このようなローテーションを歩む馬は今後、出てこないかもしれない。97年の朝日杯3歳Sを圧勝し、「マルゼンスキーの再来」と呼ばれたグラスワンダーである。98年の有馬記念で年長馬を一蹴。年が明け、古馬となっての始動戦に選ばれたのが京王杯SCだった。グランプリから1100mの距離短縮となるレース選択にファンが驚いたことは言うまでもない。

 紆余曲折があって決まった始動戦だった。当初は3月の中山記念に向かう予定だったが、右肩の筋肉痛で回避。大阪杯に切り替えたが、最終追い切り後に左眼の下部に裂傷を負ったため、再び回避。その結果、京王杯SCに向かうことになったのだ。

 迎えた一戦、グラスワンダーは1番人気に支持された。とはいえ、単勝オッズは2.1倍。2番人気のケイワンバイキングが4.8倍だったので、ファンから絶大なる信頼を寄せられているわけではなかった。しかし、レースでは「さすがグランプリホース」という走りを見せた。道中はゆったりとした流れの中団に待機。直線で大外に持ち出されると、粘り込みを図る先行勢を一気に捕らえ、復帰戦を勝利で飾ったのだ。2着のエアジハードとは3/4馬身差。それでも着差以上の力差を感じさせる楽勝だった。

 大幅な距離短縮でJRA平地重賞を連勝する馬は意外に多い。しかし、1000mを超えるものはレアケース。86年以降に限れば、メジロブライトの1400m(97年ステイヤーズS・3600m→97年AJCC・2200m)、メジロマックイーンの1200m(92年天皇賞(春)・3200m→93年大阪杯・2000m)、そしてグラスワンダーの1100m(98年有馬記念・2500m→99年京王杯SC・1400m)の3頭のみだ。とりわけ中距離から短距離への転戦だったグラスワンダーの「仰天ローテ」を選ぶ馬は今後、出てこないかもしれない。

 グラスワンダーは20年に種牡馬を引退し、北海道・新冠の明和牧場で余生を過ごしている。来年で30歳。少しでも長生きすることを願いたい。