横山典(左から2人目)と安田調教師(右)
横山典(左から2人目)と安田調教師(右)

日本ダービー2024

[GⅠ日本ダービー=2024年5月26日(日曜)3歳、東京競馬場・芝2400メートル]

 26日、東京競馬場で行われた競馬の祭典・GⅠ日本ダービー(芝2400メートル)は、9番人気の伏兵ダノンデサイル(牡・安田)が直線で内から抜け出して勝利。競走除外となった皐月賞のリベンジを見事に果たしたが、その背景には想像もしない厳しい戦いがあった。レース史上最年少での優勝トレーナーとなった安田翔伍調教師と最年長記録でダービーを射止めた横山典。彼らのコメントをもとにダービー馬の可能性を探っていきたい。

 ホースマンの最大目標・日本ダービー。その優勝会見とは思えないようなコメントを関係者は発した。それが何よりも印象に残っている。

 もちろん、その背景には右前肢跛行で競走除外になった皐月賞があり、横山典の第一声も「ダービーを勝ったことはもちろんうれしいですが、あの決断は間違っていなかった。デサイルの将来性を断たなくて良かった」。その部分に言及したもの。それはダービーという最高の栄誉を得てもなお、手放しで喜べないような厳しい期間を過ごしてきたことを示していた。

 レースだけを見れば、メイショウタバルがいなくなり、戦前に予想された通りのスローペース。積極的に出していき、好位内めの絶好位を取り切った鞍上の手腕が冴えた──ということになるのだろう。実際、エスコートした鞍上の手腕をたたえる声の多いダービーになるとは思う。直線で抜けてきたダノンデサイルの脚も素晴らしいものに見えた。

 だが、見守った安田調教師は「いいころにはまだ戻り切っていないな、と。正直、ほかの馬を見る余裕もなくて、直線もバランスを崩した走りになっていないかと…。(先頭で)ゴールを過ぎてからも動作の確認が先でしたね。喜びたかったですけど、それができる過程ではなかったので」と不安のほうが多いレースだったことを告白。もちろんダービーというレースに向け、肉体的な面ではしっかりと仕上がってはいたが、皐月賞を走らなかったことで「今までに見せなかった精神状態の乱れ」(同調教師)。ダービーまでの6週間で最も気を使った部分がここだったという。

 完成度で他を圧倒したわけでなく、究極の状態でもぎ取ったわけでもない勝利。とてつもない将来性を感じるダノンデサイルに、大きな何かを期待するのは当然だろう。それを認めつつも「まずはしっかりとケアして、夏をどのように過ごすか。確実に持っている将来性を邪魔しないようにしたい」とトレーナーが言えば、横山典も「ダービーは目標ではあったけど、あの馬が完成に至るまでのプロセス。今日はうまくいきましたが、それを消さないように」。ダノンデサイルの今後はもちろんだが、「素晴らしいホースマン」とお互いが認めるコンビにも注目していきたい。

著者:松浪 大樹