5月3、4日に豊田合成記念体育館 ENTRIOにて「春日井製菓 presents Wリーグオールスター2023-2024 in 愛知」が行われ、第25回Wリーグが終了した。

 初日は新人選手が対象の「Wリーグフレッシュオールスター 2023-2024」やWリーグ25周年の中でリーグを盛り上げ貢献した25名レジェンド(有識者・現役選手・ファンが選出)が集った「W LEAGUE GREATEST25 オールスターゲーム」などが行われ、2128名が会場に足を運んだ。そして、「Wリーグ オールスター」の本戦が行われた2日目は3008名の入場者数となり、WKBL選手も参戦した祭典は2日間ともに楽しいひと時となった。

 両日とも、会場に詰めかけたファンは推しの選手やチームの名前が入ったタオルや手作りのうちわなどグッズを持参。思い思いに声援を送る姿が多く見かけられた。

 今や“推し活”には欠かすことのできないこのグッズ。Wリーグでも各チームがオリジナルグッズを販売しているが、今シーズン、積極的なグッズ展開を見せていたのがデンソーアイリスではないだろうか。デンソーは、事務局でチーム運営に携わる平浩二さんと今井さくらさんがグッズを担当。その中で今回は、企画から中心を担っている今井さんに話を聞いた。

取材・文=田島早苗

◆女子バスケットに携わりたいとデンソーへ
ブレックス時代のノウハウを生かして

 ここで少し今井さんの経歴に触れよう。昨年5月に株式会社デンソーに入社した今井さんは、八雲学園高校(東京都)、國學院大学と学生時代は強豪チームでプレーヤーとしてバスケットに全力を注いできた。大学卒業後もWリーグに携わりたいという思いはあったが、縁がなかったため、大学卒業後の4年間は塾講師として勤務。その間に「Bリーグチームのスクールコーチという職業が確立されてきた」ことから、宇都宮ブレックスにスクールコーチとして転職し、小学生の指導やユースチームのアシスタントコーチなどを務めた。

 それでも、充実した日々ではあったが、どこかに「女子バスケットの世界に行きたい」という思いは離れなかった。そのようなときに新たに人材を探していたデンソーから話を受けることに。そこでもちろん「すぐに決断しました」と、Wリーグの世界へと足を踏み入れた。

「もともと企画することはすごく好きだったし、Bリーグの中も見てきたので、それをWリーグでもうまく生かせないか」という思いもあった今井さんは、入社するとホームページやSNSの運用、メディア対応などといった広報業務がメインではあったが、同時にチームグッズも受け持つことに。ブレックス時代にバスケットとチアリーダーのスクール生向けグッズを担当していたため、一定のノウハウはあった。その中で『選手が考案したグッズ』を企画したのだ。

 キッカケは岩手県で開催された9月のオータムカップ。「新人選手の顔と名前を覚えてもらいたい」という理由で東北出身のルーキー2人、今野紀花(宮城県)と平賀真帆(岩手県)がデザインしたトートバックと缶バッチを発売したことだ。これが予想を超える反響があったため、シーズンを通して『開催地(試合)の出身、もしくは馴染みのある選手が考えたグッズ』を販売しようと決めたという。

 ヒントとなったのは「ご当地キティ」。その土地ならではの格好や物を身につけているハローキティのグッズが地域限定で展開されているが、「私はそれが小さい頃から好きだったので、いいなと思ったんです」と、今井さん。ちょうど、2023−24シーズンのレギュラーシーズンでは選手に馴染みのある地域での開催が多かったことも後押しした。また、「ホーム&アウェー方式のBリーグとは異なり、全国各地で試合を行うWリーグの特性を生かしたい」という考えにも合致したと言えるだろう。

 以下が今シーズンに販売した選手考案グッズの一覧となる。ちなみに…
①試合開催地が出身の選手
② ①の選手がいる場合、隣県選手も該当という基準を設けたため、本川紗奈生(北海道出身)、高橋未来(滋賀県出身)は今シーズン、該当なし

 そのため、2人はチームの開幕戦となる山梨大会でグッズ購入者の中から抽選で当たるミニトートバックにサインをすることでグッズ販売に携わった。

【オータムカップ】
今野紀花(宮城県出身)、平賀真帆(岩手県出身)/トートバック、缶バッチ

【山梨大会】
本川紗奈生、高橋未来/サイン入りミニトートバックのプレゼント(グッズ購入者から抽選)

