円安でインバウンドが活況となるなか、ゴミのポイ捨てや路上飲酒、ホテルの備品の持ち帰りなど、外国人観光客のマナーが問題視されている。そうしたなか、最近、複数の民泊経営者から一部の中国人観光客の“唖然とするような行動”に関する愚痴を聞かされたネットニュース編集者の中川淳一郎氏が、彼らのマナーについて考察する。

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 今年のはじめ、知り合いの民泊経営者・A氏から愚痴を聞かされました。同氏の住む寒冷地では、冬場の水道管凍結を防止するため、夜の間に水を常に少量ずつ出しておき、それをタライ等に溜めて翌朝有効活用するか、「水抜き栓」を活用して水を抜いておく必要があるとのこと。日々の対策として、地元の人はむき出しになっている水道管に毛布を撒いたりするなど、緻密な作業をしています。

 当然、民泊宿泊者にもその点を注意するようA氏は伝えるのですが、中国人宿泊者に限って言うことを聞いてくれないというのです。おかげで昨冬、2回水道管が破裂してしまったそうです。朝、決まって中国人宿泊者から「水が出ない」とクレームが来るため「昨晩言った通りの対応はしたか?」と確認すると、これも決まって「した」と言い張るのですが、Aさんは「どうも信用できない」と嘆きます。

 ある中国人宿泊者は、「言った通りのことをしたが、恐らく想定以上に寒かったのだろう。私の親戚は中国の寒い地域出身で、同じようなことが起きたことがあると聞いた」……などと本当か嘘か分からないことを主張。その日も別の宿泊客が来るだけに、言い争って事態を長引かせるよりはさっさと修理業者を呼んで直してもらった方がいい、と判断したA氏はこの中国人宿泊者の言い分を聞いた体にして、話をするのを諦めました。A氏はこうため息をつきます。

「絶対にあの人は私が言った通りの対策をしていない。しょせん1泊するだけだし、どうなってもいいと思っていたのでしょう。次の冬からは『こちらの指示に従わず、破裂させたら修理費3万円請求します』という注意書きをしようと思います」

 続いては関西で民泊をやっている知人・B氏の話です。同氏の民泊では、チェックアウト時の立ち合いをしていなかったことがアダになりました。ある時、宿泊した中国人夫婦がチェックアウトした後、清掃のために部屋に入って仰天。異臭がするのです。有り体に言えば「大便」です。おそるおそるトイレに行ったが特に何もない。

 そして、ベッドの上の掛け布団をはがすとそこには大量の下痢便が……。どうしようもなく漏らしてしまったのかどうか、経緯は不明ですが同情で済まされる話ではありません。とにかくその宿泊客はベッドに大便を残していったのです。

 慌てて電話をするも、出てくれない。メールを書いても返事がない。結局マットレス、シーツ、掛布団をすべて買い替えたうえ、念のため部屋ごとクリーニングする羽目になったとのこと。

 A氏とB氏の言葉から共通して透けてみえるのは、その宿泊客が「自分のことしか考えていない」という姿勢です。

かつての日本人も海外ではひんしゅくを浴びてはいたものの…

 2000年代後半から2010年代にかけて、北京五輪・上海万博を経て豊かになった中国人観光客の訪日が激増した際、「爆買い」が話題になるとともに、そのマナーが問題視されるようになりました。当時、銀座の街中で中国人の親が子供に排泄をさせる姿も報じられたことから、日本のネット上では中国人観光客を迷惑視する論調もありました。あれから10年以上が経過しましたが、厄介な観光客は依然として一定数いるようです。

 とはいえ、これはかつて日本人もやらかしたことが知られています。特にバブル期、日本人はこぞって海外旅行に出かけてはカジュアル過ぎる服装でブランド店に大挙して押しかけたり、高級レストランでのテーブルマナーもなんのその。集団で動いて大騒ぎする日本人観光客が、現地でひんしゅくを浴びていました。

 そういう過去を踏まえると、マナーの悪い中国人観光客に対して「オレ達もかつてはそうだったのかな」と私自身思いつつも、「そろそろ訪問先の作法を身につけてくれないかな」とも願うのです。

 少し前に私が東京出張へ行った時宿泊したホテルでのこと。朝食バイキングでは中国人観光客がとにかく大量に食べ物を取り、すぐにバットを空っぽにしてしまいました。さらにはそれらを空のコンビニ弁当の空き容器らしき入れ物に入れて部屋に戻る様を目撃しました。

 そういった経験を何度かしたことで、私はもう朝食バイキングには行かなくなりました。とにかく、彼ら/彼女らのさもしい姿を見たくないのです。中国は今や世界2位の経済大国だし、アメリカと並ぶ「2強」という状況。海外旅行に出かけるほど経済的に余裕があるなら、行動にも余裕を見せてほしいと思うのですが、おサイフとマナーは関係ないのでしょうか。

【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など多数。最新刊は『日本をダサくした「空気」』(徳間書店)。