東京大学周辺で確立したイノベーション創出のエコシステムを、日本全体に浸透させよう―。東大子会社の東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC、東京都文京区、植田浩輔社長)は3号ファンドを設立したのを機に、出資者の東京都や東大と全国の大学発スタートアップやベンチャーキャピタル(VC)を支援する活動に乗り出す。さらにユニコーン輩出に実績がある海外VCと日本をつなぐ窓口になるなど“第2創業”の展開を図っている。(編集委員・山本佳世子)

新ファンドを活用した灯台IPCのイノベーションエコシステム

新たな東大IPCの「ASAファンド」はファンド・オブ・ファンズの形態だ。多数の既存VCファンドに出資して、広く支える特徴がある。これに同社のスタートアップ起業支援プログラム「ファーストラウンド」を組み合わせる。

ファーストラウンドは同社が多様な大学の技術シーズを発掘して起業前後をハンズオンで支援。練り上げたビジネスプランのコンテスト審査員に多数のVCや大企業から投資経験が豊富な人物を迎え、出資や協業の橋渡しをするもの。対象案件の9割が資金調達に成功する。このほど沖縄科学技術大学院大学、金沢大学、東京理科大学などが加わり大学は17校に拡大。国立研究機関も参画した。

多くのスタートアップで課題となる経営人材の不足に対しては、ビジネスパーソンを候補者として紹介するマッチングのプラットフォーム「ディープテックダイブ」を手がける。ただしこれらがうまく回るのは東京だからという面もある。技術シーズの質量もVC数も、他都市と比べて突出しているからだ。

東大IPC「ファーストラウンド」の参加機関

近年、政府はスタートアップ育成施策を強化し、約1000億円の基金で支援する全国9拠点も動いている。しかし北陸や北関東、九州などではノウハウが乏しい。同社は各地域から相談を受けるが、1大学と10億円程度の地銀ファンドの規模ではスタートアップ輩出は難しい。中核大学を中心とした地域ブロックでのエコシステムのモデル確立が必要だ。同社の経験やノウハウを提供し、深く関わろうとしている。

「VCとしてのリターン確保なら東京だけでいい。しかし各地域を活性化して東京と相乗効果を出し、日本全体を盛り上げたい」と植田社長は強調する。同社は国立4大学に政府資金で設立されたVCの一つだ。制約の大きかった政府ファンド二つにめどを付けて、新ファンドはいわば第2創業の要。よりオープンに社会と関わる手だてとなる。

一方、新たな試みとなるのは、海外VCが日本のディープテックに投資するのを仲介する窓口役だ。「日本は上場時の時価総額が低いものの、海外VCは技術力の高さに注目している」(植田社長)ためだ。

海外VCによるジャパンファンド設立は、政府や産業界の期待が大きい。「東大や当社を活用して日本のユニコーンを生み出してもらい、我々はそのノウハウを習得する」(同)。日本全体を底上げしつつ先端的な経験を積んでいく。東大事業会社ならではの活躍が、さらに広がりそうだ。