今夏のバルセロナの補強の動きを占ううえで、まず最大の焦点となるのが「1×1ルール」、つまり現有戦力の誰かを売却した場合、その取り分の満額を補強にあてることができるという本来の形を取り戻せるかだ。それは近年、重い足かせとなっていたFFP(ファイナンシャルフェアプレー)の「1×4ルール」(前述の満額に対して、25%しか投資できない)の呪縛からの解放を意味する。

 2023-2024シーズン決算における赤字から黒字への転換、支払いの遅延が生じている2年前の経済的テコ入れの稼働によってもたらされる資産売却分の回収、サプライヤー契約を結んでいるナイキとの契約の見直しといった点が判断材料となり、ジョアン・ラポルタ会長は自信を示しているが、予断は許さない。

 アンカー、左右のSB、左ウイング、FWと多くのポジションが補強ポイントとして取り沙汰されているが、このような状況では絞り込みをせざるを得ないだろう。この中で、現地の識者が最重要課題と声を揃えるのが、アンカーと左ウイングだ。前者は手ごろなオプションとして、ベティスとの契約が今シーズン限りで満了するアルゼンチン代表のギド・ロドリゲスの名前が浮上しているが、シャビ監督の希望は、昨夏に引き続きマルティン・スビメンディ(レアル・ソシエダ)かヨシュア・キミッヒ(バイエルン)の二者択一だ。

 一方、左ウイングについては、今シーズンはセカンドトップタイプのジョアン・フェリックスの起用、あるいはガビやフェルミン・ロペスのようなMFを偽ウイングとして起用する形が目立ったが、地元スポーツ紙『スポルト』のミゲル・サンス記者は、「突破力に秀でたドリブラータイプの獲得」を推奨する。最近、名前の挙がっているアントニオ・ヌサ(クラブ・ブルージュ)はまさにそのタイプだ。一方、シャビ監督はベルナルド・シウバ(マンチェスター・シティ)やたびたび名前が取り沙汰されるダニ・オルモ(ライプツィヒ)といったポジショナルプレーの習得度や万能性で上回るタイプに、変わらず執心していると伝えられている。
  冬に加入したヴィトール・ロッキが事実上、シャビ監督の戦力構想から外れ、ロベルト・レバンドフスキの年齢(35歳)による衰えが不安視されるFW、ジョアン・カンセロが守備面での不安を露呈し、ジュル・クンデがメインに起用されている右SB、レギュラー格のアレハンドロ・バルデが怪我も重なり、2年目のジンクスにどっぷりつかってしまった左SBも重要な補強ポイントだが、優先順位では下という見方が強い。

 もちろんこれらのオペレーションを実現するには、現有戦力の売却が不可欠で、ロナルド・アラウホ、フレンキー・デ・ヨング、ラフィーニャらの名前が真っ先に挙がっているが、誰を放出すべきかという点については各識者の意見もそれこそ十人十色だ。オファー額と戦力的価値を天秤にかけて判断するしかなく、高給取りのレバンドフスキも候補に入ってくる。

 並行して進めなければならないのは、アンタッチャブルとして位置づけている選手たちの契約の見直しだ。現行の契約が2026年6月で満了するペドリはその筆頭格。2021年10月に経営が好転すれば改善するという口約束を基に格安年俸で契約を延長したものの、その後も据え置きのままになっており、契約満了まで間もなく2年を切る中、これ以上脇に置いておくことができない案件だ。レンタル組のジョアン・フェリックスとカンセロ、復帰予定のアンス・ファティ(ブライトン)やエリク・ガルシア(ジローナ)らに加え、1月に加入したばかりにもかかわらず、完全移籍の報道まで飛び出している前述のヴィトール・ロッキを巡る処遇にも注目が集まる。

 スポーツディレクター(SD)のデコにとっては責任重大だ。ラポルタ会長をはじめとした経営陣からの圧力、現場を仕切るシャビ監督の要求とすり合わせながら、幾多の案件を同時に進めていかなければならない。現地では、このような状況下では現有戦力の維持を基本線に補強はワンポイントにとどめ、若手のさらなる成長に期待すべきという「自制の夏」を提唱する声は根強い。そもそも今シーズンも、ラミネ・ヤマルやパウ・クバルシら下部組織出身者の台頭がなければ、大変なことになっていた。しかしラポルタはほぼ独断でシャビ監督の続投を決め、タイトルを欲しているという事情がある。数字とにらめっこしながらの、バルサの長い夏が始まる。

文●下村正幸

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