その瞬間にその場でしか味わえない、作りたてのおいしさを味わうというデザートの醍醐味。その魅力を存分に堪能できる、デザートコースを提供するお店が増えています。

 カウンターに腰かけ、シェフの言葉に耳を傾けながら目の前で仕上げられるひと皿、ひと皿に胸を高鳴らせ、香りや温度、音を感じ、味わいを楽しむひとときは、まさに至福の時間。

 とっておきのデザートコースを味わいに、いざ!


体への労わりから始まる“懐石”


現在のコースはサプライズ。過去の「短縮コース」の一例をご紹介します。

 和の要素を取り入れた、華やかで独創的なお菓子を展開する、東京・上野毛の「Patisserie Kyohei Mikami(パティスリーキョウヘイミカミ)」。その世界観をそのままに、オープンの3カ月後となる2023年6月から提供が開始されたのが、完全予約制のデザートコース「甘味懐石」です。


グランシェフの三上恭平さん。

「トシヨロイヅカ」で修業し、カウンターで提供するデザートのお菓子とは異なる独特の表現やシズル感に引かれたというグランシェフの三上恭平さん。

「パティスリーのコンセプトが型にとらわれない和モダンであるように、デザートも日本的な要素を盛り込み、高品質なフルーツを使って、“甘味懐石”という名前の新しいアシェット・デセール(皿盛リデザート)として提供したいと思いました」と、話します。


お箸も並ぶのが特徴。

 スタイルや製法も型にとらわれず、食器は三上さんの出身地である広島の作家によって製作されたものが使われ、テーブルの上にはお箸も。「フォークやスプーンで味わうのとはまた違う、ひと口の感覚を体感していただきたくて」と、三上さん。調理法にも天ぷらや煮つけといった和の技法が組み込まれ、目の前で調理される様子を眺めながら、まるで割烹で料理を味わうかのようなデザートコースが楽しめます。

 内容は毎月変わり、10品から成るコースが基本。より気軽に楽しめる約5品の短縮コースで提供される月もときどきあり、いずれもインスタグラムで前の月に告知されます。今回ご紹介する2024年4月の甘味懐石は、柑橘を主役に、そのほかの季節の食材を織り交ぜた短縮コース。驚きと魅力の詰まった6品を、アルコールペアリングとともに見ていきましょう。

◆自家製甘酒


「自家製甘酒」。

 スターターとして必ず提供されるのが、季節のフルーツを使った自家製の甘酒です。「甘酒の効果で、デザートを食べていくのに向けて、おなかの調子を整えていただくのが狙いです」と、三上さん。

 今回は、米麹に和歌山県・小南農園のブラッドオレンジとショウガを加えて10時間発酵させた甘酒に、レッドキウイ「ルビーレッド」とメロン、ブラッドオレンジのソースをかけ、ミントを添えて。ブラッドオレンジの鮮やかな色彩が美しく、米麹の粒感とやさしい風味に、ブラッドオレンジの果実味と丸みのある酸味が調和して、心と体が癒される味わいに。

◆特製ヨーグルトとグレープフルーツコンポート


「特製ヨーグルトとグレープフルーツコンポート」。

 2品目は、岩手県から取り寄せた種菌に、ジャージーミルクとバターミルクパウダーを加えて、低温でじっくり発酵させた自家製ヨーグルトが主役。まるでモッツァレラチーズのようにもちっとした食感で、さっぱりしていながらもミルク感たっぷり。


もっちりとしたヨーグルト。コースの前半に発酵食を。

 そこにシュトロイゼルと刻んだアーモンド、和歌山県産のフレッシュなルビーグレープフルーツと、その皮に日本酒とカンパリを加えて煮込んだコンフィ、レモンバーム、洋梨と山葵のアイスクリームを添えて。

 グレープフルーツの苦みが清々しさを添え、最後に回しかけたレモンオリーブオイルと洋梨、山葵が心地よく調和。ヨーグルトのさわやかさとマッチします。

◆富士山麓×甘夏ジンジャー


「富士山麓×甘夏ジンジャー」。

 デザートを引き立てるアルコールのペアリングは、飲みやすいカクテルを。甘夏のさわやかな酸味と苦み、ショウガの辛みが清々しく混じり合い、デザートに使われたグレープフルーツの苦みと呼応。

◆創作寿司


「創作寿司」はコースに必ず登場。

 シュークリームの皮を酢飯に見立てた創作寿司も、甘味懐石の定番。シュー生地には、デュラム小麦由来の発酵種が使われ、バゲットのような小麦の濃厚な風味が広がります。


その上に、刻んだ台湾パインを混ぜ込んだサワークリーム、ホワイトチョコレートのガナッシュ・モンテ、ホワイトチョコレート、ミカンの果汁に漬けた長崎県産枇杷、フレッシュな長崎県産枇杷を重ね、表面をバーナーでひと焦がし。

醤油の香りをつける。

 さらにその上に卵黄を塗ってコクを出し、広島県「川中醤油」の燻製醤油、雲丹とホワイトチョコレートのソース、大葉、削りおろしたワサビを重ね、手毬寿司のスタイルに。スイーツに雲丹や醤油の旨みが加わり、食べたことのない深みある味わいに心が躍ります。

◆小夏の煮付け


「小夏の煮付け」。

 4品目に登場したのは、なんとお煮付け! 甘酒と日本酒「八海山」を加えて皮ごと3時間煮込み、仕上げにバターを加えた小夏の、なんと旨みにあふれ、やわらかなこと!


