モンスターが〝悪童〟を巨大会場の〝魔物〟もろとも退治した。ボクシングのスーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥(31=大橋)が6日、東京ドームで挑戦者のWBC同級1位ルイス・ネリ(29=メキシコ)を6回1分22秒TKOで破り防衛に成功した。

 1990年にマイク・タイソンがジェームス・ダグラス(ともに米国)に史上最大と言われる番狂わせで敗れて以来、34年ぶりとなるボクシングの東京ドーム決戦で日本人初のメインイベントを務め、ドーピング陽性、大幅体重超過などの騒動を起こした悪童を迎え撃った井上。しかし開始早々、接近戦の離れ際にネリの左フックで体をねじるようにダウン。タイソンの悪夢がよみがえるような出来事に場内は悲鳴に包まれるが、立ち上がると冷静さを取り戻す。ネリの変則的な連打を見切りながら、的確なボディー、ワンツーなどで主導権を握り、左フックで2回と5回にダウンを奪うと、最後は6回、コーナーに追い詰めての右ストレートで葬り、日本のファンの留飲を下げた。

 リング上でのインタビューでは「1ラウンド目のサプライズ、いかがでしたでしょうか」と笑みを浮かべた井上。そこにIBF・WBO同級1位サム・グッドマン(オーストラリア)が現れると、「次戦、9月ごろ、隣にいるサム・グッドマンと防衛戦の交渉をしていきたいと思います」と宣言し、グッドマンも「自分もベルトが欲しくてここまで戦ってきた。やりましょう」と呼応した。

 ダウンのダメージは「さほどなかった」といい、「パンチの軌道が読めなかった。2ラウンド目からポイントを計算していこうと。リードされているので冷静に戦うことができた」と振り返った。巨大会場の重圧に関しては、「パワーをもらってはいましたけど、重圧もあったんだなと思う。東京ドームの景色を見て、ちょっと浮足立った感じだったのかな」と否定しなかった。

 今後については、昨年12月の前戦後には、WBA同級1位ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)らを相手候補にサウジアラビア開催が浮上していたが、今月4日には、井上と契約する米大手プロモーター、トップランク社のボム・アラムCEOが井上の海外進出に否定的な考えを示している。日本最大級の会場で4万3000人の観衆を熱狂させたモンスター。次はどこで戦うのだろうか。