【65歳アルバイトの現実】#24
マンション管理人編
◇ ◇ ◇
「60代のバイトは健康をアピールしなきゃならない」と実感したのが管理人の面接だ。
都内の派遣会社を訪れると2人の面接官が迎えてくれた。60代の男性・敷島氏(仮名)とアラフィフらしき女性の大石さん(仮名)だ。
募集案件はマンションの管理人。月曜から金曜の週5日勤務で、午前8〜11時の3時間働く。報酬は月給制で月額6万7200円。リタイア組の小遣い稼ぎと言ったら叱られるだろうか。
「主な仕事はゴミ出しです」と敷島氏。可燃ゴミや資源ゴミなど週に4回、ゴミ回収がある。住人は集積場にゴミを持ってくるが、なかにはコンビニ袋などもある。それらを仕分けし、70リットルのゴミ袋にまとめて回収車が来る道路に運ぶ。その後、集積場に洗剤をまいてブラシで掃除する。
ゴミの移動と掃除で1時間半ほど要し、あとは廊下やエレベーターの清掃、出入り業者への対応、駐車場の管理を行う。
「休んでる間がないので、あっという間に終わりますよ」
大変なのはビールなどの空き瓶や空き缶。新型コロナ以降、家飲みする住人が増え、アルコール関連のゴミの量が増した。ただし、運搬は台車を使うのであまり負担にならないという。
都内では次々とマンションが建設されるため、この会社は毎年10件以上の新規契約を取り、常時管理人を募集している。
「働いている人の平均年齢は69歳。管理人の多くは70代で、80代もいます」
私のほかに数人の応募があり、連日面接している。20、30代からの応募もあるが、基本的に採用しない方針。理由はコミュニケーション能力だ。高齢者の住人は管理人と世間話をしたがるもの。長年の対人スキルを生かして、気持ちよく接してもらいたいと期待しているのだ。
「ただし長話をすると他の住人が『あの管理人は世間話をしに来ている』とクレームをつけたりします。会話するのは5分が目安。住人たちは管理人の働きぶりを陰に日なたに監視していると考えてください」
仕事に没頭して声をかけられたことに気づかず、「あの管理人は挨拶もできない」と苦情を受けることもあるそうだ。
40分以上かけて話を聞き、荷物をまとめ立ち去ろうとしたら、大石さんに「ちょっと待ってください。まだ終わってませんよ」と引き留められた。
「たばこは吸います? お酒は? 最後に健康診断を受けたのはいつですか?」と質問の嵐。
「たばこは20年前にやめました。酒はめったに飲みません。先日、健康診断を受けたら、体重が15キロ減ってました」
私は1年前からダイエットを続けている。体重減は誇るべき成果なのだが、大石さんは「15キロ減ということは病気をなさったのでは?」と追及。
「いえ。ダイエットです」「どんなダイエットを?」「糖質制限ダイエットです」
「健康状態はいかがですか?」
「きわめて健康です」
「血圧の数値は? 病気で通院中ではありませんか? 入院経験は? 運動はしていますか?」
と大石さんは食い下がる。そのやりとりを見ながら敷島氏が言った。
「なにしろ人手不足ですからね。5年、10年と長期で働いていただきたいので、健康チェックに力を入れているのです」
なるほど。高齢者のバイトは健康状態も採否の決め手というわけだ。
(林山翔平)