。

──その部分に関しては、今作がこれまででいちばんバランスが良かったと思うんですね。とはいえ、面白がってもらいたいけど、狙いにいくのはイヤだというのが透けて見えたり。爆笑じゃなくて、ニヤリとさせたいみたいな。

そうです。そこは正直、めちゃくちゃ難しいんですよ。そのバランスに非常に神経を使ってるんですけど、注意深く聴いてくれている人じゃないと、そこまで分からないかもしれないです(苦笑)。

──ふざけている一方、あまり素性をそのまま見せることを気恥ずかしいと思っている節も感じたりして。

なんか僕、最近になって気がついたんですけど、恥ずかしがり屋さんみたいで(笑)。

──実は(笑)。

そう、なんていうか、恥ずかしがり屋というか。

──格好いいことを、格好いいままするのは恥ずかしいという。

いや、そうなんですよ。なんかね、よく「恥ずかしがり屋さんなんですか?」って聞かれていて、「いや、違います」って答えてたんですけど、よく考えたら恥ずかしいなと思いました。そもそも、いろいろ気にするタイプなんです。些細なことを気にしちゃうので、かっこつけてるという行為自体が、自分のなかで「俺、かっこつけてるやんけ!」という。

──もうひとりの自分がツッコんでるような感じ?

あるんですよね、それが。挫折の多い人生だったからかもしれないです。ずっとイケイケだったら、そんなこともなかったかもしれないですけど、たぶん、いろいろと折れて折れてここまで来てるんで、そういう性格に影響を与えたのかなとも思うんですけど。

──たとえば、クラスの人気者でもなく、ちょっと端っこの方で「分かるヤツにだけ分かってもらえればいい」という人もいるじゃないですか。どちらかというと、その中間にいるような。

そうなんですよ! 分かるヤツにだけ分かればいいは、僕はあんまりいいと思ってなくて。かといって、学校の人気者でござい、というのも全然好きじゃなくて。そういう「どっちでもない化身」として、今の自分があるのかも。

◆「アップデートされている音楽が好き」

──フェイバリットに挙げているダフトパンクとかジャミロクワイの影響もあるんですか? ジェイ・ケイもちょっとおどけた、予測不能なキャラクターですけど。

おどけてますね。僕の大好きなバンクシーもそう。ちょっとおどけてるし、顔も出さない。そういえば、ダフトパンクも顔を出してなかったですね。ジャミロクワイは、「オレ、男前だろ」って感じでやらないじゃないですか。ああいう、音作りは一貫して職人っぽいのに、エンタメとしてお届けするのが好きなんで。

ジャミロクワイの歌詞をちゃんと調べたことは1回もないんですけど、『ヴァーチァル・インサニティ』(1996年)とか、未来への不安というか、社会への批判というか、そういうのが入ってると思うんですけど、ああいうオシャレなファンクでそういうことをやるってことがいいなって。逆にセクシーなものは、音楽的にもあまり惹かれないですね。

──じゃあ、プリンスとかは・・・。

そうですね、ちょっと僕にはセクシー過ぎて(苦笑)。あ、でも、『チェルシー・ロジャース』(アルバム『プラネット・アース〜地球の神秘〜』収録)は好きです。あれはグルーヴがめちゃくちゃ格好いいんで。

──それこそ『セーラ☆ムン太郎』はファンク色の強いダンスチューンで、デビュー当時は「社会派ファンク」なんて称されていましたが、今後はどんな展開となりそうですか?

そもそも僕は、フューチャーファンクとかシンセウェイブとか、80年代の雰囲気をまといながらも、今っぽくアップデートされている音楽が好きなんですね。(フランスのエレクトロ・デュオ)ダフトパンクの『ディスカバリー』(2001年)の質感って、フューチャーファンクに通じるというか、まさにそれだと。そういう、かつての音楽を今だったらこうエディットする、みたいなものがスゴく好きで。

だから最初、2019年にリリースした『いいことがしたい』(1st EPに収録)という楽曲を作ったとき、それを目指して作ったんです。難しいのは、それを自分の趣味だけで終わらせずに、みんなに分かってもらうようにすることで、そこはこれからも気をつけたいところですね。

──音楽的な知識がなくても、踊れる・ノレるというのが、あのときのダフトパンクのストロングポイントでしたよね。

そうなんですよ。だから、あんまり音楽に詳しくない人でも楽しめるような曲を作れるようになりたいと、今はすごく思ってます。

──秋には全国7カ所を巡るワンマンツアー『変』の開催も決まりました。まずタイトルから聞いていいですか。

これはですね、変わろうの「変」です。

──変化の変?

そうです。なにが変わるのか、なにが変なのか。そもそもマハラージャンって変じゃないですか。

──変なんですか?

変ですよ。それに、さっき言ったように、どこまでできるかは分からないですけど、次はフューチャーファンクがやりたいというのも変化ですし。ツアータイトルを考えるとき、これまで一文字が多かったんですけど、「変」というのを思いついたときに「ですよね!」という感じがしたんです。

──あえて自分で変なヤツで言っちゃうあたり、周囲を油断させたいみたいな想いもあるんですか?

あぁ。それはすごい、あるかもしれないですね。僕、映画を観るのが好きなんですけど、これが面白いという情報を絶対入れたくないんですよ。その期待値を超えられないときの悲しさ、というのがあるので。ごはんとかも、おいしいって言われてない方が楽しめますし。

──それでは、このツアー『変』もあまり期待しない方がいいですね。

いやいや、それはちょっと・・・。楽しんでもらえるよう頑張りますので、ぜひ遊びに来てください!

マハラージャン ワンマンツアー『変』大阪公演
日時:2024年11月3日(祝・日)・17時〜
会場:Yogibo META VALLEY(大阪市浪速区難波中2−11−1)
料金:6000円(スタンディング、ドリンク代別途要、整理番号付、未就学児入場不可)
※チケット一般発売日未定