<ドラマ『Destiny』第6話レビュー 文:木俣冬>

「それが私の犯したふたつめの罪だった」

第6話にして、『Destiny』の主題が色濃くなってきた。

ここから先を書くためにこれまでの5話分があったのだろうとさえ思った第6話。連ドラでは近年、途中で「第1部完、第2部スタート」になる構成が増えているが、『Destiny』は第1部というよりも5話分をプロローグに使ったかのような贅沢さだ。

とりわけすばらしかったのは、奏(石原さとみ)がふたつのめの罪を犯すに至るまでの真樹(亀梨和也)との取り調べシーンだった。

かつてこのようにもどかしい取り調べシーンはあっただろうか。いや、ない。取り調べが恋人たちの睦言のようにも見えて最高であった。

まずは第1話の冒頭に戻る。奏は真樹の取り調べ担当になった。真樹には放火殺人容疑という放火と殺人のダブルの罪が問われている。被害者は、真樹の父・浩一郎(仲村トオル)だ。

奏の父・英介(佐々木蔵之介)を自殺に追いやったのは、やはり浩一郎だった。そんな父を「絶対に許さない」と言っていた真樹が、実家を訪問し放火したと自白して捕まった。

「君のために火をつけたのかな」と、奏の恋人・貴志(安藤政信)が心配そうな目をする。

ニュースを見た知美(宮澤エマ)と祐希(矢本悠馬)の夫婦も不安顔。とくに祐希が事件に驚いた以上の顔をしている。浩一郎と接近し、彼の連絡先を真樹に知らせたのは祐希であったから、何かしらの後ろめたさがあるのだろう。

支部長命令で、真樹の事件を奏が担当することに。第1話の冒頭、奏がブツブツと取り調べで話す内容を、演劇の稽古のように予行演習していた理由がわかる。

はじめて第1話を見たときは、独り言を言いがちな内向的な人物描写なのかと思ったが、奏にとって特別に緊張感を伴う取り調べだったのだ。「あなたは今回“現住建造物等放火”という罪で逮捕されました」と誰もが聞き取れるようにはっきり発話させなかったのは演出の仕掛けであろう。

もう一度改めて第1話を見返すと印象がまったく違って見えておもしろい。ただ、変わらないのは、『Destiny』とは、主人公・奏の正義(愛)を試す物語であるということだ。そしてこれこそが物語の主題であろう。

奏の父・英介が言っていた「自分の正義を貫くこと、いや、正義を貫けるかどうか それが試される仕事かもしれないな」の「正義」を「愛」に置き換えてみるとしっくりくる。

◆奏が真樹を取り調べ…がんじがらめのスリル

第1回、第2回、第3回と取り調べが続いていく。

はっきり言って、親密な知り合いである奏が真樹の取り調べをすることには釈然としない。奏の取り調べを聞いていると明らかに私的な話が入ってきていて(全く事情を知らない人はわからない範囲で)、これじゃあ客観的な取り調べはできないのではないかという気がする。

ちなみに裁判官は、被告人が親族だった場合、裁判に関わってはならないルールがあるが、弁護士は身内の弁護も可能だとか。検察官はどうなのだろう。奏と真樹は身内ではないから問題にはならないのかもしれない。

とはいえ、奏はどういう思いで真樹と向き合っているのか。できれば真樹に有利になる証言を引き出したいというのが人情ではないか。

浩一郎と口論のすえ、カッとなってライターに火をつけ投げつけるとカーテンに燃え移ったという真樹の証言から奏は、放火目的ではないことを確認する。これも当たり前のようでもあるし、奏が真樹に少しでも有利になるようにしたい気遣いのようにも見える。

父に瀕死の重症を負わせて申し訳ない気持ちがないのかと訊ね、ないと真樹が答えると、奏はがっかりしたように見えた。

取り調べを通じて、奏は真樹の過去を知る。真樹は昔から父が嫌いだった。地元の友達と万引きしたと告白、盗んだものを「バニラアイス」と言う真樹。こんなときにも冗談を言う真樹に奏は顔をしかめる。

