【元局アナ青池奈津子のメジャー通信】いつ見てもふわふわで柔らかそうなスコット・バーローの栗色の長髪が気になっていた。

 その理由を「手を通した時の触り心地が良くて好きなんだ。当然、暑いよ」と笑いながら会話に応じてくれた。幼い頃から長髪が当たり前だったため、髪を伸ばすことよりも、実は切ることの方に特別な意味があることを教えてくれた。

「大人になるにつれ髪色が濃くなったけど、子供の頃はそれはそれはキレイなブロンドでさ、いつも肩くらいまで髪を伸ばしてたんだ。12歳の時、ボーイスカウトに入っていて、ニューメキシコに10日間ほどトレイルの旅に出たが、出発の前夜、準備のキャンプミーティングでメンバーの1人が頭を剃ろうって言い出して。みんなでバリカンで刈り上げたんだ」

 翌日、見送りに来た母マーガーレットさんが仰天していたが、その時のスコットは使命感でいっぱい。それもそのはず。家族と離れ、スカウトの憧れであるニューメキシコ州のロッキー山脈サングレ・デ・クリスト地域にある「フィルモント・スカウト・ランチ」へ、友人ら10人と指導員1人で大自然の中を約160キロを歩くという人生最大のアドベンチャーに胸を躍らせていたからだ。

「野宿生活だから何日もシャワーを浴びられない。衛生的にも髪が短い方がいいって、みんなで合意したんだ。全員で刈り上げたことが楽しくて、髪を切る抵抗は一切なかった」

 野営、たき火、フリーズドライ食料の調理法、コンパスの読み方からクマ対策のベアバッグを木の枝につり下げる方法など、この旅のために1年近く練習。断髪からは、大人でも大変な旅に真剣に向き合う12歳の少年らの気持ちが伝わってくる。その証拠に20年近くたった今でも色あせない記憶だと言う。

「林の中を1列に歩いていたら、突然25頭くらいのシカの集団が僕らの列の間を走り抜けた。どう猛な肉食動物に追いかけられているのかもしれないって、すごく緊張しながら歩いたり、もうすぐでその日の目的地というところで子グマに遭遇したり。子グマがいたら母グマがどこかにいるから距離を取って息を潜めながら待ったり…。ピューマが獲物を追いかけて猛ダッシュするのも見たし、鉱山の跡地もあってトレイルを外れて探索したり」

 そうした経験からこんな思いが生まれた。

「終わった時には日々両親が用意してくれた食料のありがたみや、仲間の大切さを実感。何時間も坂道を上り続けて足にマメができたり、自分たちは臭いし、しんどくてたまらない時、みんなで励まし合った。あの旅で、自分の周りにどんな人を置くか、誰と過ごすかはとても大事だって学んだ。本当に良い人間関係とは、つらい時や大変な時にポジティブになれる間柄であること」

 そう言うとスコットはクラブハウス内を見渡してこうつぶやいた。

「今のガーディアンズ、特にブルペン陣は本当に特別。才能も個性も素晴らしい。共通のゴールを持っているだけでなく自分が落ち込んだり、悩みがあったら誰もが聞いてくれ元気をくれる。野球では常に最高の球を投げることを目指しているが、ここにはたくさんの友情があって、中には一生モノの友人もいる。それこそが野球の一番すごいところさ」と――。

 ☆スコット・バーロー 1992年12月18日生まれ、31歳。コネチカット州ニューロンドン出身。右投げ右打ち、投手。2011年にMLBドラフト6巡目(全体194位)で指名されてドジャースに入団。17年オフにロイヤルズに移籍し、18年4月30日のレッドソックス戦でメジャーデビュー。23年8月1日にパドレスに、同年オフにはガーディアンズにそれぞれトレード移籍した。キレ味鋭いスライダーが武器。191センチ、95キロ。