モータージャーナリストの嶋田智之さんがエンジン大試乗会で試乗した5台のガイ車がこれ! DS4エスプリ・ド・ヴォヤージュ、ジャガーIペイス RダイナミックHSE、ランボルギーニ・ウラカン・テクニカ、マセラティ・グレカーレ・トロフェオ、メルセデスAMG EQE53 4マチック・プラス SUVに乗った本音とは?


気持ちを再確認できる

用意されたガイシャ全36台の中からランダムに5台が割り当てられてステアリングを握るという、ロシアン・ルーレットにも似た唯一無二の試乗体験。自分で選ぶのではないから、まさに“期せずして”。その状況の中で縁の濃かったクルマを見つめ直し、薄かったクルマとの距離を縮めることができる。ときめかないわけがない。EPCメンバーの方と一緒にとりとめのない自動車談義を繰り広げながら走れるのも楽しい。日頃は当たり前で忘れがちな“ホントにクルマが好き”という気持ちを自然と再確認できるのだ。これって大切だと思う。

今、自動車はまさに一大転換期。それでも世界のほとんどのブランドが自分たちの矜持を保ってることを肌で知れたのも嬉しかった。そもそも僕たちはガイシャそれぞれの独自の矜持の持ち方に惹かれてたりするのだ。そこに触れると、やっぱり心ときめく。クルマ好きにつける薬はないな、と思う。




DS4エスプリ・ド・ヴォヤージュ「他に何が必要?」

フランスほど満足度の高いハッチバックを作るのに長けた国はちょっとないよな、といつもながら痛感させられる。フランス人によるフランス人のためのフランスらしい高級車づくりを旨とするDSブランドも然り、だ。そもそも庶民のためのチープなハッチバックからして抜群に上手い!と思わせるお国柄だ。暮らし向きの豊かな人たちのために丹精こらして作ったクルマで、しくじるはずなんてないのだろうけれど。

このDS 4はブランドを代表するかのようなエクステリアのデザイン性の高さとインテリアのエレガントな仕立てで目を満足させ、快適な足腰とシートで心を癒し、爽快な加速で走りたい気持ちをくすぐり、スポーティというより滑らかで素直なハンドリングで操縦する喜びを喚起し、Cセグメントのハッチバックとして何の問題もない実用性だって当然ながら持っている。他に何が必要?不満なんてどこにある?だ。個人的にも相当気に入っている。スポーツ系以外のハッチバックで1台選べといわれたら、僕はこれ。問題があるとしたら、僕には似合わないということだけだ。




ジャガーIペイス RダイナミックHSE「一歩リードしてる」

やっぱり今になってもちょっとばかり衝撃的な存在なんだよな、と思った。このクルマは、とてもいい。

あれは4年半ほど前のこと。僕に一番はじめにBEVの楽しさ、気持ちよさを叩き込んでくれたのは、このジャガーIペイスだった。ワインディング・ロードではビックリしちゃうくらいよく曲がるし安定してるしコントローラブルだし、サーキットではFタイプを追いかけ回せるくらいに速いし、街中では静かで落ち着いてて快適だし、片道150km少々をわりと元気よく走り切って無充電でそのまま復路も元気よく走り切れそうな勢いだったからさほど不安感はなかったし。モーターの強大な駆動トルクと重心位置の自由度を最大限に活かすとこんなに素晴らしいクルマができあがるのか、と心の底から感服させられたのだった。

その印象は今も変わらない。それどころか熟成が効いて旨味まで増し、歴代ジャガー同様の“らしさ”まで手に入れてるように感じられる。今や優れたBEVはほかにもあるが、その点、Iペイスは一歩リードしてるのでは? と思う。うん。やっぱり、とてもいい。




ランボルギーニ・ウラカン・テクニカ「加減が絶妙」

うわっ!なんてサウンドなんだ……と鳥肌がたった。この独特のリズムで複雑なハーモニーを聴かせるV10サウンドはこれまで何度も耳にしているが、やたらと刺激的。官能的・扇情的に感じてしまったのは、ひさびさだったからというより、BEVやダウンサイジング系に代表される無音・静音の時代に、知らず知らず耳と心が慣らされてしまっていたからなのかも。いや、このサウンドだけでイケる。内燃エンジンばんざい!

640psの後輪駆動というのも、えらく刺激的でいい。もうこれ以上速くなくていいと思えるだけの加速力とスピード。加減を少し誤っただけで冷えた路面をあっさり見捨てそうになるパワーとトルク。けれど峠のレベルでもダウンフォースがしっかり効いて、めちゃめちゃスリリングではあるけど、過剰な怖さのようなものは微塵もない。その加減が絶妙。このうえない。だからこのうえない快感。素晴らしく楽しいのだ。

年齢から来るものなのか、いつしか速さの追求に若い頃ほど興味が持てなくなってたけど、はっきりと思い出させられた。まずいな……これは本当に楽しい。




マセラティ・グレカーレ・トロフェオ「このクルマ1台あれば」

絶品といえるGTカーを作るのが世界一巧みなのはマセラティなんじゃないか?と、SUVに試乗して感じさせられたのは、とても新鮮な体験だった。

マセラティにはその名も“グランツーリスモ”という麗しいスポーツモデルが存在するが、セダンやクーペに優れたGTカーがあるのと同様、SUVにだってグランツーリスモを体現するモデルがいくつかある。その中でピカイチを選ぶなら、僕はグレカーレだと思うのだ。とりわけネットゥーノV6を積んだ“トロフェオ”がいい。電動化の時代に突入してから開発された22年ぶりの自社設計ユニットは、加速力も高速巡航性能もスーパーカーの領域、そして何よりサウンドとフィーリングは感嘆符付きで語りたいレベルにある。それらを味わいながらのロング・ドライブが、退屈な時間になるはずもない。何せひさびさに走らせた今回の短時間試乗では、もっと走りたくて身悶えしたほどだ。

当然ながらシャシーも快適性とスポーツ性を見事に併せ持っている。このクルマ1台あれば、人生という長い旅路が間違いなく歓びに満ちたものになるはずだ。




メルセデスAMG EQE53 4マチック・プラス SUV「間違いなく堕落する」

メルセデスはどこまで行ってもメルセデス、BEVになってもメルセデス。そこだよな、とあらためて感服させられた。その一貫性というか、クルマ作りの中心軸にある哲学の強大な存在感。それがすべてを支えてるのであり、そこにユーザーは惹かれるのだな、と。

メルセデスの“らしさ”とは、いかなるときもじんわり“いいクルマだな”と感じさせて、乗り手をいい意味で“いい気”にさせること。僕はそう感じてる。原動機が何であっても、そこに相違はいっさいない。

このクルマもシステム最大で750Nmもあるのに、それを怖いほどの加速にはやればできるくせに結びつけず、すさまじく滑らかでキメの細かい洗練された走りとして表現している。いつしか原動機が何かなど頭から消え去って、低速域ではふんわりと優しく高速域では重厚にして安定感抜群の快適な乗り心地、それにいかなるときも思いどおりに動いてくれる走りの忠実さに、思わず“いいクルマだなぁ”と口元が弛んでる。

こういうクルマに日々乗ると人間は間違いなく堕落する。僕も内心、このクルマで堕落したいと感じてる。

文=嶋田 智之

(ENGINE2024年4月号)