今年、100周年を迎えたイギリス・マンチェスター発祥のスポーツブランド『UMBRO(アンブロ)』。4月13日にはロンドン中心部にあるウェストミンスター大学で100周年記念のエキシビションが開催された。

そこで今回は、100周年イベントの数日後に行われた、UMBROのキーマン3名へのインタビューをお届け。

せっかくの機会なので、昨今のヴィンテージユニフォームのトレンドに関してどう感じているかなど、Qolyからも質問をさせていただいた。



多くのサッカーファンに愛されているUMBRO。彼らが歩んできたこれまでの100年、そして、これからの100年とは―。

  • UMBROブランド最高責任者 アンソニー・リトル氏
  • UMBROグローバル・ブランド・マーケティング最高責任者 ヘレネ・ホープ氏
  • UMBROプロダクトカテゴリー責任者 コリン・ローマス氏


――UMBROというブランドについて。

アンソニー:UMBROは、100年という長い歳月を駆け抜けてきたこともあり、フットボールだけでなくさまざまスポーツにおける豊かな歴史と遺産を背景に持つブランドです。

――創業時と比べて多くのスポーツブランドが増えている現状について。

アンソニー:国によって立ち位置が異なり、ある国のある市場でUMBROはトップ3に入るフットボールブランドですが、他の国だとそうはいきません。明らかに言えることは、私たちの強みと主要事業は、フットボールをはじめとしたスポーツであること。しかしながら、ライフスタイル事業も成長曲線にあります。

――他ブランドとの差別化を含めたブランディングについて。

アンソニー:我々は、世界的ブランドとは異なる立ち位置を目指しています。具体的な内容は言えないのですが、他のブランドと似たような施策等は避けており、だからこそ他ブランドとは異なるオリジナリティーを作り上げられていると思います。

ヘレネ:UMBROは、とても手に取りやすく大衆的な、地に足が付いた親近感のあるブランドです。例えば、個々の能力を伸ばすことにフォーカスする他のブランドは、エリート主義的な感じが強く“とにかく勝つこと”を目指しています。

しかし、UMBROは“フットボールを楽しもう”という考えが強いのです。それに、美しい試合には団結力がつきものという考え方をブランドに反映しており、草の根活動的なチームに重きを置き、フットボールはチームスポーツであることを忘れず、個人を何よりも優先しているのです。

コリン:私の観点から言うと、デザインの観点と哲学に基づき、UMBROの本質を理解してアイテムに取り入れることですね。

――チームをスポンサードすることについて。

ヘレネ:フットボールはチームスポーツですから。それに、ブランドの歴史を考慮しても、フットボールチームのスポンサーに力を入れるのは当然のことです。これまでに約125のチームをスポンサードしてきたように(※1)、UMBROはチームの連帯感を力強く表現できるブランドなのです。

アンソニー:つまり、オーセンティックなブランドだということです。これは、プロだろうとアマチュアだろうと、レベルは関係ありません。

(※1)1966年の時点では、英国の85%のクラブがUMBROのユニフォームを着用。



――フットボールのイノベーション、テクノロジー、デザイン、カルチャーなどの変遷について。

コリン:そういった変化は、常にテクノロジーや新素材の誕生とともに起こってきました。

現在のプロダクトは、以前よりもずっと軽くなっていますが、おそらく以前までは耐久性にはファブリックの重さがつきものだったと思います。しかし、テクノロジーの進化につれて現代的な軽いファブリックが手に入るようになりましたし、例えばモイスチャーウィッキング(※2)や熱調節などの機能性も高まり、アスリートは試合中にどんな効果があると良いかを理解した上でアイテムを選んでいます。

UMBROは、創業当初からアスリートのニーズを理解し、期待に沿えるように製品を企画・開発してきました。この100年間で、プロダクト開発における鋭い洞察力は受け継がれてきましたし、次の100年後も変わらず持ち続けることでしょう。

(※2)汗や水分をすばやく吸収し繊維の外に水分を逃がす素材。

ヘレネ:過去100年のフットボールの試合の進化を振り返ると、劇的な変化がありました。

ハロルド・ハンフリーズ(※3)がUMBROを創業した1924年頃、人々は国単位で、観客としてフットボールの魅力に気が付き始めました。というのも、国全体がフットボールの虜になったことこそがUMBROの創業理由で、増加していくチームに美しいサッカー用のユニフォームを提供すれば、ビジネスとして成功するのではないかと考えたのです。

それだけでなく、業界内で起こった変化にもUMBROは貢献してきました。例えば、ユニフォームのレプリカモデルですね。今でこそどこかのクラブのサポーターであれば、ユニフォームを購入して着ることでクラブへの愛を表現することができますが、1950年代後半までこのような考え方はありませんでした。もしユニフォームが欲しければ、1チーム分を丸々セットで購入する必要があったのです。

