◇25日 サッカー パリ五輪アジア最終予選兼U―23アジア杯準々決勝 日本4―2カタール(ドーハ)

 日本はいかにして数的有利を生かしたのか。1―1で迎えた前半41分、カタールGKアブドゥラーが細谷の腹を蹴って一発退場になった。それまで5―4―1という守備的な布陣でカウンターを狙っていたカタールは、トップを下げて5―4のブロックで守るという極端な戦術で対応してきた。

 トップの選手がいなくなれば、日本はカウンターのリスクが減り、DFラインへのプレッシャーが減るため、ボールロストのリスクも少なくなる。そんな圧倒的に有利な状況で、いかにしとめるか。大岩監督は後半に入ると中盤の松木に代え、FWの藤尾を入れて細谷との2トップ、4―4―2システムに組み替えた。さらに藤田とダブルボランチを組んでいた山本が中盤を幅広く動いて攻撃に厚みを加えた。

 しかし後半4分、不用意なファウルでFKを与え、これをヘッドで決められて逆転されてしまう。それでも日本は慌てなかった。

 右サイドを軸にサイド攻撃を繰り返し、後半22分にはCKから木村がヘッドで決めて同点。後半38分には佐藤に代えて左サイドアタッカーに平河を入れ、左からのサイド攻撃も活性化した。両サイドバックも積極的に攻撃参加し、両サイドから攻め立てる。しかし、どうしても5―4のブロックで固めたゴール前を崩せない。

 そんな中、大岩監督が勝負手を打った。後半追加時間6分、右サイドの山田に代え、荒木を投入。その荒木は右サイドから中へと流れてくる。山本は右サイドの崩しに加わり、荒木がトップ下に入る形となった。これが日本の攻撃に大きな変化を与えた。それまでなかった、中央からの崩し。

 延長前半11分、荒木が最高のパスを繰り出す。FKからボールを動かし、中央の藤田がトップ下の荒木に縦パス。受けた荒木は素早く右斜め前の細谷にラストパス。右45度、細谷は得意な形に持ち込み、GKの股間を抜くシュートで決勝ゴールをたたき込んだ。

 守りを固めてくる相手を崩すのにサイド攻撃は有効だ。ワイドに攻めて相手を揺さぶり、クロスを入れる。しかし、ゴール前を5人のDFが固めているとはじき返されてしまう。その堅い守りをこじ開けたのが荒木だった。

 ワイドに攻めれば必ず中央のマークにズレが生じる。そのギャップを生かすためには鋭い縦パスが必要になる。藤田からの縦パスを引き出した荒木のポジション取りと、素早いターンからのスルーパス。この攻撃パターンができれば、相手はさらに中央を固めてくる。そうなればよりサイドを崩しやすくなる。

 負ければ終わりの準々決勝。相手は開催国のカタール。最も難しい戦いを大岩ジャパンは勝ちきった。パリ五輪まであと1勝。大きな勝利をもたらした中央突破は、準決勝でも大きな武器となる。

 ◆大塚浩雄 東京中日スポーツ編集委員。ドーハの悲劇、94年W杯米国大会、98年W杯フランス大会を現地取材。その後はデスクワークをこなしながら日本代表を追い続け、ついには原稿のネタ作りのため?指導者C級ライセンス取得。40数年前、高校サッカー選手権ベスト16(1回戦突破)。