●「毎日注射を…」浦和レッズの右サイドを走り続ける石原広教

 明治安田J1リーグ第12節、浦和レッズ対横浜F・マリノスが6日に行われ、2-1で浦和が勝利した。湘南ベルマーレから今季加入した石原広教は、負傷した酒井宏樹に代わる形で右サイドバックでの先発起用が続く。無骨で愚直なプレースタイルで、浦和の勝利のために限界を超えても走り続ける。

 66分に伊藤敦樹のゴールで浦和がリードを2点に広げたが、石原は歓喜の輪に加わることができなかった。最後は立つこともできず、担架でピッチを後にした。初先発となった試合からちょうど30日間で7試合。身体の限界はとうに超えていたようだ。

「もう毎日注射を打ってます。今日も練習前とハーフタイムに……。もう気持ちです。アドレナリンです」

 先月3日のFC東京戦で酒井宏樹が右膝を負傷し、石原に出番が回ってきた。そこから石原は公式戦7試合すべてに先発起用され、同24日のYBCルヴァンカップ・ガイナーレ鳥取戦では加入後初アシストをマーク。何より、過密日程の中でも先発起用され続けているという事実が、ペア・マティアス・ヘグモ監督からの信頼の証でもある。

「あんま覚えてない」「本当に今日は記憶がない」

 試合後に具体的なプレーについて質問されたとき、石原広教はよくこう返しているが、昨季まで在籍した湘南でもそうだった。煙に巻くつもりというよりは、本当に覚えて無さそうだ。そう思わせるくらい、がむしゃらに、無我夢中にプレーしている。

 まるで短距離種目の陸上選手かと思わせるようなスプリントは、石原の持ち味の1つと言える。必ずパスが出てくるとは限らない。むしろ出てこないことの方が多いかもしれない。それでも無駄走りをやめないのには理由がある。

●「『おとり』でいい」「もう結構ぎりぎりだった」

「使わなくていいです。別に『おとり』でいい。周りの選手の方がクオリティが高いと思っているので。もちろん、自分のアシストも増やしたいですが、それが自分のアシストだと思っている。使われなくても、それは疎かにしないようにしたい」

 横浜F・マリノス戦で言えば、浦和レッズは先制点のシーンのように左サイドからチャンスを作ることが多かった。右サイドは前田直輝が高い位置に張ることも多く、攻撃でも守備でも何度も長い距離をスプリントして味方を助ける動きを繰り返していた。おとりでいいからと、浦和のために走り続ける。

 愚直にそれを続けることは決して容易なことではないはずだ。石原が走ることで、相手の意識は石原に向く。たとえパスが出なかったとしても、石原の無駄走りには意味がある。

 育成年代の頃から積み上げた動きは、頭に刷り込まれ、身体に染みついているのだろう。「湘南の育成のときからとにかく対人を極めようとしていた。(遠藤)航さんが上(トップチーム)にいたときにアカデミーでプレーしていたので、航さんの1対1の映像もずっと見ていた」とそのルーツを明かす。

「今日は自分を褒めてあげたい。もう結構ぎりぎりだったんで」

 身体が悲鳴を上げる限界まで走り続けたマリノス戦後、石原はそう言った。小学生時代から在籍してきた湘南を離れ、25歳となるシーズンに浦和へやってきた。酒井がいる右サイドバックとしての挑戦が簡単ではないことは誰もが理解することだろう。「宏樹君もそろそろ帰ってくるので、助け合いたい」と言うように、自身の立場を理解しながら、「もう今はとにかく自分で頑張りたいです。チームのためにという気持ちが強い」と意気込む。

 強い浦和には、どの時代にも戦える選手がいた。決して器用ではないし、数字に残る活躍はあまりないかもしれないが、それでも石原はチームのために限界を超えて走り続ける。

(取材・文:加藤健一)

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