ACLのセミファイナルで、蔚山現代との死闘を制し、クラブ史上初となる決勝進出を果たした横浜F・マリノスだが、アジア王者への大きな難関が待っている。

 現行のACLは準決勝まで東西に分かれて大会が行なわれており、ファイナルは東のチャンピオンと西のチャンピオンによるアジアの頂上決戦を意味する。

 今回、西地区を勝ち上がったのは、UAEのアル・アイン。ノックアウトステージでは、クリスティアーノ・ロナウドを擁するサウジアラビアの名門アル・ナスル、さらに過去4大会で三度の決勝、二度の優勝を飾っているアル・ヒラルを破って、2016年以来となる決勝進出を決めた。

 そのアル・ナスルやアル・ヒラルほど、法外な資金力でビッグネームを集めているわけではないが、元アルゼンチン代表FWのエルナン・クレスポ監督のもとで組織的にもまとまっている。

 攻撃の中心を担うのは、モロッコ代表FWソフィアン・ラヒミと、10番を背負うレフティのパラグアイ代表FWアレハンドロ・ロメロだ。

 鋭利なストライカーであるラヒミは母国の名門ラジャ・カサブランカで台頭し、当初は欧州での挑戦に意欲を示していたが、2021年にアル・アイン移籍を決断した。今シーズンのACLでは11試合で11ゴールという驚異的な得点力を発揮しているが、大きな話題を集めたのは、アル・ヒラルに挑んだ準決勝の第1レグだ。

 開始早々、UAE代表のMFヤヒア・ナデルが上げようとしたクロスが相手ディフェンダーに当たってディフレクトし、そのボールに抜け出して先制点を挙げると、ロングボールに飛び出してPKを獲得し、これを決めて2点目。さらにPKで3点目と、ハットトリックを達成した。

 武器はスピードだが、柔らかいボールコントロールからの狙いすましたフィニッシュは、蔚山現代の猛攻を度重なるビッグセーブでしのいだGKポープ・ウィリアムにとっても脅威となるだろう。
 
 もう一人のロメロは、アルゼンチン出身のクリエイティブなアタッカーで、中盤から前線まで幅広くプレーできる。得点力もあるが、何と言っても仲間のゴールを演出する、左足のパスセンスが武器だ。

 ロメロとラヒミのホットラインは横浜が最も警戒するべきアル・アインのストロングだが、その他にもアルゼンチン出身の小柄な俊足アタッカーであるマティアス・パラシオスなど、特長的なアタッカーが揃っている。

“飛び道具”として特に注意したいのは、左サイドバックから鋭い攻め上がりを見せるブラジル人DFエリキだ。そのエリキが準決勝の第2レグで決めたゴールは、アル・アインの理想的な形と言える。

 左からエリキがドリブルを仕掛けて、ロメロ、ナデルと繋いで、タイミング良く飛び出したエリキが右足を一閃したのだ。

 アル・アインは左からの攻撃に強みがあるのは間違いないが、言い換えれば守備の隙も生じやすい。横浜の基本スタイルとしては中盤でボールを動かして、良い形で3トップにボールを預けることが主眼となるが、アル・アインが前がかりになったところで、うまくインターセプトできれば、シンプルなカウンターから右ウイングのヤン・マテウスによるドリブルを活用して、ゴールを狙うシーンも出てきそうだ。

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 攻守のオーガナイズを司るのが、韓国代表MFパク・ヨンウ。アジアカップでは痛恨のパスミスからヨルダンにゴールを奪われて、ベスト4敗退の批判にあったが、中盤からの組み立てとバランスワークで、目立たないながらアル・アインの“心臓”として機能。準決勝の第2レグでは、自陣の守備で奮闘しながら時にカウンターの起点にもなっていた。

 センターバックは、コートジボワール出身の大型DFクアメ・オートンが人に強く、UAE代表のDFハリド・アル・ハシェミが統率力とカバーリングに優れるタイプだ。

 彼らが横浜のエースであるアンデルソン・ロペスを簡単にフリーにすることはないはずだが、二列目から植中朝日などがうまく絡んでいければ、マンツーマンに近い形になり、ロペスが一瞬の動き出しでフリーになりやすくなるはずだ。

 アル・アインもしっかりとボールを回せるチームではあるが、中盤の支配権に関しては横浜にやや分があると見ている。ただ、アル・アインはここまでACLの戦いにおいて、システムも固定せずに戦ってきている。アル・ヒラルとの準決勝がそうであったように、決勝でも対横浜、さらに言えばアウェーとホームでシステムや選手の配置を変えてくる可能性も否定できない。
 
 おそらく横浜での第1レグは0−0でも御の字というスタンスで来るかもしれないが、どんな形であろうと、ラヒミとロメロは常にゴールのチャンスをうかがっているので、ボールを握れている時間帯でも、一発の裏返しを警戒しながら、得意のハイラインでの戦いに持ち込みたい。

 第2レグがアウェーというレギュレーションは不利になりやすい向きもあり、念願のファイナルということで、アル・アインのサポーターも熱狂的な応援で、チームを後押ししてくるはずだ。もっとも、横浜にとって有難いのは、オアシスに位置するアル・アインのピッチが比較的、良好なことだ。

 横浜としては自分たちの強みを忘れることなく、しかし、準決勝の蔚山現代戦で見せた粘り強さをミックスして、アジア王者の座を掴み取ってもらいたい。

文●河治良幸

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