震災の教訓と復興の情報発信につながるホープツーリズム。福島県の被災地で明かりを灯し続けている旅館の女将は、未来を切り拓くヒントを、次の世代へ伝え続けています。
フィールドパートナー「(山に)登り始めたのが15時35分、津波が押し寄せてきた時刻は15時38分」
5月15日。福島県浪江町の震災遺構、請戸小学校には、県外の企業で人材育成のプロジェクトに携わるチームが研修に訪れていました。
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請戸小学校のように県内の被災地には、このところホープツーリズムと呼ばれる取り組みで多くの人が訪れています。ホープツーリズムは、県などがバックアップして旅行会社がツアーとして行っていて、「フィールドパートナー」と呼ばれる地域の人と一緒に被災地を巡り、震災や原発事故について学びます。この日も、参加した人たちは県内の復興の歩みを肌で感じていました。
参加者「まだこれだけ被害があるということと、聞いている数字以上ものを受けたので衝撃がすごくあった」
県によりますと、ホープツーリズムへの参加は増え続けていて、昨年度は396件と8年間で最も多くなりました。特に、教育機関や企業の研修で参加する団体が増えています。
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被災地の姿を伝える旅館の女将
こうした中、被災地のありのままの姿を伝え続けている人がいます。南相馬市小高区の小林友子さんです。小林さんが営む双葉屋旅館は、福島第一原発からおよそ20キロの場所にあり、一時、避難指示が出されました。
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それでも、小林さんは2016年に旅館を再開させ、故郷に明かりを灯し続けています。近頃はホープツーリズムの参加者も多く宿泊するといい、小林さんは、訪れた人たちに震災と原発事故のことを伝え続けています。
双葉屋旅館・小林友子さん「私たちだって責任がある、ここの状況は。だから必死になって伝えようとしている」
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この日、宿泊したのは東北大学の学生たち。このグループは、小高でフィールドワークを行いながら被災地の復興について学び、来年3月に研究の成果を学生目線の政策として南相馬市に提言する予定です。
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夕食に小林さんが振る舞ったのは、旬の魚やタケノコを使った料理。小高を少しでも身近に感じてもらおうと、地元で採れた食材を料理に取り入れているといいます。
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小林さん「(原発事故直後は)食べられなかった。測ってみると生で20(ベクレル/キロ)くらい。除染なんてし切れるものじゃない。キノコも食べたいなと思いながら…」
「原発事故で学んだ。だからそれを伝えたい」
夕食のあと、小林さんが学生たちに伝えたのは、これからも小高で生きていくことについて抱いている葛藤でした。
小林さん「全部なくなった町と、続いている町の温度差が同じ市の中にあるから、本当はこっち(小高)を引き上げてゼロのスタートラインをつけてくれたら良いが、そこまでの思いに至らない状況が今あるのかなって」
学生「小林さんが考える小高の復興のゴールがどこにあるか、気になる」
小林さん「復興というのは人それぞれ違うと思うけれど、私としては8割(進んでいる)。自分の事業としてここ(旅館)が成り立っていることが一番かなと思っています」
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東北大学 公共政策大学院・阿部颯さん「人によって感じている課題も違うと小林さんの話を聞いて感じた。どの課題が優先的に取り組むべきものなのか、しっかり考えていかなければならないと思った」
東北大学 公共政策大学院・ハン・ジェホさん「行政と実際に地域に住んでいる人で意見の食い違いがあるかなと認識した」
震災と原発事故について伝える際、小林さんが意識しているのは、正直な言葉で思いを伝えること。若者たちには、自分で考え抜く力を養ってほしいからだといいます。
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小林さん「こうだったとは話すけれど、こうだという答えはない。あとは自分で考える力を蓄えたり、学んでいったりした方が良い。自分もこの原発事故で学んだ。いっぱい学んだ。だからそれを伝えたい」
震災と原発事故の記憶がない世代が多くなり、その風化が懸念される今。小林さんは、未来を切り拓くヒントを掴んでほしいと願いながら、震災の記憶と教訓を伝え続けています。