勤務先のパワハラが原因でうつ病になって休職したのに、「やめてほしい」と会社から勧告された場合、従うべきか悩んでいらっしゃる方もいると思います。そこで本記事では、パワハラが原因でうつ病になり、退職勧告をされた場合の対応の仕方について解説します。パワハラを訴える場合のポイントや慰謝料も併せて紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。

「やめてほしい」は一方的な解雇予告ではなく退職勧告

会社から「やめてほしい」と言われることは、労働者の意思を無視した一方的な解雇予告ではなく、あくまでも「退職勧告」です。一般的に会社が解雇を行う場合は、少なくとも「30日前に予告」するか「30日分以上の平均賃金」を支払わないといけません。言い方や雰囲気によって、やめないといけない雰囲気に感じる場合もあるかもしれませんが、退職勧告の時点では労働者が自由に意思を決定できます。
 
また、労働者の意思決定を妨げるような退職勧告をした場合は、違法と見なされる場合もあります。さらに、退職勧告を労働者が受け入れた場合は、会社都合の退職となり、自己都合とはならないことも覚えておきましょう。
 

パワハラが原因のうつ病は解雇制限により解雇できない

労働基準法第十九条では、業務上の負傷や疾病にかかって休業していた労働者を「療養のために休業する期間」また「その後三十日間」解雇することが禁止されています。これらを元に考えると、今回の「パワハラでうつ病になり休職」というケースは、業務上の疾病であると考えられ、会社側は労働基準法第十九条に違反している可能性があるといえるでしょう。
 
なお、経営不振によって会社側が「整理解雇」をする場合は、「人員削減の必要性」「解雇回避の努力」「人選の妥当性」「解雇手続きの妥当性」の4つの要件を原則としてすべて満たさなければなりません。1つでも満たしていない場合、裁判では不当解雇とみなされ、労働者側の主張が認められやすくなる可能性があります。
 
このように労働者は労働基準法によって守られているため、会社側の対応に問題がある場合は訴訟も検討してみましょう。
 

裁判でパワハラを訴えるなら業務上の疾病に当たるかがポイント

パワハラで相手側を訴えたいときには、業務との因果関係がある「業務上の疾病」と認められ、労災保険給付の対象となるかがポイントです。業務上の疾病は、原則として以下の3つの要件を満たす必要があります。

・労働の場に有害因子が存在していること
 
・健康障害を起こしうるほどの有害因子にさらされている
 
・発症の経過および病態が医学的に妥当である

パワハラが業務上の疾病と認められた場合は、裁判で「雇用関係の継続(解雇の撤回)」「解雇期間中の未払い賃金」「慰謝料」を請求できる可能性があります。
 

パワハラで訴えた場合の慰謝料

表1の裁判例を見ると、パワハラで訴えた場合の慰謝料は、個々のケースによって20〜600万円と幅広いことが分かります。
 
表1

判例 慰謝料
D事件(横浜地判 平2.5.29) 30万円
N事件(福岡高判 平20.8.25) 350万円
K事件(横浜地裁 平11.9.21) 60万円
K事件(大分地裁 平25.2.20) 20万円
S事件(東京高判 平27.1.28) 165万円(弁護士費用含む)
S事件(東京高判 平5.11.12) 600万円

※厚生労働省「パワーハラスメントの定義について」より筆者が作成
 
弁護士に依頼をしてパワハラを訴える場合、一般的に着手金は20〜30万円前後、成功報酬が30〜50万円前後かかるため、慰謝料が50万円程度にしかならない場合、割に合わない結果となることも考えられます。
 
そのため、パワハラで訴えるかどうかは、弁護士と相談した上で慎重に判断しましょう。
 

退職勧告は断わることができる

会社から「やめてほしい」と退職勧告をされたとしても、一方的な解雇とは異なるため、労働者が自由に意思を決定できます。例えうつ病で休職していたとしても、労働基準法第十九条で「療養のために休業する期間」また「その後三十日間」の解雇が禁止されているため、すぐに仕事を失うことはありません。
 
万が一労働基準法に違反して会社が強制的に解雇をした場合、パワハラが業務上の疾病と認められれば、裁判で「解雇期間中の未払い賃金の支払い」や「慰謝料」を請求できる可能性があります。
 
ただし、弁護士費用と訴訟額によっては、裁判を起こしても割に合わない場合もあるので、労務問題の経験が豊富な弁護士に相談することをおすすめします。
 

出典

e-Gov 法令検索 昭和二十二年法律第四十九号 労働基準法
厚生労働省 パワーハラスメントの定義について
 
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー