モータージャーナリストの清水和夫さんがエンジン大試乗会で試乗した5台のガイ車がこれ! アルピーヌA110Rチュリニ、シトロエンE-C4シャイン、フェラーリ296GTS、ロータス・エミーラV6ファースト・エディション、マクラーレン・アルトゥーラに乗った本音とは?


たとえ同じV6エンジンでも

今年は免許がなくなりそうなスポーツカーが多かった。EPC会員との会話も少なく、2人でエンジンが奏でる音に聴き入った。例えば最初の296GTS。「たとえ同じV6でもフェラーリはいい音、している」「何が違うのですかね?」「美しい音を発してこそエンジンと決めているのかな」。マクラーレン・アルトゥーラはイタリアンなV6とは異なる音に気がつく。美しいというより迫力満点。「エンジン音は何で決まるのですか?」「各シリンダーの燃焼順序や排気系の構造で決まると思う」「パワーと燃費と音・振動の優先順位ですかね?」「設計コンセプトだよね」。ロータス・エミーラはトヨタ製V6だが過給器を独自に装備。するとほかと異なり、音というより身体の骨に染み入る振動、骨伝導が脳を刺激。「いままでのV6と違いますね」「きっとこれも個性なんだね」。エンジン1つとっても個性があるからこそ、ガイシャは面白い。




アルピーヌA110Rチュリニ「全日本ラリーに出たい!」

V6ミドシップ三連発の後にドライブしたのが、4気筒ミドシップのアルピーヌ。一日で4台のミドシップをドライブできるなんて幸せである。ところでアルピーヌはいまではF1からWECまで世界のトップ・カテゴリーのレースに名を刻むし、最近は量産車ベースの2輪駆動のラリー選手権でも活躍している。これほどラリーが似合うスポーツカーは他にない。そんなラリーの歴史をリスペクトした「A110Rチュリニ」が登場した。チュリニとはモンテカルロ・ラリーで使われる有名な峠の名前だ。軽量化したチューンド・シャシーのおかげで、狭く屈曲したチュリニ峠を攻めることができる。スペックを見ると驚く。車重は1100kgでターボエンジンは300psを発揮。最高速度は284km/h、0-100km/h加速は4.0秒とスーパーカー並のパフォーマンスだ。ステアリングに対する俊敏な動きはライバルを寄せ付けないし、サスペンションは車高調整も可能なので、より低くセットできるし、タイヤを変えればサーキットでの速さを競うこともできる。叶うならこのマシンで全日本ラリーに参戦したいと思ってしまった。




シトロエンE-C4シャイン「異次元の走り」

シトロエンeC4はサイズ的にも日本の道で使いやすい大きさで、実際の使い勝手は良さそうだ。パワートレーンは完璧なバッテリーEVなのであるが、実は同じプラットフォームで作られるエンジン車よりも走りは洗練している。エンジン車のシトロエンC4は最高の乗り心地を提供する上質なファミリーカーであることに疑いの余地はないが、正直に言うと素早い動きはロールとピッチングが大きくなり、フラットなボディ・コントロールは期待できなかった。だが、バッテリーEVのE-C4は重心が低いので異次元の走りが味わえた。サスペンションを固めなくてもロールは気にならない。コーナリングではサスペンションが深くストロークするが、ボディの動きに不安はない。この動きこそ往年のハイドロ・サスを思い起こす。市街地から走行も快適だが、70km/hくらいの準高速はロードノイズも少なくバッテリーEVのメリットを十分に活かして快適ドライブが楽しめる。シトロエンE-C4のバッテリーは50kWhを搭載し、136ps&260Nmのモーターで加速する。以前に乗ったディーゼルC4も良かっただけに、電気かディーゼルかと悩ましい。




フェラーリ296GTS「バーゲン・プライス!」

フェラーリの120度Vバンク角を持つ3リッターの完全バランスのV6から試乗が始まった。バンク内にターボを装備し663psを絞り出す。これに167PSのモーターがアシストするのだ。バッテリーはリアの低い位置に搭載され、その容量は7.45kWh。モーターだけで走れる距離は25kmだが、きっとフェラーリ・オーナーはエンジン音を聞きたくて、EV走行では我慢できないだろう。こんな風に言っている筆者自身も我慢できずに、すぐにEVモードから離脱した。音がないモーターの加速から、美しい音を奏でる強烈なV6の加速。この対照的なパワー感がたまらない。ところで、最速のフェラーリであるSF90XXStradaleは1030psを誇るが、296GTBは830ps。なんと価格は3分の1。公道では1億円もするマシンとあまり変わらないパフォーマンスなので、バーゲン・プライスかもしれない。V8シンパにとってV6はどうなのと不安もある。だが、120度バンクのV6は8500回転も回るし、その音は聞き入ってしまうほどだ。フェラーリはこのV6 PHEVをドライビング・プレジャーの再定義と言っている。隣に座るEPC会員と顔を見合わせて納得した。




ロータス・エミーラV6ファースト・エディション「ハンドリングが最高!」

スポーツカー・メーカーの名門ロータスもそろそろ電動化の準備に忙しい。だが、ICE最後のスポーツカーとなるエミーラを開発したことは執念である。エンジンはトヨタ製の汎用的なV6に機械式過給機を独自に装備し、ミドシップ・スポーツカーとして成立させている。パワーは405psと控えめだが、過給器によるトルクは十分。その気になればパワー・ドリフトは自在にできた(駐車場の特設コース)。ズバリいうとロータスはエンジンを楽しむというよりも、ハンドリングにスイート・スポットがある。コリン・チャプマンはハンドリングのレジェンド・エンジニアなので「意のままに走る」の元祖的な存在だ。とはいえ、エミーラはいままでのロータスの中でも大きめのボディを持ち、軸距は2575mmと長く、後部に荷室もある。シートもロング・ドライブを考慮したソフトタッチなので、疲れをしらない。そう、エミーラは汗をかくリアル・スポーツではなく、大人がグランド・ツーリングできるスポーツカー。BEV時代を見据えて、独自の世界を切り開くその孤高さは昔売れたレコードのシングル盤のようだった。




マクラーレン・アルトゥーラ「紳士が乗るスーパーカー 」

フェラーリがV6エンジンのPHEVで楽しさを再定義したように、マクラーレンも同じコンセプトでアルトゥーラを開発した。まるで示し合わせたように、同じ120度バンクのV6とモーターの競演はこれからのハイエンドのスポーツカーにとっては重要なシステムだと言わんばかり。モーター・スポーツの世界はバッテリーの使い方で勝負が決まるとエンジニアの士気は高い。ということで、むしろマクラーレンはメルセデスのフォーミュラE(FE)のチームを引き継ぎ、2023年からFEに参戦しているし、バッテリーやインバーターをソフトウェアで支配することが、これからのスポーツカーには欠かせないと考えている。アルトゥーラのシステム出力は680psとやや遠慮気味だが、720Nmの最大トルクでフル加速するとやはりアドレナリンが湧きでてくる。思うに、英国のスポーツカーはパッション優先ではなくアンダーステイトメント的で、紳士が乗るスーパーカーの雰囲気を持っている。イタリアン・スポーツがレコードのA面ならブリティッシュはB面的だが、さりとて孤高な存在だった。

文=清水 和夫

(ENGINE2024年4月号)