直後に“最下位”転落

 プロ野球中日の立浪和義監督(54)が5月3日のヤクルト戦(神宮)で、「6番・中堅」で先発出場していたプロ4年目の成長株の三好大倫外野手(26)を途中交代させた采配が波紋を呼んだ。試合中盤に三好が犠打に失敗すると、直後の守備からベンチに退かせた。いわゆる“懲罰交代”だった。

 中日は4月、約8年ぶりに単独首位に立つなどシーズン序盤に主役の座に就いた。それが一転、翌5月4日には指定席だった最下位に落ちるなどした。チーム内からは2年前の「悪夢」を重ね合わせる声も出ている。

 三好の犠打失敗の場面を詳細に振り返ると、場面は0−3の四回無死一、二塁だった。チームは2連敗中で、この日も劣勢を強いられていた。バントで確実に2人の走者を送り、反撃につなげたかった。

 一、二塁での犠打はフォースプレーで、一塁手がけん制に備えてベースにつく必要なくチャージできるため、バントが上手な選手ですら難度が上がる。大きなプレッシャーが掛かる中で三好のバントは捕手の前に転がり、三塁から一塁に転送されて併殺打に。二死二塁となり、追い上げムードは一瞬でしぼんでしまった。

 この回が無得点に終わると、三好はその裏の守備から姿を消した。試合も3−5でサヨナラ負けを喫した。スポーツメディアによると、立浪監督は試合後、三好について「バントが成功しても点が入ったかわからない。けれど打てる、打てないより、そういうことができないといけない」と語っている。

 確かに打線がその後、3点差を追い付く粘りを見せただけに、三好の犠打失敗はより手痛いものとなった。バントした直後には一瞬立ち止まり、一塁へと走らないなど隙も見せていた。さらに三好はその前の二回の守備で、自身への平凡な飛球でタッチアップを許しており、立浪監督からは「浅いフライで簡単にホームに戻ってこられてもいけない」と苦言を受けた。「チャンスをもらっている選手」(立浪監督)でありながら、攻守に確実性を欠けば、三好のために出番を失っている選手の手前、ペナルティーが要るとの采配は一定の説得力はあるのだが……。

“京田事件”を想起

「問題は試合中に罰を与えるかどうかということでしょう。昔は珍しくなかった懲罰交代も、選手を尊重するようになった今はほとんど見られなくなりました。以前でさえチームに緊張感を与えるプラス面と、萎縮させるマイナス面がありました。今の選手は後者の悪影響の方しかないのではないでしょうか」

 さるチーム関係者はこう指摘した上で、今回の三好の交代で立浪監督の就任1年目の2022年、京田陽太内野手(現DeNA)を巡る一件を思い出したという。DeNA戦で拙守を犯した京田に対し、立浪監督は「闘う顔をしていない」と、試合中に横浜から名古屋に送り返した、あの一件である。

「当時も他の選手に萎縮を招いていました。監督はこういうことをするのかと……。ここから選手は敵のチームではなく、ベンチと勝負する状態になっていきました」

 チーム成績への悪影響はてきめんで、それまで貯金1と奮闘していたが、一気に下降線を辿った。奇しくも、京田の“強制送還”は5月4日、今年の三好の懲罰交代と同時期だった。

 立浪監督は今季、3年契約の最終年を迎えた。昨オフには中田翔内野手、中島宏之内野手ら実績ある選手を他球団から補強した。首脳陣の人事でも2軍監督だった盟友、片岡篤史氏をヘッドコーチに据えるなど背水の陣を敷いている。

観客動員への貢献度でクビは切れない?

 とはいえ、親会社が設定する続投のノルマがリーグ優勝というわけでもない。

「立浪監督は、采配ではファンから賛否両論ありますが、観客動員への貢献に関しては、掛け替えのない存在と親会社は評価しています。今季もお客さんの出足は好調です。スポンサーにも立浪監督の名前がものを言うことが少なくありません。12年を最後に遠ざかっているクライマックスシリーズ(CS)に進めば、続投は間違いないところでしょう」(前出の球団関係者)

 ここまで中日の本拠地バンテリンドーム名古屋での観客動員は、開幕ダッシュの好影響もあり、5月12日現在で1試合平均3万2476人と、昨季の3万333人を大きく上回っている。2トップの阪神、巨人は4万人前後だが、東京、大阪と比較した名古屋の都市規模を踏まえると、大健闘と言える。

 これまで次期監督候補は、日本代表の井端弘和監督や中日の和田一浩打撃コーチらの名が挙がってきた。いずれも現役時代の実績では監督の資質を備えているものの、中京圏においての立浪監督のネームバリューは他の追随を許さない。

「今年は4位や5位だとしても昨季までの最下位から順位を上げたことになるので、続投は十分にあり得ると思います。もともとは5年契約ではないかとの見方があります。ドラゴンズでは待望の生え抜きの元スター選手の監督ですから簡単にクビを切ることはないのではないでしょうか」(同)

指揮官の自制心が浮沈の鍵

 だとずれば仮に3年連続最下位に終わっても、最後までCS進出を争うなど来季に希望を持たせる戦いぶりなら、続投の選択肢は排除できないだろう。ある元NPB球団監督はこう予想する。

「セ・リーグは各チームの力が接近していて、中日にも上位に絡むチャンスはあります。こういう時こそ、選手の持っている力を引き出し発揮させる采配が大事になってきます」

 三好は件の試合を境に、スタメンから外れるなど出番が減った。チームは3カード連続で勝ち越しなしと一進一退だ。

「中日の選手に限らず、懲罰を受けることで反骨心に火が付き、奮起するような選手はいなくなりました。PL学園の先輩や星野(仙一)監督のチームで厳しさを知る立浪監督ですが、2年前の二の舞を避けるため、これ以上は選手を萎縮させるだけの采配を控えた方が賢明ではないでしょうか」(同元監督)

 指揮官の自制心もチームの浮沈の鍵を握っている。

デイリー新潮編集部