例年、関東インカレは1年生ルーキーの溌剌とした走りが見られるケースが多い。そして、ここで活躍した選手は、秋から始まる三大駅伝にその名を連ねる可能性が一段と高くなる。今回の関東インカレでも、今シーズンはもちろん、これからの学生陸上界を担う逸材がすばらしい走りを見せてくれた。 


関東インカレ5000m予選に出場した折田壮太(中)Photo by Itaru Chiba/AFLO

【落ち着いた走りを見せた青学大・折田壮太】

 折田壮太(青学大1年)は、残念ながら足に違和感を覚え、決勝には出場しなかったが、2部5000mの予選2位と1年生とは思えない落ち着いた走りを見せてくれた。その予選での持ちタイム(13分28秒78)はトップだが、勝てるランナーになるには、数字以上に必要なものがあるという。

「僕は記録は持っているんですけど、それに伴う強さを追い求めていきたい。原(晋)監督ともその話をしていて、速さだけじゃダメ。常に勝ちきれる強い選手が理想です」

 勝つことにここまで貪欲なルーキーはなかなかいない。そういう意識に昇華したのは、海外での経験が影響している。3月、セルビアでの世界クロスカントリー選手権、8キロのレースに出場したが、優勝は3月に倉敷高校を卒業したばかりのサムエル・キバティ(ケニア)で、折田は20位に終わった。

「サムエル選手との差を感じました。彼に勝つとは、今の自分の実力では到底口にできない。まだまだ足りないものがたくさんあるんですけど、負けたくはない。これから大学でどれだけ彼に近づけるのか、それを楽しみにしています」

 悔しさを噛みしめた後、4月にドバイで開催されたU20アジア選手権の5000mでは14分08秒71の大会新記録で優勝し、金メダルを獲得した。

「ドバイで勝ちきれたことは自信につながりますし、1番になれたのがタイム以上にうれしかったです。また、ジャパンのユニフォームを着たいですし、そういう選手でありたい。そのために速さだけではなく、強さを求めていかないといけないと思っています」

 目線は、すでに世界に向いている。上半期の目標も8月にペルーで開催されるU20世界陸上選手権への出場だ。「誰にも負けないラストスパートを求め続けていけば」と、強さを磨き、世界でも結果に出したいという。

 それが終われば、駅伝シーズンになる。

「箱根の距離(ハーフ)は、徐々に慣れてきている感覚があります。でも、塩出(翔太・3年)さんとか先輩たちの横で走っていると差を感じます。まだまだですが、3大駅伝にすべて出たいですし、箱根は1区を走ってみたいと思っています」

 世界基準の折田がどこまで成長するのか。想像がつかないが、青学大をさらにスケールアップさせる存在になるのは、間違いないだろう。

【順天堂大でひときわ目を引いた玉目陸】

 順天堂大は、エース三浦龍司が卒業し、新しいチーム作りに着手しているが、関東インカレには今後の軸になる1年生が複数、出走した。

 そのなかで、ひときわ目を引いた選手が玉目陸だ。

 1部10000m、スタートした後、自分よりも速い選手をかわしていく度に力が出て、「まだいける」と自分を鼓舞しながら走った。その結果、28分13秒67で自己ベストを更新し、8位入賞を果たした。

「レースは、3000mまでは力を使わず、しっかりリズムに乗って5000m近くで日本人トップが見えるところに行き、そこから後半は粘る。自分が想定したとおり、会心のレースだったと思います」

 玉目は、そう言って満面の笑みを浮かべた。

 今シーズン、10000mはPBを出したので、5000mは13分30秒から35秒をターゲットにしていくという。それを可能してくれそうなのが、全体を使った大きな走りだ。

「入学後、スポーツ科学に基づいたトレーニングや動き作り、筋トレが少しずつ自分の身になってきています。高校時代と同じペースで走っても力まないで走れるようになったので、それが大きく、ダイナミックな走りに繋がっているんだと思います」

 今回、勝負レースの10000mを経験し、結果を出した。この流れを秋に繋げていければ駅伝を走る可能性がグンと広がる。

「箱根の希望区間は2区ですけど、2区じゃないと嫌ということではありません。6区は違うかなと思うので、それ以外であれば行ける自信があります。オールラウンダーとして、いい意味で監督を悩ませる選手になれたらと思っています」

 順天堂大は、前回の箱根駅伝で17位に沈み、今年は予選会からの出場になる。玉目が2区を走れるぐらいに成長すればシードも見えてくるだろう。そして、彼が3、4年生になった時、再び優勝を狙えるチームになるに違いない。

