次世代パワートレイン

 現在、世界的な環境対応車のトレンドとなっている電気自動車(EV)は、電気モーターをはじめとする電動車専用のパワートレインを搭載している。この次世代型として期待されている仕様が「X in 1」アクスルだ。

 パワートレインとは、主にクルマの動力源となるユニットのことである。内燃機関車では、

・エンジン
・トランスミッション
・デファレンシャルギア

など、動力に関わるシステムの総称である。電動車では、エンジンに代わって電気モーターが主な動力源となる。これを駆動するために、

・駆動用バッテリー
・インバーター
・減速機

など、電動車専用に設計されたコンポーネント(車両構成部品における部品やユニット)が搭載される。

 EVは現在、世界中の自動車メーカーが積極的に開発を進めており、さまざまな電動車用パワートレインシステムが登場している。現在注目されている「X in 1」アクスルは、次期主流といわれている電動車用パワートレインで、複数のコンポーネントを組み合わせたものである。

 電動車用の基本コンポーネントは、モーターやインバーターなどが独立して搭載され、それぞれが高圧ハーネスで接続されている。これらのコンポーネントを機械的に組み合わせてひとつのパワートレインにしたコンパクトなユニットは、「X in 1」アクスルと呼ばれる。例えば、モーター、インバーター、減速機を組み合わせたユニットは「3 in 1」アクスルと呼ばれる。

「X in 1」アクスルは、自動車メーカーだけでなく部品メーカーでも研究が加速しており、すでに量産車に採用されているものもある。

パワートレインの小型化。体積比(画像:日産自動車)

日産の電動アクスル革新

 次に、日産における電動アクスルの進化を踏まえて、「X in 1」アクスルが目指すものを見てみよう。

 日産は電動車を量産した最初の自動車メーカーであり、2010(平成22)年という非常に早い時期から量産EVリーフを販売していた。リーフの初期モデルは、「X in 1」アクスルなどではなく、電動車用の部品がすべて独立して搭載されていた。

 各コンポーネントがクルマの各所に配置されていたため、スペース効率と重量が問題となり、後に電動アクスルとして統合し、小型化する努力がなされた。初代リーフは開発途中でマイナーチェンジが行われ、その時点でモーター、インバーター、減速機が一体化され、「X in 1」アクスルの“走り”となった。

 現行モデルの2代目リーフでは、電動アクスルが1ユニットに改良され、初代リーフの25%のスペースが節約された。しかしこの時点では、個々のコンポーネントを収めた箱物が合体したに過ぎず、「X in 1」アクスルではない。

「X in 1」アクスルは、3 in 1アクスルで、モーター、インバーター、減速ギア、その他の部品をひとつの箱物に収め、さらにスペースを節約するもので、日産は現行リーフの電動アクスルをさらに10%小型化できると見込んでいる。

 また、日産は「X in 1」アクスルをEVだけでなく、ハイブリッド車であるeパワーシステムにも応用する計画で、発電用の発電機と増速機を組み合わせた「5 in 1」アクスルになる見込みだ。

 この「5 in 1」アクスルは、初期のeパワーシステムから30%の小型化が期待されており、小型化効果は大きい。箱物はEVとeパワーの両者専用だが、内部のコンポーネントはコスト削減のために共有化される見込みだ。

EVのイメージ(画像:写真AC)

省スペース化と軽量化

「X in 1」アクスルは、日産に限らず多くのメーカーやサプライヤーが次世代への採用を検討しているが、採用するメリットはいくつか共通している。

 まず、日産の例のように電動車用アクスルの省スペース化を可能にし、複雑なシステムを持つ電動車用のコンポーネントを統合できるメリットがある。省スペースであるため、車両への搭載が容易で、小型車から大型車まで共通に使用でき、かさばる箱物が不要になるため軽量化も図れる。

 日産の例にあるように、30%以上の小型化が見込めるのは、自動車用ユニットの小型化という点では驚異的なことであり、世界中が注目している理由がよくわかる。

 また、ユニットの小型化によるコストダウンに加え、もうひとつは、強電ハーネスの大幅な削減である。電動車用のコンポーネントは駆動用バッテリーから電力を供給されるため、電線となる強電ハーネスが必要となる。電動コンポーネントが別々に取り付けられている場合、各コンポーネントを接続するために強電ハーネスが必要となる。

 強電ハーネスは高電圧の電力を扱うために特別に設計されており、材料である銅の価格が高いため、非常にコストがかかる。「X in 1」アクスルでは、各ユニットを接続するための強電ハーネスが不要となるため、さらなるコスト削減が期待できる。

全体として、「X in 1」アクスルはまだ研究中のシステムだが、現在でもメーカーやサプライヤーは、特定のコンポーネントに適用することで小型化とコスト削減に取り組んでおり、その日々の進化に注目していきたい。