米国の出生数は下落の一途

 米疾病予防対策センター(CDC)の下部組織である国立衛生統計センター(NCHS)は4月25日、米国の昨年の出生数が過去約40年での最低水準に落ち込んだことを明らかにした。

 NCHSの暫定データによれば、昨年の出生数は前年比2%減の359万人と、約340万人だった1979年以来の低水準だった。

 新型コロナのパンデミックの初年度にあたる2020年、米国の出生数は前年比4%急落した。その反動を受けた2021年は1.3%増と7年ぶりに増加したが、2022年は0.1%減で再び下落に転じている。

 米国の昨年の合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に出産する子供の数)は約1.62で、人口置換水準(置換率 、現在の人口が増加も減少もしない均衡した状態を保つための出生率)である2.1を大きく下回っている。

 NCHSは「米国の合計特殊出生率は1971年から下がり始め、2007年以降は一貫して置換率を下回っている」としている。

少子高齢化の波が世界に押し寄せる

 米国は2020年時点で国連が定義する「高齢社会(全人口に占める65歳以上の人口の比率が14%超)」となっている(高齢化率は15%超)。

 出生数の減少は、米国の少子高齢化をさらに進めることになるだろう。

 少子高齢化に伴い、米国で「祖父母休暇」制度を導入する企業に注目が集まっている(5月6日付クーリエ・ジャポン)。この制度は「孫の誕生などの際、従業員に有給休暇を与える」というものだ。祖父母にあたる年代の労働人口が増加していることに加え、保育料の高騰が背景にある。

 日本を始めとする東アジアやドイツ、イタリアほどではないが、米国も今後、少子高齢化の弊害に苦しめられることになりそうだ。

 少子高齢化の波は東南アジアにも及んでいる。国連の推計によれば、東南アジア11カ国の全人口に占める生産年齢人口(15〜64歳)の比率は今年から下り坂に入るという。ピークを迎えた昨年は68%だった。

無縁とみなされているアフリカも…

 生産年齢人口(15〜64歳)の比率がピークを迎えた昨年は68%だった。ピークの年を個別で見ると、タイは2013年、ベトナムは2014年。人口2億7000万人で域内最大、世界第4位のインドネシアでも、2030年には生産年齢人口比率が低下し始める見通しだ。

 東南アジアにおいて、「豊富な労働力が経済を押し上げる」という成功の方程式は既に失効したと言っても過言ではない。東南アジア全体の高齢化率は2019年に節目の7%を超え、「高齢化社会」入りした。そのため、2043年には高齢社会に達する可能性が高い。

 中でも深刻なのがタイだ。「2029年に超高齢社会(高齢化率が21%超)になる」との懸念が生じている(3月28日付NNA)。

 気になるのは、東南アジアの多くの国々が、シニア層が安心して暮らせる安全網(セーフティーネット)を構築していないことだ。一般的に定年が55歳と早いうえに、公的年金のカバー率は4分の1程度にとどまると言われている。

 若年人口が増え続けるアフリカだけは、少子高齢化と無縁だとみなされている。だが今世紀末までに、アフリカ全体の高齢者人口は現在の4600万人から6億9400万人と約15倍に増加する見込みとなっており、各国政府の頭痛の種になりつつある(4月5日付Forbes)。

わずか6年後に人口の流れが変わる

 このような状況を裏付けるように、「世界人口のトレンドは近いうちに転換期を迎える」との研究結果が最近公表された。

 米ワシントン大学保健指標評価研究所(IHME)は3月20日、世界の平均合計特殊出生率は2030年に人口置換水準(置換率 )を下回るとの見解を示した。20世紀以降、急激に増加してきた世界の人口の流れが変わる転換点が、わずか6年後に迫っているのだ。

 IHMEはさらに、世界の平均合計特殊出生率は2050年に1.83人、2100年に1.59人にまで低下すると予測している。このことは、今世紀末までに、ほぼすべての国や地域で人口が減少することを意味する。

 国連はかつて、20世紀は人口爆発の世紀だったが、21世紀は高齢化の世紀となるとの見方を示したが、その“予言”が正しかったというわけだ。

日本は90年代から入った「人口オーナス期」

 少子高齢化は経済成長にとってマイナスだと言わざるを得ない。

 経済学では、生産年齢人口の比率が低下して経済成長を妨げることを「人口オーナス」と呼んでいる。生産を担う人口の減少と高齢者の年金負担のダブルパンチが、経済の障害要因となるからだ。

 少子高齢化により総需要が減少すると、経済がデフレ化しやすい傾向がある。また「少子高齢化が金融政策の効果を減じてしまう」との指摘もある。

 1990年代に人口オーナス期に入った日本で「少子高齢化社会に適した画期的な製品・サービスを生み出すことで成長を維持すべきだ」との主張が繰り返しなされたが、「言うは易し、行うは難し」。

 日本では幸い深刻な事態となっていないが、経済の低迷が社会の混乱を引き起こすのは世の常だ。少子高齢化が国際社会の地政学リスクを高めないよう祈るばかりだ。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部