プロボクシングの4大世界戦が6日、東京ドームで4万3000人のファンを集めて行われ、スーパーバンタム級の4団体統一王者の井上尚弥(31、大橋)は、挑戦者の元2階級制覇王者、ルイス・ネリ(29、メキシコ)に1ラウンドにプロアマを通じて初めてのダウンを奪われるハプニングがあったものの、2、5,6ラウンドに3度のダウンを奪い返して6ラウンド1分22秒に逆転TKO勝利した。海外メディアはモンスターの勝利を速報で伝え、衝撃のダウンを乗り越えた戦いを逆に強さの象徴として評価した。

 井上尚弥は世界最高のエンターテイナーだった。
1ラウンドに至近距離の戦いでネリの左フックを浴びて、まさかのダウン。34年前の東京ドームで無敗だったマイク・タイソンが伏兵のジェームス“バスター”ダグラスにKO負けした“世紀の番狂わせ”が4万3000人の観衆の頭の中で蘇った。だが、ネリの追撃をなんとかやり過ごすと、2ラウンドから立て直し、まずは左のカウンターのフックで1度目のダウンを奪う。完全にペースを取り戻すと、5ラウンドにわざとロープを背負い、ネリに攻めさせておいてから、再び左のフックをめりこませて2度目のダウンを奪った。ネリは、立ち上がってきたが、6ラウンドにも攻め込み、右のアッパーから右のストレートのコンビネーションブローを顔面にぶちこむとネリは、腰から崩れ落ち、もう立てなかった。
「ここ東京ドームで34年ぶり、日本人メインイベント、凄いプレッシャーがあったんですけど、皆さんの声援が僕のパワーになりました。倒した瞬間は、いつになく最高の気持ちですけど、1ラウンド目のサプライズ、皆さんたまにはいかがでしょうか?」
リング上で井上はそうファンに呼びかけて大歓声を浴びた。
海外メディアはドラマチックな井上の勝利を大絶賛した。
米の権威ある専門誌「ザ・リング」は「井上がダウンを乗り越えネリを6回にKOして122ポンド級(スーパーバンタム級)の統一王座を保持」との見出しを取り、「井上は東京ドームでの初防衛戦のオープニングラウンドで衝撃的なダウンを喫し、その非現実的なシーンは、即座に世界中のボクシングファンにタイソンーダグラス戦をフラッシュバックさせたが、とんでもない番狂わせをザ・モンスターは起こさせなかった」と書き出して井上のTKO勝利を伝えた。
同誌は試合展開を記しつつ、「ドラマチックな打ち合いで始まった試合は、結果的に一方的なものとなったが、井上のダイナミックな攻撃とネリのタフネスさによってスリリングなものとなった。年間最優秀選手が、年間最高試合の勝者とぶつかり合う時、我々はエンターテインメントを期待できたはずだ。2017年と2018年に尊敬されるバンタム級王者の山中慎介への論議を呼ぶ連続KO勝ちの中でネリが、この国での試合を禁じられたこともあり、日本のボクシング界は井上にリベンジを期待していた」と記した。
そして、「そういう醜い過去があったにもかかわらず、井上は試合後のインタビューでネリに敬意を示した」と続け、試合後に井上がリング上のインタビューでネリに感謝の言葉を伝え、2人が握手したことをクローズアップした。
また同誌は「さてザ・モンスターの次はどうなるのか?」とし、試合後にIBF&WBO世界同級1位のサム・グッドマン(25、豪州)がリングに上がったことを紹介。9月にグッドマン戦が行われる可能性に言及した上で「グッドマンはネリよりもさらに勝てる見込みはなさそうだが、あの第1ラウンドは彼に(そしてその他のスーパーバンタム級、フェザー級のトップ選手たちに)希望をもたらしたのかもしれない」と結んだ。