小夏を皮ごと静かに“煮付け”る。

 埼玉県産いちご「べにたま」、濃厚なみかんのようなセミノールのソースとともに盛り付けられ、サワークリームの酸味とコクがアクセントに。さわやかさと甘やかな香りが混じり合い、豊かな余韻を残します。

◆Leffeと苺ミルクのカクテル


「Leffeと苺ミルクのカクテル」。

「小夏の煮付け」に合わせたのは、三上さんが一番好きなビールだという、ベルギー「レフ・ブロンド」に、埼玉県産いちご「べにたま」と生クリームを合わせ、ライムを加えたカクテル。大人のイチゴミルクといったおいしさで、デザートに苦みと旨味をプラス。

◆リオレ・フロマージュ


「リオレ・フロマージュ」。グラスの中身をかけて仕上げる。

 甘夏で炊き上げたお米にココナッツと牛乳を合わせたリ・オ・レに、デコポンとアップルマンゴーをのせ、ベイクド・チーズケーキのベースをのせてオーブンへ。

 焼きたて、アツアツのところに、別添えにした甘夏のジュレとアップルマンゴーをかければ、熱々とひんやりのコントラストが楽しく、柑橘のみずみずしさ弾けるひと品に。お米にサワー種を加え、歯ごたえは残しつつふっくら、口溶けよく炊き上げるのがおいしさのポイント。


米の炊き方まで繊細に。

「冷たいデザートばかりが続かないよう、温かいデザートも必ずお出しするようにしています」と、三上さん。

◆柑橘のパルフェ


「柑橘のパルフェ」。

 フィナーレのひと品は、柑橘の香りあふれるパルフェです。トップを飾るは、羽衣のように儚くて甘酸っぱい甘夏のチュイールをまとった、笹の宇治抹茶のアイスクリーム、花のような竹炭のチュール。

 その下から日本酒のヨーグルトのアイスクリーム、フロランタン、田村みかんのフォームが現れてさわやかさと食感を添え、とろりとしたよもぎの草餅と、黒豆と大納言小豆の自家製餡が、和の香りと味わいを力強く印象づけます。


要素を静かに重ねていく。

 そして最後は、清見オレンジと八朔、田村みかんのムース、埼玉県産いちご「べにたま」がフレッシュ感を放ち、バラと山椒のわらび餅が異なる表情を感じさせつつやさしく調和。めくるめく現れる多彩な食感、味、香りのハーモニーを心ゆくまで堪能できます。

◆ヴィーニャス・デ・オロ×白ブドウ林檎


「ヴィーニャス・デ・オロ×白ブドウ林檎」。

「柑橘のパルフェ」には、バラやモモ、リンゴのニュアンスを感じさせる、ブドウで作られたペルー産ピスコ「ヴィーニャス・デ・オロ」に、広島県三次ワイナリーの白ぶどうジュースと皮ごとすりおろしたりんご「フジ」、トニックウォーターを合わせたカクテルを。


意識をスイーツに集中できる空間。

「何が出てくるのか分からないワクワク感を楽しんでいただきたいので、お品書きは、すべてのデザートをお出しした後にお渡ししています」と、三上さん。

「和の要素を取り入れながらも奇はてらわず、あくまでもスイーツの枠に収めておいしさを表現するのが、毎回悩むところ。一般的なアシェット・デセールとはひと味違う、『ここに来てよかった』とお客様に思っていただけるような、僕ならではのデザートコースをこれからも提供していきたいと思います」。


グランドシェフ 三上恭平さん

1986年、広島県生まれ。「ペール・ノエル」を経て、「トシ ヨロイヅカ」で腕を磨き、スーシェフを務める、スイーツを専門としたコンサルタントとして活躍するとともに、2023年、「Patisserie Kyohei Mikami」をオープンし、グランドシェフとして菓子やチョコレート、デザートを手掛ける。

Patisserie Kyohei Mikami(パティスリーキョウヘイミカミ)


パティスリーの全景。コースの場合は左のドアから入る。

所在地 東京都世田谷区上野毛4-22-2 KAYAH KAMINOGE 1F
電話番号 03-5491-5181 
営業時間 13:00〜18:00
定休日 不定休
Instagram @patisserie_kyohei_mikami

甘味懐石

料金 10皿コース(アルコールまたはノンアルコールペアリング)26,000円、短縮コース(アルコールまたはノンアルコールペアリング)16,000円。内容は月替わり。
開催日時 開催日はインスタグラムにて告知。時間は11:00〜、17:00〜。
営11:00〜、17:00〜
※予約はInstagramのDMにて受付。

文=瀬戸理恵子
写真=鈴木七絵