南カフカス地方の旧ソ連構成国、アルメニアに対する同盟国ロシアの影響力が急速に低下している。ロシアは4月、アルメニアが係争地ナゴルノカラバフを巡る紛争でアゼルバイジャンに敗北したのを受け、カラバフに駐留させていた停戦維持部隊の撤収を余儀なくされた。アルメニアはロシアとの同盟解消を示唆する一方、欧米への接近を加速。ロシアはアルメニアの「離反」にいらだちを募らせている。

停戦維持部隊の撤収はペスコフ露大統領報道官が4月17日に発表。ペスコフ氏は理由を「地政学的現実の変化」だと説明した。

カラバフはアゼルバイジャン領だが、現地で多数派のアルメニア系住民がソ連末期に帰属変更を求め、両国が30年間以上にわたって対立してきた。2020年秋に両国の大規模衝突が起きた際、停戦を仲介したロシアは停戦維持部隊の現地駐留を両国に認めさせ、「勢力圏」とみなす南カフカスで影響力を拡大することに成功した。

しかし昨年9月、トルコの支援で軍備を増強したアゼルバイジャンが電撃的な作戦でカラバフを制圧。これによって露停戦維持部隊の存在意義は失われた形となっていた。

アルメニアのパシニャン首相は、加盟国支援の義務を果たさなかったとして露主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO)とロシアを繰り返し批判。昨年11月のCSTO首脳会議を欠席した。

今年2月には「アルメニアはCSTOへの参加を凍結した」と述べ、ロシアのウクライナ侵略について不支持も明言。4月22日には「なぜ同盟にとどまる必要があるのかという国民の質問に私は答えられない」と、アルメニアがCSTOから離脱する可能性を示唆した。

パシニャン氏はロシアから距離を置く一方で欧米への接近を強めている。4月5日にはブリンケン米国務長官、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長らとブリュッセルで会談した。EUはアルメニアに今後4年間で2億7千万ユーロ(約453億円)を支援すると発表した。

こうした動きにロシアは反発している。露外務省のザハロワ報道官は4月、パシニャン氏の対露非難を「無根拠だ」と批判。アルメニアと欧米が軍事協力でも合意したとの報道があるとし、「アルメニアはロシアに釈明すべきだ。理想は(合意の)取り消しだ」と述べた。「欧米の狙いはロシアとアルメニアの関係破壊だ」とも主張した。

露下院のスルツキー国際問題委員長も4月、「パシニャン氏はアルメニアにウクライナの道を歩ませている」と述べ、ロシアがアルメニアに武力行使する可能性さえちらつかせた。