ジャイアンツアカデミー講師の成瀬功亮さんは“初めの1球”に「チェンジアップ」推奨

 この4月に中学校に上がり、新たなステージに踏み込んだ選手たちも多いことだろう。大きく変わる1つは、小学生では故障のリスクから禁止されている変化球が“解禁”になること。まずどの球種にトライしてみるのがいいのだろうか。元巨人投手で、現在は球団野球振興部で小・中学生への指導に携わる成瀬功亮さんは「チェンジアップがお勧め」と語る。その理由や、実際の握り方・投げ方をアドバイスしてもらった。

 北海道旭川市出身。小3から野球を始めた成瀬さんは、中学では硬式の旭川北陵シニアに所属し、旭川実業高では3年夏の甲子園に出場。育成ドラフトで入団した巨人では2011〜2018年の7シーズンプレーし、引退後はジャイアンツアカデミーコーチを務めている。巨人野球振興部は、東京都内の中学校で教室を開くなど中学軟式のサポートにも力を入れているが、そこで成瀬さんが選手たちに勧める球種がチェンジアップだという。

 チェンジアップとは、ストレートと同じ腕振りながらも、ボールに力が伝わりにくい握りをすることで球を遅らせ、その“奥行き”を使って打者のタイミングを外す球種だ。ゾーンの真ん中から低めへと落ちる軌道で、ストライクを取る球としても決め球としても使える。

 多くの人にとって、変化球の“最初の定番”といえばカーブ、またはスライダーだろう。チェンジアップとは意外にも聞こえるが、成瀬さんがカーブよりも推す理由は大きく2つある。1つ目は、ストレートと同じ腕振りでトライしやすく、投げ始めの選手にとって肩肘への負担も小さいことだ。

「カーブやスライダーは、リリースの際に“ひねる動作”が加わります。特にカーブは変化量が大きく、技術的にも難しい球種です。一方で、真っ直ぐと同様の腕振りながら、ボールが遅れることで打者のタイミングを外すチェンジアップは、技術的にカーブほどの難しさはありません」

 そして2つ目は、「カーブは球審からストライクを取ってもらいにくい」ことだという。

「打者の胸元を通ったものが『高い』と取られたり、ゾーン低めを通っていてもワンバウンドすると『低い』とされたり、球審からストライクをとってもらいにくい球種でもあります。プロの審判でもカーブは判定が難しいと聞くほどです」。真っ直ぐに加えて『ストライクを確実に取れる球種を』と考えると、カーブはより精度が必要で難易度が高まるというわけだ。

注意点は“撫でるような”腕振りになること…肝心の真っ直ぐにも影響

 チェンジアップの握り方はさまざまにあるが、成瀬さんがまず教えてくれたのは“鷲づかみ”だ。文字通り5本の指でボールをつかみ、人差し指、中指、薬指を縫い目にかけて投げる、最も取り組みやすい握り方といえる。また、親指と人差し指で円を描いて握る「サークルチェンジ」もポピュラーな握り方だ。

 そしてもう1つ、上級編として教えてくれたのが、“中指と薬指を縫い目にかけたストレート”の握り方。

「チェンジアップの名手だった金子千尋さん(現日本ハムファームコーチ)の握り方です。通常の真っ直ぐは人差し指と中指を使いますが、かける指を変える分、どれだけ腕を振っても力が伝わりにくく、回転数が弱いために(打者の方に)“全然来ない真っ直ぐ”になります」

 投げる際の注意点は、うまく変化させようと意識し過ぎると、リリースの際、肘から先に出て、ボールを“撫でるような”腕振りになり、肝心のストレートの腕振りにも影響が出てしまうこと。成瀬さんも現役時代、チェンジアップの習得にはこの点で苦労したそうだ。

「撫でるような投げ方だと、打者としても見極めがしやすくなってしまいます。あくまでストレートと同様に、上から叩くイメージで投げてみてください」

 成瀬さんは現役時代、米国で自主トレを行った際に、メジャー通算214勝の剛腕マックス・シャーザー投手(現レンジャーズ)からチェンジアップの握りを直接教えてもらったという。「ツーシームのような握り方で『シェイクするように投げるんだ』と教わったのですが、難しくて全然投げられませんでした(笑)」。

 いろいろな方法を“遊び感覚”で試してみるのが第一歩だ。「変化球習得には、何よりも遊び心が肝心。自分の感覚に合う握り方を見つけてください」と成瀬さんはアドバイスをくれた。(高橋幸司 / Koji Takahashi)