阪神が12日、横浜スタジアムで行われた横浜DeNA戦に才木浩人(25)の今季初完封で1−0勝利。7点差をひっくり返された前日の敗戦ショックを引きずらなかった。岡田彰布監督(66)は「才木様様よ」と128球の熱投を見せて4勝目をゲットした右腕を絶賛。後半にも球威が落ちなかった進化と、打者に立ち向かっていく姿勢を評価した。首位の巨人がヤクルトに敗れため阪神が1位に再浮上した。

 「もうちょっと点を取って欲しいですね」

 夕暮れのハマスタが笑いに包まれた。
「もうちょっと点を取って欲しいですね」
今季初完封で4勝目を手にした才木がヒーローインタビューで素直な気持ちを明かして左翼席を埋めた虎党の爆笑を誘ったのである。
わずか2安打での1−0勝利。
岡田監督も才木への賛辞を惜しまなかった。
「ヒット2本やんか、それでよう勝ったよ、才木様様よ。ハッキリ言うて。それしかないよ」
最後に試練が待ち受けていた。
1−0で迎えた9回。二死からスタメン復帰した宮崎にライト前ヒットを許し、4番の牧まで打順を回してしまった。代走の森に初球に盗塁を決められ、一打同点のピンチである。
だが、才木は闘志をむき出しにした。
128球目もストレートだった。
うなるような150キロが、昨季の打点&最多安打の2冠王のバットを押し込み、その打球は、ほぼ真上へ。梅野がファウルゾーンでキャッチしてバンザイ。牧は、しばらく呆然として、その場を動けなかった。
「昨日の展開の後だったので、きっちりと行かないといけないというか、締めないといけないなと思っていた」
7点差をひっくり返された前夜の悪夢を断ち切らねばならない。その責任感を才木は感じていた。
9点を奪いながら逆転負けを喫した前日のベンチで岡田監督は、今季初めて“激オコモード”だったという。長いペナントレースの中ではこんなゲームもあり、岡田監督は勝敗に一喜一憂などしない。不機嫌だったのは、佐藤の集中力に欠いたエラーや不用意な四球を与えるなど、大差に甘んじて気の緩んだミスが続いたこと。指揮官はそういう空気を締め直したかったのである。「そんなんしてないよ」と岡田監督は否定したが、このゲームの重要さを才木は感じ取っていたのである。
ハイライトは7回だった。
「アレが一番でかかった」と才木が振り返った筒香との対戦である。
この回、先頭の宮崎にレフト前ヒットを許して、続く牧に四球を与えて背負った一死一、二塁のピンチで、昨日、決勝アーチを打たれているメジャーから5年ぶりに古巣復帰した筒香を打席に迎えた。
ストレートを張ってきた筒香に初球はフォーク。空振りを奪うと2球目にインハイへ渾身のストレートを投げ込んだ。
「インコースの真っすぐを思い切って行く。梅野さんもそういうサインを出してくれた」
筒香は反応してきたが、明らかに球威に負けた打球はセカンドの正面。4−6−3の絵に描いたようなダブルプレーである。
岡田監督は、この“筒香斬り”のシーンに気迫が見えたという。
「昨日もスライダーをいかれてるわけやんか。逃げたらあかん。そういうことやんか」
前日のゲームでWストッパーの1人、岩崎は筒香を追い込みながら、外角のボールゾーンにスライダーを狙い、それが逆球となって仕留められた。メジャーで結果を残せなかったが筒香が「150キロ級のストレートに弱い」とのデータは入っているが、必要なのは、立ち向かう闘志であり、気迫だった。

 この回を無失点で切り抜けてベンチに帰ってきた才木に岡田監督は安藤コーチを通じて最後まで一人で投げ切ることを命じた。
「(最後までいけと)言うたよ」
才木は「いったろうか」と意気に感じたという。
ここからの才木が凄かった。山本を150キロのストレートで空振りの三振、好調の京田にも、全球ストレート勝負でショートゴロ、代打の度会の打席でストレートはこの日MAXの153キロを表示。最後は外角へ152キロのストレートを決めてスイングアウトである。
岡田監督が言う。
「風の影響もあったかもしれんけど、6回くらいから高めのボールが伸び取ったもんな。去年までは、どっちかという球数がいくと(球威が)落ちていたんやけど、ようなっているよな」
トミー・ジョン手術から3年目。才木のフィジカルも本格化してきたのかもしれない。
才木の気迫は守備陣にも伝わった。
5回一死一塁から、京田のレフトとセカンドの間に上がった難しい打球を中野が、なんと背面キャッチ。強風が吹き荒れる中で見せた曲芸である。一塁走者の山本は打球が落ちるものだと判断してもう三塁まで走っていた。中野から大山へとボールが渡り併殺打である。
虎の子の1点は、3回二死から才木が選んだ四球から始まった。
はまったのは、岡田監督が仕掛けた打線のシャッフルである。プロ入り初めて1番に座った井上がセンター前ヒットでつなぎ、中野がライト線を破るタイムリー二塁打で大貫から先取点をもぎとった。岡田監督は、3番打者の打率が低いことに注目。その問題点を解消するため、チーム内で最多打点を叩きだしている近本の3番起用ありきで、打線をシャッフルし、1番井上、2番中野、3番近本、4番大山、5番ノイジー、そして打撃内容が良くなってこない佐藤をスタメンから外して糸原を「6番・三塁」で起用していた。
防御率1.60の「サンデー才木」はチーム内で重要な位置を占める。
「負けた後にけっこう才木で勝ってるやろ」
岡田監督の言葉通り、勝ち負けはつかなかったが、巨人との開幕カードで3タテを食らうピンチを止めたのも才木だったし、ここまで7試合の先発のうち4試合で、黒星をストっプしている。ハーラートップタイの4勝目を手にした才木が混セを抜け出すキーマンになるのかもしれない。
5月12日はマザーズデイ。
審判もピンクの装いに変え、全員がピンクのリストバンクを着用し、同色のバットやグラブを使用する選手も少なくなかった。
ヒーローインタビューで「兵庫にいるお母さまに一言お願いします」とふられた才木は、「え?」と、一瞬、予想外の質問に戸惑った後「勝ちましたあーー」と照れ笑いを浮かべて報告していた。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)