◇【大塚浩雄のC級蹴球講座】◇26日 J1第16節 浦和1―2町田(埼玉スタジアム)

 平河悠の突破力が町田に大きな勝ち点3をもたらした。後半7分、下田のパスを受けると一気に抜け出し、シュート。一度はGK西川にストップされるが、その跳ね返りをそのまま押し込み、先制ゴールを決めた。

 直後に同点に追い付かれるが、それでも平河の切れ味鋭いドリブルと突破はさえ渡った。後半23分には左サイドに流れ、そこから中央に切れ込んで浦和DFショルツのファウルを誘う。ゴール正面で絶好のFKを獲得した。

 そして後半追加時間4分、中央に進入してパスを受けると、ナサンホに絶妙のスルーパス。受けたナサンホがショルツのファウルを受け、PKとなった。これを下田が決め、劇的な勝ち点3をもぎ取り、町田が首位をキープした。

 「サンホといいタイミングで目が合ったんで、相手のセンターバックの裏があくなと思った。一瞬の隙を突けたんで、そこが勝敗を分けたなと思う」と平河はPKを奪ったパスを振り返った。プレスをかけ続け、ボールを奪ったらシンプルに縦に入れる町田のスタイル。その中で、平河の個の力は異質の輝きを放っていた。

 浦和のDF陣は強力だ。それは平河も十分に分かっている。「相手のセンターバックと西川選手がいるので、普通に対人で勝ってクロスを上げても、まあ、入ることはないだろうなと分かっていた。いつも以上にクロスの精度とペナルティーエリアまでえぐること、相手のウィークを突けるかというのが大事かなと話していた」と平河。

 ショルツは元デンマーク代表DF、そしてホイブラーテンもノルウェーのアンダーカテゴリーで代表入りしたディフェンダーだ。GK西川も元日本代表。単純にクロスを放り込む力業だけではゴールを奪うことは難しい。4―4―2システムの右サイドで先発した平河だが、後半に入ると中央や左サイドに顔を出し、鋭い切れ込みで浦和DF陣を翻弄(ほんろう)した。

 この日は五輪代表の大岩監督がスタンドから見守っていた。4、5月の五輪予選では左サイドアタッカーとして起用され、切れ味鋭いドリブル突破を武器に、パリ五輪切符獲得と優勝に大きく貢献した。

 パリ五輪では登録メンバーも18人にしぼられ、オーバーエージ枠3人も入ってくるため、狭き門となる。それだけに、この日見せた切れ味は、大岩監督に大きなインパクトを与えたはず。個の力、ドリブルで局面を打開できる数少ない選手。久保建英の五輪代表招集が難しくなっている状況下、その存在感はさらに高まりつつある。楽しみな存在だ。

 ◆大塚浩雄 東京中日スポーツ編集委員。ドーハの悲劇、94年W杯米国大会、98年W杯フランス大会を現地取材。その後はデスクワークをこなしながら日本代表を追い続け、ついには原稿のネタ作りのため?指導者C級ライセンス取得。40数年前、高校サッカー選手権ベスト16(1回戦突破)。