【取材の裏側 現場ノート】大相撲夏場所が12日に東京・両国国技館で初日を迎える。今場所は大関琴ノ若改め琴桜(26=佐渡ヶ嶽)が、元横綱で祖父のしこ名を襲名。50年ぶりに「琴桜」を名乗る二代目は「まだ、もう一つ上(横綱)がありますから。先代もそこを目指せと言うでしょうし、満足していないと思う。優勝を目指してやっていかないといけない」と気持ちを引き締めた。

 初代琴桜の先代師匠は2007年8月14日、66歳で死去した。亡くなる直前、現師匠の佐渡ヶ嶽親方(元関脇琴ノ若)は夏巡業の先発担当親方として山形に滞在。危篤の知らせを受けて、千葉・松戸の入院先へ駆けつけた。一方で、琴光喜、琴欧洲、琴奨菊の関取衆は巡業先に残留。先代師匠の「教え」を守るためだった。佐渡ヶ嶽親方に改めて当時の状況を聞くと、こう述懐した。

「関取衆が一緒に病院へ会いに行ったら、きっと先代は怒るだろうなと。やっぱり、稽古が一番の人だったので。私が先代の耳元に携帯電話を当てて、光喜、欧洲、奨菊に『ひと言ずつ最後に言え』と言ったんです。(電話越しに)一人ひとりが声をかけると、その時だけ先代の心拍がパッと上がって、聞こえているんだなと…。それが最後のお別れになった」

 先代師匠の長女でおかみの真千子さんによると、先代がこの世を去って間もなく、部屋の敷地に植えてあった3本の桜の木のうち、1本が倒れて枯れてしまったという。真千子さんは「父が亡くなった時、その桜も倒れてダメになってしまったんです。一番好きな花の樹木を持っていったんだなと…」と振り返った。

 佐渡ヶ嶽親方は一人息子の「琴桜」襲名にあたり、次のように語っている。「花と言えば桜、相撲と言えば琴桜。強く愛されるような力士に育っていってほしい」。半世紀ぶりに返り咲く琴桜の土俵に注目したい。(大相撲担当・小原太郎)