【THE MUSICAL LOVERS】ミュージカル『アニー』第55回
丸美屋食品ミュージカル『アニー』2024開幕【ゲネプロレポート】〜新風を巻き起こしたニューキャストたち

丸美屋食品ミュージカル『アニー』が2024年4月20日(土)、東京・新国立劇場 中劇場にて開幕した。この東京公演は5月7日(火)まで上演。夏には呉・大阪・仙台・名古屋をツアーで巡演する。

ミュージカル『アニー』(脚本:トーマス・ミーハン 作曲:チャールズ・ストラウス 作詞:マーティン・チャーニン)は1977年にブロードウェイ初演。日本テレビ主催による日本語版の公演は1986年にスタートし、コロナ禍による公演中止以外は毎年上演されてきた。物語の舞台は、世界大恐慌直後の1933年、真冬のニューヨーク。誰もが希望を失う中、主人公アニーは本当の両親が迎えに来る「明日」を信じながら孤児院で暮らしていた。そんなアニーをとりまく個性あふれる孤児の仲間たちや、アニーによって変わってゆく大人たちが繰り広げるストーリー展開、そして「Tomorrow」をはじめとする名曲の数々が、日本ではこれまでのべ191万人に及ぶ観客に感動を与え続けてきた。

開幕前日の4月19日には、ゲネプロ(総通し稽古)が報道向けに公開された。そのレポートを、ここで舞台写真と共にお届けする。

2024年、主人公アニー役をWキャストで務めるのは、岡田悠李(おかだ ゆり)<チーム・バケツ>と、絢田祐生(あやた ゆうき)<チーム・モップ>。このほど公開されたゲネプロは、絢田がタイトルロールを務める<チーム・モップ>のキャストが出演した。

大人キャストは、大富豪ウォーバックス役に藤本隆宏、演出が山田和也に変わった2017年から2021年(2020年は中止)、および2023年に同役を務め、「ミスター・ウォーバックス」の異名を持つ。孤児院の院長ハニガン役は、ミュージカル『アニー』初参加の須藤理彩である。ウォーバックスの秘書グレース役には笠松はる(2021年〜)。そして、ハニガンの弟ルースター役に財木琢磨(2022年〜)、その恋人リリー役として天翔 愛が今回初参加。演出は山田和也(2017年〜)、音楽監督を小澤時史(2021年〜)、振付・ステージングを広崎うらん(2017年〜)、指揮を福田光太郎(2017年〜)がそれぞれ担当する。

タイトルロールのアニーを演じる絢田祐生は、長年にわたり『アニー』を観続けてきた筆者も、随所において「ああ、アニーはそう思ったんだ。だからそういう反応なんだ。確かにそうだよね!」という発見があった。ハニガンを初めて演じる須藤理彩も、どんな恐ろしい態度であろうと、コミカルであろうと、ただその場でウケるためではなく、きちんと感情の流れとして表現している。その説得力は流石。彼女の芝居が、物語の骨格や心情を明確にさせ、メリハリを生んでいる。リリー役の天翔愛も、恋人ルースターを演じる財木琢磨を容赦なくひっぱたきまくって、なんと痛快なことか! このニューキャストたちが、2024年の『アニー』にフレッシュな風を巻き起こしていた。

さて、アニーといえば、まず思い出されるのは名曲「♪Tomorrow」であろう。アニーは野良犬のサンディと出会う。絢田アニーは、野犬狩りに追われているサンディに「あたしもなんだ」とため息まじりに打ち明ける。そして心から寄り添うように「私が守ってあげる」と声をかける。サンディと、そして自分への励まし、それが「♪Tomorrow」という歌となるのだ。

絢田アニーは、アニーという人物がどこにいて、誰と出会って、どう考え、どういう行動をするか、その解釈が他の誰にも似ていない。怒る姿、笑う顔、ムキになって出る声、強がり、遠慮、得意げな様子、自分の心底からの願いが人を傷つけてしまったときの、どうしようもない涙……。ならばもう一方の、チーム・バケツのアニー(岡田悠李)とサンディ(家康)は、さまざまな場面にどのように立ち向かうのか、観劇が楽しみだ。