そんな中、UMBROは小さい男の子をターゲットにしたクリスマス商戦用に、シャツとショーツ、ソックスをセットにしたボックスセットを生み出しました。子どもは、ピッチのヒーローと同じような服装でプレーしたいものですから。結果として、これがUMBROにとっても重要な出来事の1つでした。

また、1960年代までクラブはブランドからキット一式を購入する必要があったのですが、UMBROは1966年のワールドカップの際に無料でユニフォームを提供したことで、業界を一気にゲームチェンジしたのです。1950年代に入ると、コラボレーションをスタートさせました。

ご存知の通り、今や誰もがコラボを行っていますが、当時は革新的なアイデアで、70年以上前から完璧なユニフォームを作るためにアスリートと手を組んでいたのです。この100年間で業界やフットボールシーン、試合などでありとあらゆる劇的な進化と変化がありましたが、良くも悪くもUMBROが多くの要因でした。

(※3)UMBROの創業者。――1966年に無料でユニフォームを提供したことについて。

ヘレネ:正確に言うと、UMBROではなくハロルド・ハンフリーズの子どもが世界中を飛び回り、W杯参加国のサッカー協会に直接働きかけ、試合で着用することを条件にユニフォーム一式をプレゼントしたのです。

それまでは、チームがUMBROのようなブランドから買い取るのが通例でしたが、それを根本から変えたのです。現代でいう、スポンサーに近い関係の始まりですね。今日では、我々ブランドが大金を払ってチームにユニフォームを着てもらうようになりました。



――シェア争いが熾烈なフットウェアにおける新しいイノベージョンや新作モデルの展開について。

コリン:私たちは常に革新を起こすように意識していますし、素材の観点からどのようなことが実現可能かを理解することも重要です。開発の出発点はいつも、アスリートと共にあります。

つまり、彼らが何を求めているか、ということからアイデアを膨らませ、それは試合内容の変化にあわせて変わっていきます。年々、試合はよりスピーディーな展開を見せ、プレーヤー自身の能力値も高くなっていますからね。

だからこそ、我々の仕事はプレーヤーが何を求めているかをきちんと理解して、彼らが100%の力を発揮できるようなものを必ず作り出す。科学的観点から見たり、生物力学を理解したり、もしくはファブリックと素材の観点から専門家と組んだり、あらゆる手段を使ってプレーヤーにパフォーマンスで必要なものを必ず提供することが、UMBROの使命なのです。

――コラボレーションの歴史と、それによる変化について。

ヘレネ:コラボレーションとは、単にファッションデザイナーとのプロジェクトを指すだけでなく、異なる分野で活躍し、プロダクトに専門的な知識を授けてくれるスペシャリストと行うことも意味するのですが、UMBROが初に行ったコラボは1950年代になります。それは、“Choice of Champion”と名付けられたマンチェスター・ユナイテッドの監督マット・バスビーとのトレーニングコレクションです。他にも、元イングランド代表の監督アルフ・ラムゼイ(※4)とも一緒に仕事をしました。

ですので、2002年にポール・スミスと組む以前よりコラボ自体は行っていましたが(※5)、ウェアよりもフットウェアが主流だったので、“ファッションブランドとのコラボに力を入れた初のブランド”として知られているのです。UMBROとポール・スミスは、どちらもイングランドのブランドで、イングランドのチームとつながりがあるということで、自然な成り行きからコラボが決まりました。

(※4)1966年に開催されたW杯イングランド大会で、同国代表を初優勝に導いた監督。(※5)UMBROが初めてコラボレーションしたファッションブランド。

――コラボの中でも、キム・ジョーンズやPALACEなど、英国同士の結び付きが多いことについて。

アンソニー:必ずしも意識していると言うわけではないですが、100周年に際して“イギリスらしさ”とは何かに注力してきました。コラボとは双方に有益があるものです。相手がUMBROに新たな価値観を与え、我々も同様に相手に新たな価値観を吹き込む。双方にメリットがなくてはいけません。

大抵の場合、ファッションブランドはUMBROが非常にオーセンティックで歴史ある存在であることに魅力を感じてくれますし、コラボすることで彼らのデザインへの信頼度が増すでしょう。そして、我々自身もファッションデザイナーと協業することで、普段とは違う客層にリーチできます。

現在では、主にスポーツ好きに届いていますが、コラボが可能性を切り開き、いつもとは違う顧客が商品やブランドを見てくれるのです。

――ファッションブランドとのコラボによって引き起こされる可能性があるブランディングのブレについて。

アンソニー:最初に、コラボ先のブランドのことを評価し、彼らがなぜUMBROとコラボしたいのか、そして我々もなぜ彼らとコラボしたいのか、きちんと理解するようにしています。

