名物記者が振り返るセンバツ2024 後編(全3回)

 今春の選抜高校野球大会(センバツ)が健大高崎(群馬)の初優勝で幕を閉じた直後、奈良県内で4月4日から3日間、U18日本代表候補選手強化合宿が行なわれた。

 センバツで活躍した選手はもちろん、それ以外の世代トップクラスの実力の持ち主から、眠れる逸材まで数多く招集。そのなかから、実際に合宿を取材した高校野球の名物記者・菊地高弘さんが気になった選手を語った。


菊地高弘さんが高校No.1野手と評価する花咲徳栄の石塚裕惺

【強心臓の世代No.1ショート】

ーーU18日本代表候補選手強化合宿が4月に行なわれました。今春のセンバツに出場していないメンバーもいたと思いますが、そのなかで魅力を感じた選手はいましたか?

菊地高弘(以下同) やはり、花咲徳栄(埼玉)の石塚裕惺選手ですね。彼は強打のショートストップで、今年の高校生のなかではNo.1バッターではないかと。私はそう評価しているんですけれども、実力に関しては間違いなく世代トップクラスと言っていいと思いますよ。

ーー具合的にはどのあたりを評価されているのですか?

 まずはバッティングですよね。センバツから低反発の新基準バットが導入され、打球が飛びにくいと言われているなかで、今回の代表候補合宿ではさらに扱いが難しい木製バットを使用していました。

 それによって、よりその打者のすごさがわかるようになるわけですけど、初日のバッティング練習を見ても、メンバーのなかで圧倒的に打球を飛ばしていたのが石塚選手でした。

 コンタクト率が低い選手が多いなか、彼は高い確率で、しかも自分の間合いでボールを弾き返していた。力を抜いて、木製バットの形状をうまく利用しながら打球を飛ばしている姿を見て、ものすごいポテンシャルの高さを感じましたね。

 多少、狭めの球場ではありましたが、バッティング練習ではレフトスタンドに3本放り込んでいて。それをピッチングマシンではなく、打撃投手の生きた球をとらえていたというところに価値があると思うんです。本当に高い技術を見せてくれる選手だなと。

 今年からU18日本代表の指揮を執る小倉全由監督(前・日大三監督)も、全体的な飛距離の伸び悩みに不安を感じていたらしいのですが、石塚選手の打球を見て「やはりすごい」と感じたと言います。

 それともう一点、石塚選手がすごいなと感じる要素があります。彼はどんな大舞台だろうと、プレッシャーがかかる場面だろうと、いつも同じ表情でプレーするんです。それは高校1年の頃から変わらないのですが。

 先輩たちの最後の夏を終わらせちゃいけない、という気負いすらなく、難しいプレーをいとも簡単にこなしてしまう。心臓に毛が生えているような、そういう強靭なメンタルを持った選手です。

 感情に左右されず、常にフラットな状態でプレーできる。その姿を代表候補合宿でも見ることができて、あらためていい選手だなと感じましたね。

ーー本当に堂々としている選手なんですね。

 はい。大人びているというか、ひとりだけ大学生が混じっているような、そういう錯覚を覚えてしまう選手でした。

【高校生野手"ビッグ3"とは?】

ーーほかに気になった打者はいましたか?

 センバツ初優勝の立役者でもある、健大高崎の箱山遥人捕手です。スローイングはボールを捕球してから送球までのスピードが速いですし、送球のコントロールも"ビタビタ"。他のメンバーと比較しても、捕手としての能力が抜きん出ているなという印象です。

 加えて、大阪桐蔭(大阪)の境亮陽選手もズバ抜けた身体能力を持つ逸材。代表候補合宿の練習メニューのなかでシートノックをやっていたんですけど、ライトのポジションからのバックホームやバックサード送球がものすごいレーザービームで。

 それを見た周りの選手の口から「エグッ......」という声が漏れてしまうぐらい、肩の強さがひとりだけ次元が違ったんです。

 バッティングが光る石塚選手と並んで、強肩の箱山捕手と境選手、この3人は高校生野手のなかで頭ひとつふたつ抜けているなと感じます。

ーー以前と比べて、境選手に対するスカウトの評価は変わってきているのでしょうか?

 そうですね。大阪桐蔭には毎年いい選手がたくさんいるわけですけど、境選手に関しては正直、昨秋までは突き抜けた存在というわけではなかった。

 そこから今春のセンバツで成長を見せ、今回の代表候補合宿という世代トップクラスの選手が集まる中でも存在感を示すまでになっている。すでに、間違いなくプロレベルにまで十分に達している選手となりました。

 そういう意味では、彼がプロ志望届を提出すればの話ですが、右投げ左打ちの外野手というドラフトで優先順位を落とされがちな要素を差し引いても、支配下指名圏内だなと思いますね。

ーーやはり野手に関しては、新基準バットが導入されたセンバツでも打撃で結果を残せた選手が注目株になってきますかね。

 基本的にはそうなりますね。今回の代表候補合宿においても、目立っていたのはそういう選手が多かったです。ただ、センバツに出場していない高校のなかでもものすごいバッティングをする選手がいるので、紹介させてください。