 欧州をカバーするスカイスポーツは「井上が東京で衝撃のダウンを乗り越えてネリに6回にTKO勝利」との見出しを取り、「井上が東京ドームでネリを3度倒して破壊的なKO勝利を収める中、キャリア初のダウンを乗り切った。ネリは素晴らしい左のフックで井上を驚かせ、この4階級世界王者をオープニングラウンドでキャンバスに送り、ボクシング界の偉人の1人を脅した。井上は、2回にダウンの返答をきっちりと行い、5回にもう一度ネリをダウンさせ、最後は6回に残忍な右のパンチで倒した」と伝えた。
試合展開に触れつつ、「序盤のダウンは、敗北の可能性に直面して、色んな人達を動揺させた中でも、たじろがなかった井上の株を上げただけとなった。この世代が誇る才能の持ち主は無敗を維持し、世界は彼への畏敬の念を依然として残した」と称えた。
この試合を全米に中継したスポーツ専門局のESPNは、「井上がオープニングラウンドで彼の輝かしいキャリアで初めてのダウンを喫したが、ネリを3度倒して持ち直した。マイク・タイソン対バスター・ダグラスによる1990年2月のヘビー級王座戦の衝撃以来となる東京ドームでのボクシングイベントを4万4000人以上が観戦した(公式発表は4万3000人)。そしてファンたちは、メキシコのネリが日本人スター(の井上)を第1ラウンドにカウンターのパンチで倒すという新たな驚きを目撃した」と伝えた。
CompuBoxによるパンチのヒット数が、井上が107でネリの54を大きく上回ったことを紹介し「クリーンで鋭くハードなパンチを当てていた」と評価した。
また今後の対戦候補として、WBAの指名挑戦者で元WBA&IBF世界同級王者のムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)とWBO&IBFの同級1位で、ESPNが制定する同級ランキングで7位のグッドマンの2人の名をあげ、グッドマンが試合後にリング上で井上と握手を交わしたことを伝えた。
英の高級紙ガーディアンは「井上がネリを壊し、世界最高のボクシング選手としての地位を高める」との見出しを寄り、「井上がネリをTKOで倒して世界最高のパウンド・フォー・パウンドとしての彼の地位をさらに高めた。東京ドームで完売となった5万人あまりの観客(公式発表は4万3000人)は、オープニングラウンドの終わりに井上がネリの重い左フックを浴びて12年のプロキャリアで初めてキャンバスへと倒された衝撃で沈黙した。しかし、さらに集中を高めたザ・モンスターとして知られる無敗の日本人スターの井上は、それ以上にやり返し、メキシコ人の挑戦者を2回、5回にダウンさせ、6回に破壊的な右フックでショーを締めた」と報じた。

 同紙は「これはプロ6戦目にライトフライ級で最初の世界王座を獲得して、その後、2階級で4団体を統一した5フィート5インチ(約165センチ)の井上による最も新たな衝撃的なフィニッシュとなった」と賞賛した。
さらに「(日本の)ボクシングが、勝つ見込みのほとんどなかったダグラスが、当時の無敗のヘビー級王者だったタイソンをKOで倒し、すべてのスポーツ競技において最も素晴らしい番狂わせのひとつを起こした1990年2月以来、ビッグエッグ(東京ドーム)に戻ることを示した」と説明。
「井上はタイソンではない。彼は一連の動きや倒す欲求の両方でタイソンよりも優れている。彼は、これまで13人の世界王者と戦い、すべてを倒してきた。31歳で、彼はすでにあらゆる時代であらゆる階級において最も素晴らしい選手の1人となっている。真のスーパースターで、疑いなく今日のスポーツ界で最高のショーを見せてくれている。この試合がボクシングのパウンド・フォー・パウンドで、ウェルター級の統一王者テレンス・クロフォードを井上が上回ることになるか、意見の分かれる問題だろう。これは論争を超越した一騎打ちとなっている」と絶賛した。リング誌が定めるパウンド・フォー・パウンドで現在1位のウェルター級の3団体統一王者、テレンス・クロフォード(米国)と2位の井上のランキング論争が起きることを示唆した。
だが、一方で、米ボクシング専門サイト「boxingnews24.com」は「この試合では、井上の顎のもろさが示された。より多くの才能あふれる選手が待っているフェザー級に階級を上げれば簡単に餌食になるかもしれない」との議論を展開させた。
「スーパーバンタム級では能力にあふれた選手は限られているが、4ポンド(約1.8キロ)上げると、そこには本当の一流選手が存在している。井上はフェザー級でのハイレベルの選手たちとの戦いでリスクを取りたくないため、より安全なスーパーバンタム級に留まることを選んでいるのだろう」と、的外れな主張を掲載している。