プロボクシングの元WBC世界フライ級王者の比嘉大吾(28、志成)が元K−1王者でWBO世界バンタム級王者の武居由樹(27、大橋)への指名挑戦者となる同級1位にランクされた。WBOから指名試合を義務づけられている武居は9月に防衛戦を予定しているが、比嘉はすでに7月7日に両国国技館でWBC世界同級王者、中谷潤人(26、M.T)への挑戦者決定戦を同級2位のペッチCP・フレッシュマート(現在はペッチ・ソル・チットパッタナ、30、タイ)と行うことが内定しており、思わぬ1位浮上に困惑することになった。

 ガバリョの“番狂わせ敗戦”がすべての発端

 日本人が4つのベルトを独占している群雄割拠のバンタム級に異変が起きた。ス―パ―バンタム級の4団体統一王者の井上尚弥がルイス・ネリ(メキシコ)を撃沈した東京ドーム大会のセミファイナルでWBO世界バンタム級王者のジェイソン・モロニー(豪州)に判定勝利してキックボクシングのK―1王者から転向9戦目にして世界のベルトを手にした武居が9月に予定している初防衛戦の最有力候補に比嘉が急浮上したのだ。
武居はWBOから指名試合を行うことを指令されており、当初は同級1位のレイマート・ガバリョ(フィリピン)との対戦が予定されていた。元WBC世界同級暫定王者で元5階級制覇王者、ノニノ・ドネア(フィリピン)との対戦経験もある強豪だったが、10日にフィリピンで行われた“世界前哨戦”で元大鵬ジム所属の健文・トーレス(メキシコ)に1回に3度もダウンを奪われてTKO負けする“番狂わせ”が起きて1位から陥落。代わって比嘉が1位にランクインしたのだ。まだWBOからの正式な指令は出ていないが、通常であれば、武居の9月の防衛戦相手はガバリョから比嘉に代わることになる。
だが、比嘉陣営もガバリョが負けるとは予想していなかった。7月7日に両国国技館で行われるWBA世界スーパーフライ級王者、井岡一翔(志成)とIBF世界同級王者、フェルナンド・マルティネス(アルゼンチン)の統一戦のアンダーカードで、同級2位のペッチとWBC挑戦者決定戦を行う方向で交渉をまとめていたのだ。
ペッチはプロ76戦で75勝(53KO)1敗という豊富なキャリアを持つタイの強豪サウスポー。唯一の敗戦は、2018年12月に当時WBC世界バンタム級暫定王者だった現WBA世界バンタム級王者の井上拓真に挑戦して0−3で判定負けしたもの。その後、WBCアジア(日本非公認)のバンタム級タイトルなどを獲得して27連勝し、2度目の世界挑戦チャンスをうかがっている。比嘉にとってはチャレンジマッチだが、この試練を乗り越えれば3階級制覇王者の中谷潤人への挑戦権を得ることになる。

 ただ中谷は7月20日に予定している次戦で同級1位のビンセント・アストロラビオ(フィリピン)との指名試合を行うため比嘉に順番が回ってくるのは2戦以上先になる。
陣営も比嘉もそれは百も承知でバンタム級における評価を上げて他団体王者への挑戦の機会を高める意味もあって今回のマッチメイクを組んだ。その世界挑戦機会が、いきなり巡ってくるとなると挑戦者決定戦よりも、武居への挑戦を優先したいのが本音だろう。
だが、話は少々複雑だ。武居の防衛戦は9月。もし世界戦を優先するのであれば、7月のペッチとのWBC挑戦者決定戦はキャンセルしなければならない。すでに交渉をまとめているだけにキャンセルとなると違約金などが発生することになる。ガバリョの敗戦によって、突如、降って湧いたチャンスを素直に歓迎できない“大人の事情”があるのだ。
比嘉はWBC世界フライ級王者時代に体重超過の失態を犯して王座から陥落し、JBCから無期限のライセンス停止処分を受けた。その後、処分を解かれると階級を上げて再起したが、3年前に現IBF世界同級王者の西田凌佑(六島)に判定で敗れトップ戦線から脱落した。その後、スランプを脱出。昨年の大晦日には、井岡のセミファイナルで世界戦経験があるWBC同級5位のナワポン・カイカンハ(タイ)を4回に強烈な左ボディでキャンバスに沈めた。
ステップワークやコンビネーションブローという新境地も披露し、「まだ(中谷潤人、WBA世界同級王者の井上拓真との)差は埋まっていないかもしれないが、試合内容としては面白い試合だったと思う。世界戦は一発勝負の世界。結果がすべて。自分で相手を選ぶ権利はないが、今日の試合みたいにパンチを振っていれば、逆転の可能性はある。あとは運と練習」との意気込みを口にしていた。
4人の王者のうち西田にはリベンジを果たしたいという因縁があるが、比嘉陣営が相性も含めて最も戦いたい相手は武居だという。
また対戦を準備しているペッチも武居と同じサウスポー。タイプは違うがここまでのサウスポー対策も無駄にはならない。果たしてWBOはどんな指令を下すのか。そして指名試合が指令された場合に武居、比嘉の両陣営はどんな選択をするのだろうか。武居vs比嘉という屈指のパンチャーの激突はKO決着必至の好カードなのだが…。
(文責・本郷陽一/RONPO、スポーツタイムズ通信社)