ボラス氏が寒さを不振の要因に挙げたワケ

 米大リーグ、メッツ傘下の3Aシラキュースの藤浪晋太郎投手(30)は開幕からマイナー生活が続いている。シラキュースでは5月7日までリリーフとして9試合に登板し、7回2/3で19四死球という制球難に苦闘する。防御率は14.09でメジャー昇格には、ほど遠い数字だ。あまりの惨状に、日本球界復帰が囁かれ始めたのだが……。

 スポーツメディアによると、藤浪の代理人を務める辣腕のスコット・ボラス氏が6日にドジャースタジアムで取材に応じ「藤浪はメジャーレベルの球威を持っている。制球力が戻ればやれる」と改めて160キロ超の直球を放れる潜在能力の高さをPRした。

 ボラス氏は「彼のいる場所は本当に寒い」とも語り、現在の不調の理由に気候を挙げた。

「確かにシラキュースの春先は寒いし、チームの遠征先も同様に気温が上がらないところがあります。裏を返せば、寒くなければ、ここまでコントロールを乱すことはないということをボラスは言わんとしている。メッツにメジャー昇格をアピールするだけにとどまらず、他球団にトレードを検討するよう秋波を送っているのだと思います」(米大手マネジメント会社の代理人)

 藤浪は昨季、アスレチックスからオリオールズにトレード移籍すると、リリーフとしてチームのア・リーグ東地区制覇に貢献した。オフにはフリーエージェント(FA)となり、渡米時に希望していた先発ではなく、リリーフとしてメジャーで生き残る道を選択。今季はメッツと年俸335万ドル(約5億2000万円)で単年契約を交わした。

 年俸はメジャーの昨季の平均453万ドル(約6億7000万円)にも満たない額だが、メッツにはまだ多くの未払いが残っている。現段階でこの契約を引き継いででもトレードで獲得しようとするメジャー球団が現れるとは思えない。

「もう少しシーズンが進んで、けが人などのチーム事情が理由になり、未払い部分が減ったら(藤浪を)取りに行く球団はあるかもしれませんが……。それでも、今のコントロールを修正しない限りは厳しいでしょう」(前出の代理人)

阪神にも日本ハムにも藤浪の働き場所はない

 それゆえ、一部メディアでは、7月末に設定されているNPBの移籍期限までの日本球界復帰が取り沙汰されているのだ。候補に挙げられるのは阪神や日本ハムである。阪神は岡田彰布監督が藤浪の去就が未定だった昨オフに復帰を検討したとされる。日本ハムは新庄剛志監督就任直後に獲得を熱望し、再生に意欲を示した過去がある。

 さる元NPB球団監督はしかし、両球団が獲得に乗り出すことに懐疑的だ。

「今の阪神と日本ハムに藤浪が割って入る余地はあるでしょうか。投手は何人いても困ることはないとはいえ、特に阪神は投手陣の駒がそろっています。日本ハムも新庄監督が進退を懸けて臨んでいる今季は上位争いに絡んでいます。藤浪を欲しがっていた就任1年目の時とはチーム状況が違います」

 その他のNPB球団の獲得の可能性にも、元監督は否定的だ。

「シーズン途中に補強するということは即戦力として使いたいということ。先発としてもリリーフとしても、今の藤浪のように投げてみないと分からない状態では手を出しづらいでしょうね」

マイナーでも筒香と重なる前向きさ

 オフに入っても展望は明るくない。その時のチーム事情で獲得に動くNPB球団が出てこないとは限らないが、オファーはここ2年の藤浪が手にしたメジャー契約には遠く及ばないに違いない。

「メジャー帰りという話題性に加え、球の強さや故障がないという持ち味はあります。しかし、もう潜在能力だけで評価される年齢は過ぎ去っています。日本の球団のオファーが阪神の最終年(2022年)の年俸(推定4900万円)を大きく上回るとは思えません」(在京セ・リーグ球団編成担当)
 
 メジャー昇格も日本復帰も見通しが立たないとなれば、藤浪の進路の選択肢は大幅に狭まってくるのだが、前出の米大手マネジメント会社の代理人は意外な選択肢を口にする。

「今後もマイナー暮らしが続いたとしても、メジャーを目指していくかもしれません。藤浪自身はアメリカでの生活にフィットしているようですから」

 マイナーに耐え続けた選手では、近いところでは筒香嘉智外野手(現DeNA)が思い浮かぶ。昨季はメジャー昇格がなく、今季もマイナー契約の招待選手としてジャイアンツの春季キャンプに臨んだ。そして今季序盤に日本球界に復帰したものの、最後まで米国に未練を残した。

「藤浪はボラスも認めていたように、積極的に英語を話し、チームメートと打ち解けようとしています。通訳なしでも十分にコミュニケーションを取れています。初めてのマイナー暮らしでも前向きさは失っていないようです。筒香と重なるところもあります」

日本復帰は引退覚悟?

 前出の代理人はこう指摘した上で、藤浪がマイナーでも米球界に固執する理由を強化する。

「阪神では制球難に苦しみ、注目度が高い環境を変えることで打開しようというのがメジャー挑戦の動機の一つになっていました。アメリカ行きは長いスランプから抜け出し、プロ入り当初の輝きを取り戻すためのラストチャンスと捉えていたはずです。このまま結果を出せないで日本に帰れば、今度こそ引退と隣り合わせになることは本人が誰よりも分かっていると思います。独身でもありますし、やれるだけやろうと。そう簡単に日本には戻ってこないとみています」

 ボラス氏は「私たちが与える情報も理解できる」と藤浪のクレバーさを認めている。藤浪が自らを追い込むことになる今夏の日本球界復帰を、拙速に決断する可能性は低いのかもしれない。

デイリー新潮編集部