水原一平の事件以来、かつてギャンブルで106億8000万円もの大金を熔かした井川意高大王製紙前会長にも再び注目が集まり、ネットなどで取り上げられることが増えている。そんな井川前会長に刑務所を出た後の暮らしぶりや最近の活動について聞いた。

YouTuberとしての年収は大王製紙の社長時代より多い

私が今、なにをしているか、というとYou Tuberです(笑)。私はもともとテレビは見ないし、ネットの動画も見ませんので、YouTubeにもまったく興味がありませんでした。

それが去年5月、雑誌「経済界」の元編集長・佐藤尊徳さんからWEBマガジン「政経電論TV」に「出ない?」と声をかけられまして。彼は私が喜連川社会復帰促進センター(刑務所)に入っていたとき、45、6回も片道2.5時間かけて面会に来てくれた親友。嫌とはいえません(笑)。それで出演を始めました。

そうしたら、これがなかなか評判がよくて、「井川さんも絶対に(YouTubeを)やったほうがいい」と勧められました。それで、去年7月に「井川意高が熔ける日本を斬る」を始めたんです。ギャンブルや刑務所の中でのエピソード、政治経済の話、私が夜な夜な飲み歩く店でご一緒する港区女子の方たちのことなど、みなさんに興味を持っていただけそうなテーマについてお話しています。月10本以上配信していますが、1本10分程度のものなので、1時間撮って5、6本に分けて配信しています。それが月2回。チャンネル登録者数 は23.8万人です。

ニコ生チャンネルも月2本配信していまして、こちらは1時間半ずつを2回撮っています。YouTubeと合わせても、私がかけている時間は実質月5時間ほど。それで、大王製紙の社長時代の年収より多い収益を上げていますから、こんなに楽をして稼げるのか、という感じです。

なぜXでバトルを繰り広げるのか

自分でYouTubeを始めるまでは暇で、昼間はずっと昼寝していたんですけれどね(笑)。毎晩、港区のバーやラウンジで、アルコール度数96度のスピリタスを朝3、4時まで飲んで、昼間は寝ていて夜6時になるとまた飲みに出かける、という生活をしていました。今は昼間いろいろあるので、昼の12時には起きていますが。

出所した翌年の1年間は週2、3回、パーソナルジムで身体を動かしていました。その後はとくに運動はしていません。それでもあまり太っていないのは、代謝が高いのでしょう。それと毎日タニタの体重計に載って、67キロがベスト体重なので「少し増えたな」と思ったら食事を抜いたりして調整しています。

YouTubeに合わせて、Xも勧められて始めました。こちらも、イーロン・マスク氏が2023年夏にインプレッション(表示)数に応じて報酬が支払われる仕組みにしてくれたおかげで、ウン十万円の収益になっています。といっても、井川家は裁判中の2012年に大王製紙本体やその関係会社の株を440億円で売るなどしましたから、一生のんびり暮らせるだけの資産はあります。SNSの収益は「今晩の飲み代になるな」という感じです。ちなみに、株売却の際には、私が大王製紙の子会社から借りた金を全額利息付きで返済しています。

Xでは少し攻撃的な言葉を使ったりしていますので、驚く方もいるようですね。私の中ではYouTubeは居酒屋談義、Xは便所の落書き、という位置づけで、Xでは意図的に少し乱暴な言葉を使っています。でも、きちんと名乗って丁寧な言葉で質問してくる方には丁寧にお答えしていますよ。匿名でイチャモンを付けてくる人には、こちらも礼節を保つ必要はないのでそれなりに(笑)。それでストレス発散していますから、カタルシスにはなっています。

Xでいろんな人とバトルになり、それがネットで話題になってもいるようですが、あれは暇つぶしです(笑)。ニュースを全部見きってしまったときなどにXに行って、ちょっと拾って書いている、っていうぐらいのものです。バトルの相手もゲーム感覚じゃないでしょうか。バトルすることで話題になり、インプレッション数が増え、収益に繋がるわけですから。ただ、バトルの相手に関しては、本当に本人があの文言を全部打っているのかな、と疑っている人も多いのではないでしょうか。

ブラッド・ピット主演で映画化が進行中?…

YouTubeを始めたら、いろんな依頼が来るようになりました。それで月1回、ライブハウスでトークライブをしたり、雑誌「ZAITEN」に時事コラムを書いたり、こうして取材を受けたり。あとはサロンのメンバーさんとポーカーで遊んだりもしています。「政経電論TV」の出演も続け、たまにその他の方のYouTubeにゲスト出演したりもしています。気楽で楽しいですよ。企業経営をしていたときは、いっさい手を抜かず尽力していましたが、砂を噛むような味気なさというか……楽しんでいたとは言いがたいです。

2011年に逮捕されたタイミングで出版した著書『熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録』(双葉社)が話題になり、2年前にその続編ともいえる『熔ける 再び そして会社も失った』(幻冬舎)を出させていただきまして、それが去年の終わりから映画化に向けて動いています。

製作・総指揮は親しくさせていただいている幻冬舎の見城徹社長、プロデューサーは映画『新聞記者』などを手がけた行実良さん。私も会議に出るなどしていまして、順調に進めば、公開は2025年末ではないでしょうか。私の役はブラッド・ピットが適任……というのは冗談で、俳優の斎藤工さんが好きですが、どうなりますか。

今後、YouTubeに飽きたらどうするか? とくに何も考えていません。新しく事業を始める考えはないのか、とよく聞かれますが、ありません。私は創業家の3代目として会社経営をしていましたから、すでにある会社の成績を1から5にするとか、−3から+5にすることはできますが、自分で新規事業を起ち上げる“0から1”のタイプではない、とよく自覚しています。YouTubeに飽きるときがきたら、次になにをするかはそのときに考えますよ(笑)。


取材・文/中野裕子 写真/村上庄吾