マツダの独自性

「ロータリーエンジン」と聞いてピンとくる人は、クルマに多少なりとも興味がある人だろう。しかし、その多くは「スポーツカー」「燃費が悪い」というイメージを持っている。

 しかし近年、ロータリーエンジンを取り巻く環境は大きく変化している。今回はその歴史を振り返るとともに、販売面から今後のシナリオを予測してみたい。

 ロータリーエンジンは、日本の自動車メーカーのなかで唯一マツダが開発・採用しているエンジンである。このエンジンを搭載したクルマというとRX-7のイメージが強いかもしれないが、実は1967(昭和42)年のコスモスポーツまでさかのぼることができる。

 そこから、

・ファミリア
・サバンナRX-3
・RX-7

など数々の名車に搭載されてきた。後述する2度の危機に直面しながらも、歴史の荒波を乗り越えてきた強力なエンジンといえるだろう。

サーマルリアクターを採用したロータリーエンジン(画像:マツダ)

ロータリーエンジンの特徴

 ロータリーエンジンの歴史は古いが、通常のエンジンと比べてどのような特徴があるのだろうか。クルマ好きなら知っているかもしれないが、一般の人は知らないかもしれない。筆者(宇野源一、元自動車ディーラー)は、ロータリーエンジンには次のふたつの特徴があると考えている。

●コンパクトで高出力
 通常のエンジン(レシプロエンジン)に比べて効率が高い。一般的にエンジンは、吸気、圧縮、燃焼、排気の四つの工程を経て、クルマを駆動する力を生み出す。レシプロエンジンは、ピストンを2往復上下させることでこの四つの工程を行う。

 ロータリーエンジンは、おにぎり型のローターを回転させることで四つの工程を行い、ローターが1回転するだけですべての工程が完結する。効率がよいだけでなく、同じ出力を出すという前提でエンジンサイズを考えると、レシプロエンジンよりも小さい。スポーツカーにとって、「エンジンサイズが小さい = 軽量化」ということであり、ロータリーエンジンは理にかなった選択なのだ。

●壊れやすい
 コンパクトで高出力を出せるが、寿命が短い。使い方にもよるが、レシプロエンジンの半分から7割程度で寿命を迎えるものもある。また、オイルのメンテナンス間隔はレシプロエンジンよりも短いことが推奨されているため、頻繁なオイル交換が必要となる。つまり、レシプロエンジンと同じ感覚で使用すると故障のリスクが高まるのだ。

初代RX-7に搭載された12A型ロータリーエンジン(画像:マツダ)

燃費改善への挑戦

 ロータリーエンジン車が製造された時代には、さまざまな社会問題があった。環境問題への排ガス規制はもちろん、オイルショックも大きな障害だった。

 ロータリーエンジンのデメリットのひとつに「燃費の悪さ」があり、オイルショック時には非難された。しかし、技術者たちは燃費改善に心血を注ぎ、ロータリーエンジンは復活した。

 1990年代には水素を燃料とするロータリーエンジンの開発が始まり、2006(平成18)年には実用化され、リース販売のみだが市販された。

 また、ロータリーエンジンは、小型でパワフルという特性を生かし、電気自動車(EV)の「レンジエクステンダー」としても開発された。

 2013年、コンパクトカーのトランクにロータリーエンジンを搭載したEVが発表された。これが現在のロータリーEVに搭載されているエンジンの先駆けである。

レンジエクステンダー用小型REユニット(画像:マツダ)

ユーザーへの魅力伝達

 ロータリーエンジンを発電用エンジンとして使うクルマが発売された。ファンでなくても、ロータリーエンジンを搭載したクルマを買って乗る機会はこれからどんどん増えていくだろう。以下、ディーラー販売からの訴求目線だ。

●差異をどう理解してもらうのか
 クルマに詳しくない一般ユーザーにロータリーエンジンの魅力を伝えるのは難しい。レシプロエンジンとどう違うのか、どんな特徴があるのか、営業スタッフが熟知して説明する必要がある。

●「ロータリー係数」をどう理解してもらうのか
 ロータリーエンジンの大きな課題は税制だ。小排気量で高出力を生み出すエンジンだが、税金の計算が厄介だ。ロータリーエンジン搭載車の自動車税は「排気量×1.2」で計算しなければならない。例えば、排気量654×2ccのロータリーエンジンの場合、通常1500cc未満だが、この係数のために2000ccクラスの税金を納めなければならない。現在のロータリーEVは0.83Lエンジンなので、係数をかけても税額は1000cc未満であり杞憂(きゆう)かもしれない。しかし、将来のためにロータリー係数を理解しておくことは重要である。

●エンジンの耐久性をどう理解してもらうのか
 ロータリーEVのエンジンだが、24万kmは耐えられるように設計されている。ただし、適切なメンテナンスが前提になるので、ユーザーへの説明が必要になる。ロータリーエンジンはその性質上、こまめなオイルメンテナンスが必要だ。オイルが減ってきたら補充する必要があるし、定期的なオイル交換も欠かせない。「まったく乗らないから」とオイル交換を先延ばしにしていると、エンジンそのものを痛めてしまうことを理解してもらう必要がある。

 幾度となく逆境を乗り越えてきたロータリーエンジンは、まさに“職人魂の結晶”といえる。いちファンとして、その未来に期待したい。