チーム・バケツ アニー(岡田悠李)とサンディ(家康)  Annie2024©NTV

チーム・バケツ アニー(岡田悠李)とサンディ(家康)  Annie2024©NTV

アニーはずっと孤児院という狭い世界で暮らしてきた。けれどもそこを脱走したり、大富豪ウォーバックス(藤本隆宏)の秘書グレース(笠松はる)に自分をアピールして自ら道を開き、やがてウォーバックス邸でクリスマスを過ごす権利を手に入れるまでに至る。

グレース(笠松はる)にアピールするアニー(絢田祐生)、その右はハニガン(須藤理彩) (撮影:安藤光夫)

グレース(笠松はる)にアピールするアニー(絢田祐生)、その右はハニガン(須藤理彩) (撮影:安藤光夫)

「アニーが来た初めての夜」の過ごし方について秘書グレースがウォーバックスにジェスチャーで伝えるシーンでは、笠松グレースにより新たな面白レパートリーが生み出されていたのが見どころ。また、仕事の電話をする藤本ウォーバックスにグイグイくる絢田アニーと、アニーに根負けして破顔する藤本ウォーバックスが全員、可愛すぎてキュンキュンしてしまった。

ウォーバックス(藤本隆宏)にグイグイくるアニー(絢田祐生)、右はグレース(笠松はる) (撮影:安藤光夫)

ウォーバックス(藤本隆宏)にグイグイくるアニー(絢田祐生)、右はグレース(笠松はる) (撮影:安藤光夫)

グレースがアニーについて語るとき、親バカのような口調になっているのも笑ってしまった。語る相手はハニガン院長。アニーとの付き合いはハニガンのほうが長く、しかもアニーを嫌いなのは明白なのだが、そんなことはお構いなしに、グレースは「アニーったら●●なんですのよ〜(面白いでしょ?)」と楽しそうに言う。その後、グレースと入れ替わりにハニガンのところにやって来たのは、これまたハニガンが疎ましく思っている弟・ルースター。

ハニガン(右/須藤理彩)とルースター(左/財木琢磨) (撮影:安藤光夫)

ハニガン(右/須藤理彩)とルースター(左/財木琢磨) (撮影:安藤光夫)

財木琢磨演じるルースターは、今回完全に「悪」であり、姉であるハニガンにも、お金をたかりに来ただけ。クズ&役立たずだ。この役を演じて3年目の財木、初年度は甘えん坊なところもあったのに、年々どんどん強くなっている。コワい!そして、こんな男を好きになるリリー(天翔 愛)も、ハニガンの部屋のお酒を手当たり次第に物色していて、手癖が悪すぎる!

リリー(天翔 愛) (撮影:安藤光夫)

リリー(天翔 愛) (撮影:安藤光夫)

三悪のハニガン、ルースター、リリーがゴチャゴチャいがみ合っているのとは対照的に、アニーはまるで孤児代表でもあるかのようにウォーバックス邸に招待される。その初日、アニーは華やかなウォーバックス邸やニューヨークの街中の、すべてを見逃すまいとしていたのが印象的だった。

だからウォーバックスに連れられてニューヨークの繁華街を初めて歩く「♪N.Y.C.」のシーンで、「ここで暮らしていたのに、知らなかった」とアニーが歌い上げると、「本当につい最近、外に出られて、いろんなことを初めて知ったんだね」と、筆者はいつも涙してしまうのだ……が、実は今回筆者の涙腺を潤ませたところは、そこだけではなかった。『アニー』ファンにとってのビッグ・サプライズがあったのだ。観劇予定の方は、入口のキャストボードで確認できるだろうから、もうここで書いてしまおう。

「♪N.Y.C.」でソロをとる、未来のスター役が吉岡花絵なのだ。そう、2013年にアニー役を演じた彼女が、今回『アニー』の出演を、未来のスターの座を、自力で勝ち取ったのだ。こんな嬉しいことがあるだろうか!