 仙台育英(宮城)の主将としてチームを引っ張る湯浅桜翼選手なのですが、昨年は春夏どちらも甲子園に出場し、セカンドやサードのポジションで活躍していました。

 身長は170センチに届かないぐらいで小柄なんですけど、全身の筋肉をフル稼働させてしっかりと強いスイングができるんですよ。

 小倉監督も「しぶとくていい選手ですね」とコメントしていたぐらい、注目度の高い存在になっています。大きなケガさえなければ、今夏のU18日本代表には間違いなく選ばれると思いますよ。

【球速以上に速く見える北国の長身左腕】

ーー投手に関してはどうでしたか?

 僕が一番注目して見ていたのが、八戸工大一(青森)の金渕光希投手。身長183センチと長身で、非常に投球バランスの優れた左腕です。実際に2月に八戸まで見にいったんですけど、ひと目見て惚れ惚れしてしまいました。

 今回の代表候補合宿においては、紅白戦でマウンドに上がった時に2回4失点と炎上してしまったんですけど。多少、不運な打球が続いたり、味方の守備の乱れもあったりしたので、まったく問題はありません。

 本人は「代表候補合宿の時は指にかかるボールは少なかった」「調子を落としていて、あまり思うようにいかなかった」と言っていましたが、試合前のキャッチボールや遠投では、むしろひとりだけフォームのバランスがズバ抜けてよかったんです。

 一般的な長身で手足が長い投手、とくに左腕にはよく見られるんですけど、ぎこちないというか、自身の体をうまく扱えない場合が多いんですよ。けど彼にはそれがまったくなく、滑らかに、長い手足を活かした投球ができるんです。

 加えて最後のリリースの瞬間、"ピッ"と指にかかったボールは、勢い、強さ、スピード感がとてつもなく、ドラフト上位で指名されてもおかしくないと思わせるぐらいの威力なんです。

ーーストレートは最速で何キロ出ているんですか?

 今の時点では148キロぐらいだったと思います。ただ金渕投手の場合は、いわゆる「実際の球速以上にボールが速く見える」投手だと思うので、球速数値だけでは推し量れないかなと。

 プロの世界だと、スピードガンで高い数値は出ていても、しっかり振りきられてスタンドに放り込まれてしまう。そういう投手ってたくさんいるじゃないですか。

 でも彼ならば、たとえ140キロ半ばのまっすぐでも、プロの打者相手に差し込めるほどのボールを投げる投手であると感じています。

 八戸工大一はロッテの種市篤暉投手や西武の黒田将矢投手といった楽しみな人材がどんどん出てくるような、投手育成に定評のある高校ですから、金渕投手にもこのまますくすくと育ってほしいですね。

【合宿に現れた新星はド迫力】

ーーセンバツに出場していない高校で気になる投手はいましたか?

 北照(北海道)の高橋幸佑投手は、周りから一目置かれていましたね。小倉監督が相当高い評価をしていましたし、その他の首脳陣からも「あの北照の投手はすごいよね」という評判が立っていました。

 正直、僕も代表候補合宿で見るまでは彼の存在をあまり知らなかったんです。けど実際に傾斜のない平地で投げている姿を見たら、ボールがうなりを上げるぐらいのすごい迫力を感じました。

 身長は178センチと、そこまで角度があるわけではないのですが、受ける側から見ると、ボールがぐんぐん迫ってきて、思わず足がすくみ恐怖を感じてしまうような感覚を覚えましたね。

ーー高橋投手の変化球についてはどうでしたか?

 ブルペンで投げていた時に、サポートメンバーとして参加していた別の高校の捕手が、高橋投手のスライダーを捕ろうとしたんですけど、うしろに逸らしたんです。要は初見ではなかなか反応できないようなボールのキレと曲がりをしているのでしょうね。

 投球の際に腕もしっかりと振っているので、捕手も怖いと思いますよ。ストレートにしても、変化球にしても、それだけ高いレベルに位置していることは確かです。

 昨年もこの代表候補合宿をきっかけに、山形中央(山形)の武田陸玖投手が台頭し、その後のドラフトで「二刀流」としてDeNAから3位指名を受けたわけで。"ネクスト武田"じゃないですけど、高橋投手も今後、高校野球雑誌の表紙を飾るぐらいの存在になってくる可能性は十分にあるんじゃないかと。

 夏にかけてどんどん全国区の投手になり、甲子園のマウンドで躍動している姿を期待したいですね。

構成/佐藤主祥

前編<名物記者がうなったセンバツの逸材たちは「間違いなくドラフト候補」 新基準バットで柵越えの選手も>を読む

中編<名物記者が絶賛...センバツで輝きを放った投手たち「一球見た瞬間、あ、プロ入りは間違いないな」>を読む

【プロフィール】
菊地高弘 きくち・たかひろ 
1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。