ヒットゾーンに飛ばす高い能力



5月16日の阪神戦から一軍昇格し、好打を見せているビシエド

 中日ファンにこれほど愛される助っ人は、なかなかいないだろう。ダヤン・ビシエドの名前が球場でコールされると、大きな歓声が上がる。来日9年目。混戦のセ・リーグで踏みとどまるためにも、ポイントゲッターとして大きな期待がかかる。

 今年は本職が一塁の中田翔が加入したことで、ビシエドの置かれた立場が厳しくなった。開幕は二軍スタート。だが、生真面目な助っ人が腐ることはない。ウエスタン・リーグで30試合出場し、打率.316、3本塁打、12打点をマーク。中田が左足に自打球を受けた影響で登録抹消されたことに伴い、5月16日に一軍昇格した。「六番・一塁」でスタメン起用された同日の阪神戦(バンテリン)。4回二死一塁で西勇輝が投じた内角高めのシュートを詰まりながらも中前に運んだ。6回も西勇のスライダーに反応して中前打。17日のDeNA戦(横浜)も2試合連続マルチ安打と、高い打撃技術がさび付いていないことを証明した。

 他球団のスコアラーは、「驚きはないですね。ビシエドは春季キャンプの実戦からファームでも打撃の状態はずっと良かった。一軍でも実績のある選手ですし、スタメンで出場すればある程度結果は出すでしょう。試合に出続ければまだまだ一軍で十分に通用すると思います。長打力が落ちていると言われていますが、本拠地のバンテリンでホームランを量産できる打者なんてなかなかいませんよ。ヒットゾーンに飛ばす能力が高い選手なので、打線に入ると厄介です」と警戒を強める。

何度も乗り越えてきた壁


 近年は打撃不振が指摘されるようになり、昨年は91試合出場で打率.244、6本塁打、23打点と自己ワーストの数字に。国内FA権を取得し「日本人扱い」となったが、背水の陣で今季を迎えた。「ナカタの存在は意識しない。自分のやるべきことをやってチームに貢献するだけだよ」、「自分のスイングは自分が一番よく分かっている。自分と向き合って、調整していく」と話していたように、黙々と汗を流す。中日で順風満帆な歩みだったわけではない。何度も壁を乗り越えてきたから今がある。

 メジャーでは外野を守っていたため、来日当初にコンバートされた一塁の守備がうまいとは言えなかった。課題の克服へ、守備練習を地道に積み重ねてハンドリングが上達するように。難しいショートバウンドやワンバウンドを巧みに捕球し、内野陣から絶大な信頼を寄せられるようになった。2020、21年と2年連続でゴールデン・グラブを受賞。表彰式では長男のダヤン・ジュニア君に努力する姿勢、前向きな気持ち、準備の重要性を伝えていることを明かしていた。

交流戦で上がる存在価値


 中日ファンから愛されているように、ビシエドも日本、名古屋を愛している。家族で名古屋に住み、はしを使って器用にお弁当を食べる。自転車を走らせて名古屋の街に繰り出すことも。オフになるとすぐに帰国する外国人選手が多い中、球団納会に参加して話題になったこともある。ファン感謝デーにも参加し、三輪車を一生懸命にこぐなど盛り上げる姿に、ファンから大声援と拍手が。「ファンと近くで触れ合えて、『ずっと名古屋にいて!』と言ってもらえてうれしいよ」と笑顔を浮かべていた。

 近年の中日は貧打による得点力不足が大きな課題だったが、中田が加入し、細川成也が強打者として飛躍的に成長。近年精彩を欠いていた高橋周平が復活の兆しを見せ、和製大砲の石川昂弥も存在感を発揮している。ここにビシエドが加われば打線にさらに厚みが増す。5月下旬から始まる交流戦では指名打者が使えるため、中田とビシエドの共存が可能になる。

 坂本勇人(巨人)、柳田悠岐(ソフトバンク)、宮崎敏郎(DeNA)と同学年の「88年世代」。中田は1学年下でほぼ年齢は変わらず、まだまだ老け込む年ではない。ビシエドが打つと球場が盛り上がる。16日の阪神戦(バンテリン)で根尾昂が6回に原口文仁に3ランを被弾した際は、一塁からマウンドの根尾に歩み寄り声をかける姿が見られた。心優しき助っ人は、中日にまだまだ必要な存在だ。

写真=BBM