アニー(絢田祐生)、未来のスター(吉岡花絵) (撮影:安藤光夫)

アニー(絢田祐生)、未来のスター(吉岡花絵) (撮影:安藤光夫)

厳正なオーディションにより選ばれた孤児たちもまた、スターのごとく個性を煌めかせている。

序盤は泣いていたものの、ものすごく度胸のあるモリー(石川愛梨)。「もうやだ!」と立ち上がるテシー(寺島愛梨)、テシーにすぐちょっかいをかけるケイト(大谷茉奈)は、皆がケンカしていても起きないのに、モリーが「ママに会ったの(※モリーの母親は死んでいる)」と言い出した時、ぴくっと反応したのが、演技とは思えない。

ボクシングを仕掛けようとするペパー(長尾咲南)に対し、「フフッ」と鼻で笑うジュライ(今関望叶)。そんな皆の様子を「ギャハハ」と笑うダフィ(朝日美琴)。ハニガンにバカにされれば、「キッ」と睨みつける反骨の孤児たちによる「♪Hard-Knock Life」は、怒りのド迫力!

昨年10月、アニー役・孤児役最終オーディション終了後のフォトセッションタイムから、チーム・モップのメンバーは、こんな感じでうるさかった記憶がある。もう一方のチーム・バケツのキャスト(アニー役:岡田悠李、モリー役:橋本杏菜、ケイト役:辻 乃之花、テシー役:岩永 桜、ペパー役:設楽乃愛、ジュライ役:菅原悠衣、ダフィ役:小林さくら)は、チーム・モップのキャストと同じ役であってもそれぞれの個性を出してきて、また違った印象で楽しませてくれることだろう。

ハニガン(須藤理彩)と孤児たち(チーム・モップ) (撮影:安藤光夫)

ハニガン(須藤理彩)と孤児たち(チーム・モップ) (撮影:安藤光夫)

そしてオーディションで選ばれたダンスキッズが活躍を見せるのは、ビッグナンバー「♪N.Y.C.」。チーム・モップのダンスキッズは上木杏奈、大野あずみ、津田桃花、中嶋乙葉、名古曽 心美、宮野杏奈。ダンスキッズは自分の得意な技を入れて見せ場をつくる。チーム・モップはアクロバティックな技を連続させて目を引いた。『アニー』が毎年上演され、それでも飽きさせないのは、個性を大事にする演出とステージングだからだと改めて気づく。それゆえチーム・バケツのダンスキッズ(天野すみれ、磯田虎太郎、遠藤央丞、金子和花、鳥塚絢心、中山実子)にも期待が高まる。

アニー(絢田祐生)とダンスキッズ(チーム・モップ)、未来のスター(吉岡花絵) (撮影:安藤光夫)

アニー(絢田祐生)とダンスキッズ(チーム・モップ)、未来のスター(吉岡花絵) (撮影:安藤光夫)

さて、初対面の誰に対しても物おじせず、分け隔てなく接する絢田アニーは、最初に孤児院を脱走した時にたどり着いたフーバービル(貧民街)でも、そこの全員に目線を配っていた。皆がご飯時だとわかると、ちょっと見ないように遠慮する一面もあった。そして悪政に声をあげる彼らに加わる。さらに自分に良くしてくれた皆を警官から本気でかばい、楯突く。

なお、この「♪HooverVille(フーバービル)」のシーンでリンゴ売りを演じているのが第二幕にルーズベルト大統領として姿を現す、ひのあらたである。そして今回の大人アンサンブルキャストは、天野翔太、鹿志村篤臣、後藤光葵、齋藤信吾、八百亮輔、矢部貴将、AYAKA、近藤萌音、三上莉衣菜、吉岡花絵。

フーバービル (撮影:安藤光夫)

フーバービル (撮影:安藤光夫)

丸美屋食品ミュージカル『アニー』は、2024年4月20日(土)〜5月7日(火)、東京・新国立劇場 中劇場にて上演予定。上演時間は約2時間30分〜2時間40分(第一幕:70分〜80分・休憩:20分・第二幕:60分)。夏には呉・大阪・仙台・名古屋公演も予定されている。全席指定9,500円。4月23日(火)12時チーム・バケツ公演、4月24日(水)12時チーム・モップ公演 / 16時30分チーム・バケツ公演、4月25日(木)12時チーム・モップ公演の計4公演は、「スマイルDAY」特別料金で全席指定8,000円(通常より1,500円お得)となる。

取材・文=ヨコウチ会長
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