先ほどお伝えしたように、コラボは双方にメリットがなくてはなりません。ファッション系や他の分野など関係なく、UMBROのスポーツにおけるオーセンティックさを必要とせず、単純に利益を求めているような相手からの提案は断ってきました。UMBROに何か新しい価値観が生まれないコラボであれば、はっきりノーと伝えます。

ヘレネ:アンソニーが言ったように、コラボしようとしている相手との相性の良し悪しを、初期段階から評価することが大事です。あと、現在は必ずしもファッションブランドとコラボしているわけではなく、例えばPALACEなどのコラボ相手をファッションブランドとは思っていません。

彼らは本質的にはスケートブランドで、ストリートウェアブランドですから大きな違いです。ストリートウェアは今はファッショナブルですが、数年後にはどうなっているかわからないですし、そうなった場合、テクノロジー主体のコラボに軸を据えるかもしれません。



しかし、今現在でいえば、ストリートウェアやスケートに根付いたブランドとコラボする傾向にあります。シンプルに、Z世代に響きますからね。

コリン:他のクリエイティブな人たちや異業種の人たちと一緒に仕事をするのは、より広い知見を得ることができる素晴らしいことです。コラボは視野を広げてくれますし、プロダクトの創作過程において、他者の視点を取り入れながら、従来とは違った側面にも重点が置かれるようになります。

私たちにとって、スタート地点はいつも消費者を理解したり、トレンド予測やそれに近い情報を見ることから始まります。デザイナーの観点から話すと、コラボ相手には何年もファッション業界で働いている人もいて、豊富な知識や製造工程を提案してくれるので、学ぶことがたくさんありますね。

――昨今のヴィンテージユニフォームのトレンドに関して。

コリン:UMBROのようなブランドにとっては、非常に良い流れです。UMBROは、これまでイングランド国内の多くのクラブをスポンサードしてきたので、フットボールにまつわる歴史と遺産、膨大なアーカイブが強みですからね。

いちフットボール好きとしても、かつてのトレンドや当時を象徴するアイテムを、日常的に見られることはとてもありがたいです。そういったアイテムと共に自分が成長してきたわけですし、ブランドとしても我々の財産(過去のアイテム)が今も価値があるのは誇りに思います。

トレンドというのは常に移り変わるものなので、次が来る前に今の波に乗り、好機を生かすべきです。同時に、スポーツの試合に熱中する1人の人間として、あと数年間は見届けたいと思っています。

ヘレネ:ただ、UMBROの良いところは、トレンドに大きく左右されないことです。トレンドは循環するもので、自分がこの業界にいる間、さまざまなトレンドが来ては去り、また来てはメインストリームに組み込まれていく様子を見てきました。その中でUMBROは、100年という背景があるので、いくらでも過去を掘ることができるのが強みですね。――過去に生産していたリバーシブルユニフォームをはじめ、UMBROの創造の源泉について。

コリン:インスピレーションはさまざまな形を伴って現れますが、最も重要なことは、消費者を理解し、彼らが何を欲しているかを知ることです。これはアスリートだろうが、ストリートにいる人たちだろうが、関係ありません。

リバーシブルユニフォームも当時としてはユニークな発想でしたが、現代のアスリートが求めているのはとにかく軽いものです。端的に言って、リバーシブルユニフォームの多くは生地が二重になっているため重く、おそらく今後復刻することはないでしょう。今は軽量で、通気性に優れ、体温調整機能があるものに注力しています。

――会社として取り組んでいるサステナビリティについて。

アンソニー:リサイクル素材を使用した商品を開発するなど、可能な限りサステナブルなブランドであるように大限意識しています。近年は、飛行機によって排出される温室効果ガスの排出を鑑みて、世界各国への出張を減らしました。

ヘレネ:サステナビリティの大きな一歩として、数年前に植物由来のインクやリサイクル素材を使用したパッケージに刷新しました。また、フットウェアにおいては、どれだけサステナブルでいられるか、という制限があるように思います。これについては、コリンに説明してもらいます。

コリン:出来る限り再生素材を取り入れるようにしており、今はスパイク『ヴェローチタ』のアッパーにリサイクル素材を、アウトソールにトウゴマ由来の新素材を使っています。



しかし、単にリサイクル素材を使えば良いということではありません。耐久性のある高品質のプロダクトを作ることも非常に重要で、それこそが究極的に一番サステナブルなものだと思います。

例えば、先日のエキシビションで多くのヴィンテージアイテムが展示されていたように、UMBROのプロダクトは長持ちするように製造されてきました。それが、サステナブルの何よりの証拠です。

――先日の100周年イベントについて。

アンソニー:ウェストミンスター大学でのイベントは、単なる歴史の授業ではなく、UMBROがいかに重要なブランドだったかを物語っていて、私個人としても非常に有意義なイベントでした。

