新人王の最有力候補

 毎年多くのルーキーが入団してくるプロ野球。今年は草加勝(中日)、下村海翔(阪神)というドラフト1位の投手2人がいきなりトミー・ジョン手術を受けて長期離脱となっているが、その一方で一軍の戦力として活躍している選手も少なくない。そんなルーキーの“現在地”をまとめてみた(成績は5月20日時点)。【西尾典文/野球ライター】

 投手で期待通りの活躍を見せているのが、武内夏暉(西武1位)と西舘勇陽(巨人1位)だ。武内はプロ初登板となった4月3日のオリックス戦で7回を被安打1、無失点という快投でプロ初勝利をマーク。4月中旬には一度二軍での調整を挟んだが、ここまで6試合に登板して3勝0敗、防御率1.43という見事な成績を残している。

 特筆すべきは、試合を作る能力の高さ。ここまで6試合全てで7回以上を投げて自責点3以内であり、球数も103球以内と非常に少ない。左投手でありながら、右打者に強い点も大きな特長である。このまま順調にいけば、二桁勝利の可能性が高く、新人王の最有力候補であることは間違いない。

 一方の西舘も開幕からセットアッパーに定着すると、デビューから10試合連続無失点、10試合連続ホールドを記録。4月26日のDeNA戦と30日のヤクルト戦と2試合連続で打ち込まれて連敗を喫するも、ここまで16試合に登板してリーグトップの13ホールドをあげている。

 ただ、この2人に関しては即戦力という呼び声も高く、スカウトもここまでの活躍に驚きはないという。

「一軍でここまでできるとは」

「武内は(国学院大)4年生の時のピッチングができれば、プロでも十分先発でできると思っていました。内角のストレートの勢いと角度は素晴らしいです。強いて言えば、スライダー系の変化球がもうひとつで、ツーシームとチェンジアップが見極められてからどうかというのはありますが、コントロールも良いので、そこまで大きく崩れることはないでしょう。西舘は、リリーフが良かったと思いますね。(中央大の)4年秋に変化球が一気に良くなりました。起用法については様々な意見がありますけど、そこは首脳陣の判断ですからね。将来的には先発での起用も考えているのではないでしょうか」(東都大学野球担当スカウト)

 野手では、度会隆輝(DeNA1位)と佐々木俊輔(巨人3位)が大きな戦力となっている。度会は開幕戦でいきなりスリーランを放つと、翌日もホームランを含む4安打の大活躍を見せた。4月26日の巨人戦で満塁ホームランを放つも、5月に入るとベンチスタートが続き、5月16日に一軍登録を抹消されている。

 佐々木も開幕から外野の一角に定着。打率は.250前後を行き来しているが、得点圏打率は3割を超えているおり、守備と走塁でも存在感を示している。佐々木の活躍には他球団のスカウトからも驚きの声も出ている。

「東洋大時代からよく見ている選手ですけど、正直、いきなり一軍でここまでできるとは思っていませんでした。特に、バッティングの思い切りがよくなって、速いストレートに力負けしていませんよね。スイングのスピードがあって、あれだけ力強くバット振れるのは魅力です。(大学卒業後に進んだ)日立製作所で良くなったとは思いますけど、プロでもさらに成長しているように見えます」(パ・リーグ球団スカウト)

楽天にとって“嬉しい誤算”

 このスカウトの話すように、佐々木は帝京、東洋大と名門チームでプレーしてきたが、大学時代に打率3割を超えたシーズンは一度のみ。ベストナインなどのタイトルを獲得した経験もない。

 巨人のスカウトの話では、社会人1年目に出場した日本選手権でセンター左に放ったホームランが強烈な印象を残し、そこから熱心にマークするようになったという。社会人野球の日本選手権は、ドラフト会議後に行われることもあり、全国大会にもかかわらず、視察しているスカウトは多くない。そこでのプレーを見逃さなかった巨人の勝ちと言えそうだ。

 もう1人、予想外の活躍を見せているのが、松田啄磨(楽天4位)は、献身的にチームのブルペンを支えている。ここまで勝利やホールド、セーブはないものの、6試合13回を投げて、防御率は2.77をマークしている。4月13日のロッテ戦では、発熱で急遽登板を回避した荘司康誠に代わり、緊急先発を任され、4回を1失点と好投を見せている。

 松田は大阪産業大時代、4年春のリーグ戦で7勝0敗と素晴らしい成績を残しているものの、全国大会の出場がなく、関西でも知る人ぞ知る投手だった。松田を視察したスカウトは「育成で獲得できるなら面白い選手」と話すなど、評価は高くなかった。身長186cm、体重74kgと体つきは頼りないため、即戦力ではなく、数年後の戦力として考えるのは当然で、楽天にとっては“嬉しい誤算”と言えるだろう。

ルーキーは「体力面で躓くことが多い」

 昨年も育成ドラフトで入団した松山晋也(中日)がいきなり一軍のセットアッパーとして大活躍を見せたが、毎年、下位指名でも早々に台頭してくる選手がいる。

「大学生でも社会人でも、当然ですが、プロに入れば周りのレベルが一気に上がることになります。そのレベルに達するまでに時間がかかるのは一般的ですが、中には、すぐに順応することができる選手もいるんですよね。あと大事な点は、やはり体の強さです。プロのシーズンは長いですから、体力面で躓くことが多い。こういう部分は、(出場した試合を)ちょっと見ただけではなかなか分からないので、難しいところです」(前出のパ・リーグ球団スカウト)

 シーズンは100試合近くを残しており、ここまで順調なルーキーも調子を落とすことは十分に考えられる。その一方で、驚きの進化を遂げて、ここから一軍の戦力になる選手が出てくるはずだ。予想外の“新星”が飛び出してくることを期待したい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部