昨年は2位躍進に大きく貢献



今季はなかなか打撃の調子が上がらない堂林

 四番を担っているにもかかわらず、試合終盤に代打を送られるケースが目立つ。一番悔しいのは本人だろう。プロ15年目を迎えた広島・堂林翔太だ。

 昨年は打率.273、12本塁打をマーク。2ケタ本塁打は3年ぶりだった。前半戦は調子が上がってこなかったが、8月に月間打率.371、5本塁打、13打点をマーク。主力打者の離脱が相次いだ時期に奮闘した。西川龍馬(現オリックス)が故障で戦列を離れた9月上旬に四番に抜擢されると、2位躍進に大きく貢献。今年から選手会長に就任した。

 新井貴浩監督の期待は大きい。今季も開幕から四番で起用されているが、打撃で試行錯誤を続けている。5月7日現在、25試合出場で打率.213、0本塁打、5打点。不調が心理面で影響を及ぼしているのか、目を疑うボーンヘッドが見られた。4月25日のヤクルト戦(神宮)。2点を勝ち越した6回二死一、二塁の好機で清水昇の直球を二遊間にはじき返した。二塁・山田哲人が逆シングルでさばき、遊撃の長岡秀樹に送球したが、懸命に走った一塁走者・野間峻祥のスライディングが間一髪早くセーフに。しかし、堂林が走る速度を緩めていたために一塁でアウトになった。全力疾走していれば二死満塁と好機が広がっただけに、言い訳のできない怠慢プレーだった。

 チームは乱打戦の末に8対9で逆転負け。勝負は細部に宿る。堂林の走塁が直接的な敗因ではないが、やるべきことをしなければ勝利の女神は微笑まない。次のカードの中日戦(バンテリン)は2試合連続でスタメンを外れた。結果が出ないからではない。新井貴浩監督のメッセージをどう受け止めたか。

 そのあとに四番で復帰したが、5月4日のDeNA戦(マツダ広島)で守備の際に再びお粗末なプレーが。2回に無死一塁で、森下暢仁が牽制球を投げたが目を切っていたために後逸する失策。一塁走者・牧秀悟が二塁に進塁し、その後に大和の左犠飛で先制点を許す形となった。堂林は翌5日の同戦で出場機会がなかった。

 広島を取材する記者は「野球に取り組む姿勢は一生懸命で真面目な男です。試合に出られず苦しんだ時期があっただけに、四番で出場できる重みは誰よりも強く感じているはず。結果が出ない焦りで悩んでいるかもしれないが、気持ちを切り替えて巻き返してほしいですね」と期待を込める。

幾度も試練を乗り越えて


 堂林は苦労人だ。中京大中京高の3年夏にエースで四番として甲子園全6試合に登板。決勝戦は9回二死から日本文理高が6点差を猛追する驚異的な粘りを振り切って、43年ぶりとなる夏の甲子園優勝に導いた。9回を最後まで投げ切れなかった悔しさと、全国制覇を飾った安堵感が入り混じったのだろう。帽子で顔を隠して「本当に最後は苦しくて……情けなくて。ホントすみませんでした」と泣きながらナインに謝罪した優勝インタビューが印象的だった。

 ドラフト2位で広島に入団すると、高卒3年目の12年に全144試合出場し、打率.242、14本塁打、45打点をマーク。将来を嘱望されたがその後は出場機会が減少し、19年には一軍デビュー後最少の28試合の出場にとどまった。背水の陣で迎えた20年に覚醒する。8年ぶりに規定打席に到達し、打率.279、14本塁打、58打点といずれも自己最高の成績を記録。野球評論家の伊原春樹氏は週刊ベースボールのコラムで、打撃面での変化を指摘していた。

「オフには3学年後輩の鈴木誠也の自主トレに志願して参加したという。相手は侍ジャパンの四番とはいえ、なかなか後輩に頭を下げるのはできることではない。鈴木からは打撃の際、上体が前に突っ込んでいることを指摘され修正し、体重移動の考え方についても助言をもらったそうだ。さらに広島OBの新井貴浩からの『バットのヘッドを最短距離で出す』と助言されたイメージをたたき込み、打撃練習では中堅方向を意識し続けたという」

「確かに今までの堂林のバッティングは“相手の投球に力負けしないように強く振ろう”というイメージだった。だから、どのようなコースに対しても引っ張りにかかっていた。強引なバッティングに終始していたのだ。しかし、今季はそのイメージから脱却している。先の逆転満塁弾も素直にバットを出して中堅方向へ打ち返した結果、打球はバックスクリーンへと達した。センター中心に、コースに逆らわないバッティングが好成績につながっていると思う」

 幾度の試練を乗り越えてきた。7日の阪神戦(甲子園)は「七番・一塁」でスタメン起用されたが、4打数無安打に終わった。信頼を取り戻すためには、グラウンドで結果を出し続けるしかない。

写真=BBM