【自己ベスト出した中央大の岡田開成】

 中央大にも勢いのあるルーキーが出てきた。

 1部5000mで、岡田開成(1年)は、終始先頭集団でレースし、13分53秒32の自己ベストで6位入賞を果たした。

「先輩方についていくなか、最後まで自分のレースができたので良かったです。次に向けてひとつ収穫になったのかなと思います」

 レースでは、ラストで一歩も引かない気持ちの強さを見せた。

「自分の強みは、高校時代からそうなんですけど、自分で積極的に仕掛けられること。先輩がいても遠慮せずにいけるところです」

 レースは強気だが、普段の生活はまだ慣れている段階だという。洛南高校時代は実家からの通学だったが、今は寮で先輩と同部屋暮らし。選手によっては、生活環境に慣れるのに時間がかかるケースもあるが、岡田も少し戸惑うところがあるようだ。

「実家にいる時は親にいろいろやってもらっていたんですが、寮ではすべて自分でやらないといけないので大変です。寮内での1年生の仕事もあるので、練習しながらそれをこなしていくことも、これから慣れていかないといけないと思っています」

 今回、結果を出したことで、生活に慣れる余裕も出てくるだろう。そうしてトラックにおける目標をクリアし、「秋の駅伝に繋げていきたい」と語る。

「5000mは13分30秒を切ること、10000mは、28分台一桁が目標です。ハーフは、まだ走ったことがないので、夏合宿で長い距離の感覚を掴んで挑戦していきたいと思っています。駅伝は、将来的には箱根で2区を走りたいですが、今年はまず往路区間を走るのが目標。流れを作り、勝負できる選手になりたいです」

 トラックでも駅伝でも強い。岡田が目指す選手は、OBの吉居大和(トヨタ自動車)だ。

【今回最も注目された駒澤大の桑田駿介】

 関東インカレで、今回最も注目されたルーキーは、桑田駿介(駒澤大)だろう。2部5000m予選を8位で通過、決勝では上級生を相手に強気の走りを見せ、13分49秒69の自己ベストで5位に入賞した。

「予選で3000m以降、相手に反応してついていくことができなかったので決勝ではついていく意識でいたんですけど、また離されて......。でも、最後まで粘って自己ベストを出せましたし、国立で満点に近い走りができたので良かったです」

 レース後、朴訥とした雰囲気ながら丁寧に取材対応する様が初々しい。顔をくしゃっとさせた笑みは、OBの山下一貴によく似ている。体型や走りもなんとなく似ており、彼も愛されるキャラになりそうだ。

 大学の寮では、佐藤圭汰(3年)と同部屋で、日本トップクラスの選手からいろんな刺激を受けているという。

「圭さんは、ケアや練習について常に考えていて、本当に意識が高いです。僕は、たまにSチームで練習したりするんですが、圭さん、篠原(倖太郎・4年)さんを始め、みなさん後半のペースアップに対応し、練習の目的を明確にしてこなしている。世界を狙う先輩たちを間近で見て、自分に取り入られることは吸収していきたいと思っています」

 そういう環境にいるだけでは強くならないが、桑田は貪欲なのだろう。すでにいろんなことを吸収し、今回の結果にもその成果が表れ始めている。

「今の目標は、Sチームの先輩の篠原さんや圭さんに近づいて勝負できるようになること。タイムは、5000mが13分30秒台、10000mは27分台が目標です」

 秋からは、駅伝シーズンになる。箱根はハーフの走力が求められるが、桑田はロングも問題なさそうだ。倉敷高校時代から距離を踏んでおり、月間700キロ、走っていた。

「駅伝は、走れるなら全部狙っていきたいです。箱根は、どの区間というのはないですけど、往路を走りたいです。2区は、ちょっと難しいかもしれないので、3区、4区あたりで(苦笑)」

 駒澤大は、最強とも言われた4年生が今春卒業し、戦力ダウンが否めない。優勝を狙うには、「粘って走れるところが自分の強み」と語る桑田のように粘り強く長い距離を走れる存在が不可欠になる。彼が往路にハマれば優勝争いに食い込む戦略的なオーダーを組むことが可能になるだろう。

「4年間、トラックと駅伝の両方で頑張って、将来はマラソンでしっかり世界と戦っていくような選手になりたいです」

 彼のポテンシャルを考えれば、大学時代にもそうなる可能性は十分にある。