中年の男性がノスタルジーを求めて来るだけでなく、ブランドを深く理解してくれているZ世代も訪れ、SNSで感動を分かち合おうとしている姿は感動的で、これ以上ない瞬間です。チームとしても、100周年を迎える2024年のタイミングで、ブランドを守る立場にいられることを光栄に思います。

ヘレネ:私にとっても印象的だったのは、イベントは当然、2025年春夏コレクションのセールス会議を会場の横の部屋で行っていた時間です。

どういうことかというと、過去を振り返りつつ、同時に未来の話をしていたのです。マーケティング担当者として、このような瞬間に立ち会えることは滅多にないと思いますし、ミーティングに参加していた人たちの多くも、同じように感じていたのではないでしょうか。

100周年イベントを開催することで、単なるスポーツブランドというだけでなく、イギリスのスポーツカルチャーやテキスタイル産業の一旦を担ってきた、UMBROの重要性を見事に示すことができたと思います。同時に、どのように次の1世紀を駆け抜けていくかについても話すことができました。

UMBROは、“もう100周年”ではなく“まだ100周年”です。

コリン:プロダクトの観点から話すと、初期のアイテムを手に取ることで、服作りに宿る技術や見識を得ることできて非常に魅力的でした。私の立場からしたら、ご褒美みたいな時間でしたね。

ヘレネ:イベントには、私たちですら見たことがなく、アーカイブにも残っていないようなアイテムもいくつかありました。その中で、フットボールではなく、デザインの単純な美しさと機能性の観点から、特に目立っていたアイテムが2つありました。

1つは、1950年代のボート用のローイングショーツです。完璧なデザインと痒いところに手が届く作りで、現代のデザイナーズブランドの店に並んでいても違和感がないでしょう。もう1つは、テッド・ティンリングとのコラボアイテムの1つだったポロシャツで、時代を超える美しさでありながら同時にクラシックでもあり、こちらもハイエンドな店にあっても全く引けを取らない逸品です。

コリンが言ったように、技術とはつまりデザインに直結するもので、高度な技術で着用者のことを理解して適に作ることこそが、アイテムをタイムレスで美しいものにするのです。

――それぞれが思うUMBROらしさについて。

アンソニー:UMBROを唯一無二の存在たらしめる要素は、数え切れないほどあると信じていますが、やはりスポーツ業界において100周年を迎えたことはとても珍しく、これこそがUMBROらしさだと思います。

それにイギリス、もっと言えばマンチェスターのブランドであるということも大きな要素で、どれほど素晴らしい街かを何時間も話せます。それに、UMBROはスポーツに限らずファッションや音楽にも影響力があります。

先ほどヘレネも触れましたが、大衆に寄り添っていることも UMBROの核です。フットボールひいてはスポーツは、あらゆる人に開かれていると信じていますし、我々もできる限り人々に寄り添うブランドであろうと努めています。

ヘレネ:UMBROらしさはいくつもあるので、1つに絞ることは難しいですね。私が思うに100年間を振り返ると、UMBROはブランド自身を刷新し続けてきました。だからこそ、常に新しい消費者の動向や歴史的な変化に適応できたと思います。

また、ブランドの“人間らしさ”も大きな強みです。ブランド初期の頃から商品紹介や市場における消費者へのアプローチの仕方、ハロルド・ハンフリーズのビジネスの指揮の取り方など、UMBROは常に家族のような一体感やパートナーシップ、コラボレーションに基づいたビジネスをしてきました。

他のブランドには独自のやり方があるので例に挙げたりはしませんが、UMBROは決してエリート志向や個人主義ではありません。常にグループや家族、チームのことを第一に考えてきました。

私は他のブランドでも働いてきましたが、UMBROに関して言うと、家族のような温かみもあるし、ハロルドが今もオフィスのどこかにいるような雰囲気すらします。私たちはチームで、今でもハロルドとも一緒に働いていることこそが、UMBROの特性の1つだと思います。

これは、消費者に対しても同様です。私たちは消費者の友達であり、ブランドとしてではなく、同等の立場で話している。これこそが、UMBROが他のブランドと一線を画す理由だと思います。



コリン:アンソニーとヘレンの言う通り、歴史と遺産こそがUMBROの強みだと思います。スポーツについての深い知識が、ブランドを独自の存在にしてくれています。

一方で、ブランドで働く人も重要です。UMBROには勤続年数が長い人が多いのですが、これは家族気質な社風や彼らの情熱によるもの。長いことビジネスの世界に身を置くことは健康的ではありませんが、社員の多くはUMBROで働くことを楽しんでいます。

彼らはビジネスの知識を深めながら、ブランドと共に成長している。社員こそが、UMBROがUMBROらしくあり続けることに貢献してくれています。