プロボクシングのスーパーバンタム級の4団体統一王者の井上尚弥(31、大橋)と元2階級制覇王者、ルイス・ネリ(29、メキシコ)が激突する東京ドーム決戦がいよいよ2日後に迫った。米の権威あるボクシング専門雑誌「ザ・リング」が元世界王者や専門家ら20人の勝敗予想を掲載。全員が井上の勝利を支持し、うち18人がKO勝利を予想した。34年前の東京ドームでは、ヘビー級の3団体統一王者だったマイク・タイソン(米国)が“伏兵”のジェームス“バスター”ダグラス(米国)にKO負けを喫する“世紀の番狂わせ”が起きたが「その再現はない」と結論づけた。

 20人中18人が井上のKO勝利を予想し5人が8ラウンド決着を予告

 日本ボクシング界の歴史を塗り替えるビッグマッチのゴングが近づいてきた。今日4日に両選手が出席しての公式記者会見が行われ、明日5日に前日計量。バンタム級時代に体重超過の過ちを犯しているネリが無事にクリアさえすれば、後は決戦のゴングを待つのみである。
SNSやネット上では勝敗予想が盛り上がっているが、「パウンド・フォー・パウンド」ランキングを発表し、各階級の独自の認定ベルトを制定するなど、米で最も権威のある専門誌として知られる「ザ・リング」が元世界王者や専門家20人の予想を掲載した。
結論から紹介すると、20人全員が井上の勝利を支持。しかも18人がKO決着を予想した。
最も早いKOラウンドを予想したのは、ボクシングコメンテイターであるリッチ・マロッタ氏の3ラウンド。同氏は、その理由をこう説明している。
「見逃せない銃撃戦となり、見事にエキサイティングな試合になるだろうが、それほど長い試合にはならない。東京ドームでのタイソン対ダグラスの再来を期待する視点もよくわかるし、それは楽しい宣伝材料だが、井上は素晴らしい選手であり、歴史に残る強力なファイター。番狂わせが起こるとは思えない。接近戦が大好きなネリには不利な展開となる。彼は井上の危険な領域で戦うことになるからだ。ネリが一発凄いパンチを当てたり、尚弥を苦しめても驚かないが、3ラウンドでのKO勝利以外の最終結果は見当たらない」
ネリは、公開練習の際に34年前に東京ドームで起きた“世紀の番狂わさ”を持ち出して「倒れない選手でも倒れるってことだ」とタイソンに無敗の井上を重ねたが「その再現はない」とする声が圧倒的に多かった。
予想されたKOラウンドで最も多かったのは8ラウンドで5人。
その一人の元リング誌編集長のトム・グレイ氏は「スーパーフェザー級では井上にとってネリが一番危険な選択肢だと思うが、ネリが勝つとは思えない。井上は他の誰よりも優れている。ネリは強烈な打撃を放つが、井上は(さらに)強く打つ。ネリにはハンドスピードがあるが、井上は(さらに)スピードがある。ネリは世界レベルのスキルを持っているが、井上はエリートレベルのスキルを持っている。井上は、後半のどこかでボディショットを決め、ネリを呼吸困難に陥らせるだろう」と予想した。
同誌は元世界王者の声も集めている。
薬師寺保栄からWBC世界バンタム級王座を獲得し、その後、ナジーム・ハメド(英国)やエリック・モラレス(メキシコ)らとビッグマッチを重ねたウェイン・マッカラン氏(アイルランド)は、井上の 7ラウンドKO勝利を予想した。

 「過去に1敗しかしていないネリには良いチャンスがある。井上と同じく堅実なパンチャーで、お互いに傷つけ合う能力を持っている。おそらくネリは、井上を立たせて接近戦に持ち込むと思う。互いに手数の多い試合になるだろう。サウスポーのネリの左ストレートは有効かもしれないが、それは、井上の右ストレートに対してガードが空いた状態になる。前半は接戦になるかもしれないが、後半に井上が少しずつ近づき、左フックをネリのボディに決めて7ラウンドくらいにダウンさせてしまうと思う」
元IBF世界スーパーウエルター級王者のラウル・マルケス氏(米国)は、「ネリが井上に贈るものは何もない。ネリは殴られるためにそこにいて、井上もいつでも彼をKOできる」と5ラウンドKOを予想。元WBC世界スーパーウエルター級王者のセルヒオ・モラ(米国)は「凄い戦いになるとは思うが、井上がストップする。ネリは素晴らしいボクサーパンチャーだが、井上は史上最高のパンチャーだ。井上の後半TKO勝ち」と予想した。
一方で判定決着を予想する意見が2人だけいたが、その一人が、元3階級制覇王者のデューク・マッケンジー氏(英国)だ。
「2人のパンチャーが直接対決するならノックアウトの決着が保証されるはずだが判定になると思う。井上はノックアウトのエキスパート。2階級で4団体統一王者となった彼には有利なオッズが出ている。彼は単なるヘッドハンターではなく、野蛮なボディパンチャーであり明らかな欠点はない。どちらの手でも激しく攻撃できる。ただネリに大番狂わせをやってのけるチャンスがないわけではない。そのためには井上が打ち合いに来たときには、アウトボクシングをし、井上がアウトボクシングに出たときには、打ち合う必要がある。ネリが最終ラウンドのゴングを聞くことができるかどうかは問題だが、私は井上の判定勝利だと見ている」
ちなみにもう一人の判定決着を主張しているフリーライターのマーティ・マルカヘイ氏は、その理由をこう説明している。
「井上は地球上で最も完成度の高いボクサーであり、並外れたフィニッシュスキルを持つ最も危険なファイターだ。ネリは井上にとって文字通り最大の挑戦者であり(日本での直近の2試合でPEDを使用し、体重超過をした)、井上が序盤に慎重に戦わなければ番狂わせを起こす可能性もある。しかし、井上のボクシングIQに問題はない。序盤は時間をかけてジャブやサークリングをしてネリを苛立たせ欠点を探す。井上は、ドネアとの対戦でパンチを浴びたが、フラッシュに巻き込まれた場合、彼は足を使いトラブルを避ける。ラウンドが進むにつれて井上のパンチ力と精度も上がり、チャンピオンシップラウンド(11、12回)で、2度のダウンを奪い、3ポイント以上の差をつけた判定勝利を収めるだろう」
ネリの誘いにのって序盤に井上が打ち合いに応じた際に生じる危険性を示唆したが、同氏の結論の通り、モンスターのコンピューターが狂うことはないだろう。
(文責・RONSPO編集部)