こんなふうにひとつひとつの問いに、検察官としての正義と真樹への情に奏ががんじがらめになっているようなスリルがある。

奏も真樹も最初はプライベートの顔に、すんと澄ました仮面をかぶって向き合っていたが、そこここで表情や口調に素が漏れる。

万引きしたのはカードゲームで、それを父がもみ消した。そういうことがいやで父から距離をとった真樹は、大学時代の話になって「あの頃が一番幸せでした」と言う。

明らかに奏のことを話し出す真樹。「心を開ける人いなかったけど、その人といると自然に」とかそんなこと取り調べで話すこと? と思うが、真樹が「そういうことありませんか」と言うと奏は「わかります」と応える。

相手をまず受け入れるという取り調べの作戦とは思えない。心から同意しているとしか思えないのだ。

まるで、愛の言葉を禁止にされている国で、ほかの人にはわからない暗号で愛を語り合っているみたいなのだ。

「どうしてその人と別れたんですか」「正直に伝えたらわかってくれたかもしれないのに」「理由も告げられず置き去りになった人のことを考えなかったんですか」という奏の重ねる質問は、別れた恋人の恨み節のよう。

ところが、「そういう衝動性があなたにはあるんですか」と、奏はふいに検事の顔になる。俳優にとっては演技のしどころだし、見ているほうもワクワクする。

「火事のことですか」「どうして関係のないことを聞くんですか」と真樹は反論。彼は奏に私的な話を聞いていることを認めさせることで、自分に気があるのだということを認めさせたい(本人がそう思いたい)と思っているようにも感じる。

「全部燃やして何もかもなくなれば」というのは本音で、奏との関わりが元に戻らないのであれば、ということなのかも。

「手錠って冷たいんですね」と言う真樹。手錠はアイスよりもきっと冷たい。

◆なぜこんなにも、真樹は奏に罪な誘いをするのか

後半戦から登場のキャラ、板尾創路演じる渡辺刑事が新事実を発見。ガレージでガソリンがまかれて燃えたらしい。

供述と食い違うのは、罪が重くなるのをまずいと思ったからと淡々と答える真樹に、自分が燃やしたと言いながら罪の重さを気にする矛盾をつくと、ちょっと薄く笑って「はいそうです」と言うときの真樹は、奏が好きな気持ちが滲んで見える。

ふたりの深い関係性がよくわかる会話がとてもよくできているし、演じているふたりも、仲良かった者たちは時間を経て再会してもやっぱりどこか気安い感じが出てしまう空気を見事に演じている。

真樹は第1回、第2回、第3回の取り調べで常に白い服を着ている。1回、2回と、白と対比するようにダークな色味のジャケットを着用していた奏が第3回の取り調べでは白を着ている。

放火犯は別にいるのではないかという疑惑があがった矢先、真樹は留置場で血をはいて倒れる。勾留停止、取り調べ中止になった。

胆嚢がんが十二指腸まで転移して、手術をしないと命は長くないと貴志から聞いた奏は、貴志(安藤政信)の勧めで病室を見舞う。

貴志:「ついていてあげたら」
奏:「いいの?」
貴志:「いまは誰かがそばにいてあげたほうがいいと思う」

この会話も、く〜〜〜っとじたばたしたくなる。

病室では奏はジャケットを脱いで、取り調べとは違うオフ感で真樹に接する。

目が覚めた真樹は奏の手を握り、取り調べでは言えない本音を吐露した。病気を知ったとき、奏と一緒にいたくて戻ってきたと。

でも、物事はこんがらがるばかり。「おかしなほうへ、おかしなほうへ行くのかな」と心の弱った真樹は、「奏、逃げない?」とまるで大学時代にカンニングを申し込んだときのような言い方で奏を誘う。

ここで、主題歌『人間として』のイントロがはじまって「正義よ、お前はいま〜」とまた問いかけてくる。奏たちに悪魔みみたいにささやきかけてくる主題歌には中毒性があって、いまやなくてはならない存在である。

ともあれ。なぜこんなにも真樹は奏に罪な誘いをするのだろうか。

浩一郎は彼の罪を毎回、隠蔽する。つまりそれは真樹の言動や心情を受け入れていないから。罪は罪とはいえ、それを行った真樹をそのまんま受け止めてほしいのだろう。幼い頃母に去られ、父もこんな感じで、真樹はその分、誰かに受け止めてくれることを求めている。それが奏なのだ。

真樹の愛情確認の試し行動に対して、学生ではなく、いまや検事となった奏は受け止めるのか――。これってへたすると奏はお母さんになってしまう。余計なお世話だが、つきあうなら貴志のほうがおすすめだよなあと思う。でもそうならないのが人間なのだ。