【石川大会】
赤穂さくら、ひまわり(石川県出身)/お箸、缶バッチ(ひまわりがイラスト作成)
※2500円以上購入の場合、同デザインのステッカープレゼント

【神奈川大会】
美口まつり(神奈川県出身)/ミニ提灯

【愛媛大会】
篠原華実(愛媛県出身)/手ぬぐい、ヘアクリップ、ステッカー3種類

【大田大会(東京)】
バイ クンバ ディヤサン(セネガル出身。大学4年間を東京で過ごす)/缶バッチ
薮未奈海(東京都出身)/ミニポーチ

【佐世保大会(長崎)】
永田萌絵(長崎県出身)/ステッカー
木村亜美(福岡県出身)/缶バッチ

【岡崎大会(愛知)】
馬瓜エブリン(愛知県出身)/アロマキャンドル

【千葉大会】
渡部友里奈、田嶋優希奈(ともに千葉県出身)/ブランケット

【刈谷大会(愛知)】
髙田真希(愛知県出身)/トランプ

◆選手と話し合いながらグッズを作成
シーズンを通して様々な仕掛けを実施

 選手考案グッズの作成は、選手が何を作りたいか考えることから始まり、予算の中での価格設定なども今井さんとともに進めていく。「それこそ、ロットという言葉も使いましたし、このグッズの値段は高いのではなく原価がこの金額だからだよと。だからこれを買ってくれるファンの方たちに感謝だねといった話もしました」という。

「でも、選手にとっても知らないことを知るって面白いと思うんです。確かに手間もかかるし、選手には時間も取らせてしまったとは思いますが、楽しんでやってくれたし、何よりファンの方が喜んでくれていたので、(シーズン最後まで)続けようと思いました。そこは他チームとの差別化もできたかなと感じています」と、今井さんは振り返る。

 広報の立場から見ても、選手たちがSNSを通してグッズを宣伝することは、大きな情報拡散にもなった。さらに、「選手と出身地の話や小学校時代の話などの会話をしていくと、自然と仲も深まっていくので、そこは私にとっては副産物でした」といったプラスもあったようだ。

 ほかにも、グッズではグラフィックデザイナーのMQとのコラボグッズも展開。「ブレックスにいた頃、かっこいい絵を描くデザイナーがいるなと思っていたら、その方が高校の2学年上で一緒にプレーしていた先輩だと知って。ぜひデンソーでグッズを実現したいと思ったので、シーズン後半の盛り上げとして12月からコラボグッズを販売しました」と、その経緯を教えてくれた。

◆『選手推し』から『箱推し』に
愛されるチームを目指して

 先にも挙げたように、今井さんには一番はファンが求め、そして喜ぶグッズを提供したいという思いが強い。取材中、その熱は、発せられる言葉からも強く感じた。

「選手も引退や移籍があるので、ずっとチームにいるとは限りません。でも、そうなっても永続的にデンソーアイリスというチームを好きでいてほしい。日本のファンの方は個(選手)につくことが多いと思うのですが、個から入っても最終的には箱推しになってほしいなと思っています。まずは個でいいからファンになってもらい、そしてアイリスを少しずつ知ってもらって、『アイリスのみんなが好き』となるのが私の理想。グッズはその一つのキッカケになってくれればと思っています」

 今シーズン、全試合に帯同したという今井さんは、試合が始まればコートエンドでSNS用の映像を撮るが、試合開始前は売り場に立って自らグッズを販売した。「そこで直接お客様の声を聞くことができたので、すごく勉強になりました。SNSやグッズに落とし込むことができたと思います」と、言う。

 試合会場でここまで何役もこなすスタッフはそういないかもしれない。話を聞いたのはシーズンを終了し、チームのファン感謝祭も終えたあと。「企業チームなのでバスケット部から社員、会社を元気にすることも大事です。ただ、エンタメ性やファンの方の気持ちも大切にしたチームでありたいと思っています」と、今井さん。「今年はビギナーズラックのようなものだと捉えていて、来シーズンまたファンの方の期待に応えられるような、むしろ超えられるようにしていきたいです。せっかくアイリスの試合見に来てくれるのだから、その会場でしか買えないものをまた作りたいなと思っています」と、すでに新シーズンに向けて動き出している。